2-7
猿は執念の生き物だ。
ある日手を使えばもっと面白くなることを知った。
石を投げれば高く飛ぶ。
石を使えば硬い果実も食べられる。
石を石で削れば武器になる。もっと強くなれる。
どれもこの手でできたこと。
他に何ができる?
石と石をぶつけると火花が出る。
火花をもっと大きくすることはできる?
石を積んだら家ができたよ?
石で木を切ったら薪ができたよ?
石を削って自分そっくりにしてみたよ?
他にどんなことができるの?
知りたい知りたい。
とめどなく溢れる執念に取り憑かれ。
ある日猿は、猿であることを辞めた。
四足歩行をやめてもっと手を動かせるように。
執念という名の服を着て。
彼らはもっと賢くなった。
だってずっと楽しいから。
生きることを楽しいと感じられるのは、人間の特権だ。
イオリは、思う。
自分はユータスのような――突き動かされる衝動を持っているのだろうか、と。
倒れても、腕に管をつながれてもなお、自分であることをやめられない衝動を。
イオリは、思う。
私は本当に人間なのだろうか、と。
自分の胸に宿っているだろうか。
彼のような執念が。