2-9
少し意外な答えだった。
アウラだからてっきり模造品でも作っているとばかり思っていたからである。
「ルビーってどういうこと?」
「ルビーっていうのは、酸化アルミニウムの結晶体で、モース硬度は9。融点は2000度で比重は――」
話が止まらなくなりそうなので、先に「そこ興味ない」と釘を刺す。
「今作ってる指輪にどうしても必要なんだ。酸化アルミニウムの粉を融かして人工ルビーを作ろうと思ったけどうまくいかない……」
あの窯はルビーを作るためのものでもあったらしい。しかし話を聞いている限り、その目論見は成功しなかったようだ。
縦に細いユータスの体。
その体が丸くなり、いつもより小さく見える。落ち込んでいるのだ。
指輪なんてどうするつもりなのだろう。
そもそも仕事なのかもわからない。誰に渡すのかさえ――
目的もわからない。
わかるのは、彼がそれを完成させたいと願っていること。
だから。
背中を。
押したくなった。
「ユータ」
囁くようにイオリはつぶやく。
男か女かさえも判別しずらい中性的な声。
光と闇の境まで進んで、ユータスの前にたたずむ。
伸びた影が床を滴っていき、そのままユータスの顔に張り付いた。
「私、いい方法知ってるよ。闘技場に行けば……きっと解決する」
聞きようによっては、イオリの声色こそ邪妖精の誘いに聞こえたのかもしれない。
だけど当のユータスはそんなこと気にも咎めず、目を輝かせ――知る人が見なければ気づけない程度の変化で――てくれていて。
だからイオリは願いを込めて頼む。
「いっしょにいく?」
ユータスの目が輝く。
それこそ宝石のようにきらきらと。
それが日陰にいるイオリにはまぶしくて。
だから、思う。
嗚呼。
私は。
彼が憎くてたまらない。