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ドアを開けるとそこは工房でした。
ユータスをグラッツィア施療院に入院させてから早数日。
いつものようにイオリが病室のドアを開けた時だった。
緩みかけた手の力に喝を入れて、差し入れがカーペットの染みになる危機を回避する。
そこはユータスを止めている個室のはずだったのだ。
以前、友達のクレイアも寝ていたことがあるベッドもある。
そこでは今ユータスが眠りについている、はずだった。
天井に所狭しと張られたワイヤー。
そこにぶら下がった生乾きの療養着。
床に転がっているのは泥やら木やらの“材料”の数々。
イオリがシチューを落としかけた原因がまさにこれである。
壁の隅に視線がくぎ付けになってしまう。
そこにあったのは、ごうごうと燃える窯だった。
そう、窯。
ユータスの工房にあるものと比ぶればやや小ぶりだが、窯としての役割は正常に果たしているらしかった。
「お、こんばんは」
今や家主と化したユータスが呑気に挨拶してきた。
よくもまあそんな自然になじめるものだ。ちなみに今は朝である。
「何でかまどがあるの」
「作った」
ユータスの返事は、遊びたいから紙飛行機を作ったといわんばかりに簡単な口調だった。
「まず石を砕いて土と混ぜて粘土を完成させた。それから粘土を固めて長方形の立方体に加工して、レンガをダース単位で準備した。あとは隙間に水と砂利を混ぜたものを接着剤代わりにして、内側から焼いて固めた。遠い雪国の地ではイグルーという家をつくるらしいんだ。雪をブロック状に固めて積み上げる。イオリの国でいうかまくらみたいなものかな? イグルーの中で火を焚くと、内側の壁の層が溶けて、再び凍った時に空気の隙間がない壁になる。それを思い出して焼いてみたんだ。理想の窯ができてよかったよ」
「私の職場で文明つくるの止めてもらっていいですか!?」
見回して、気づく。
机に見知らぬ工具が置かれていた。しかもどれも形がいびつである
「机の工具もどきは?」
「スプーンやフォークを加工してみた」
「銀食器を嫌がったのってまさか……」
銀はやわだからなと言い放つ。いけしゃあしゃあと。
ここでイオリは気づく。




