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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
第一章
11/104

2-1

 この世界は――

 

 ある日、

 ある妖精が、

 ある言葉を発した瞬間から始まった。

 

 “光あれ”と。

 闇はまばゆい光によって覆い隠され、空と大地が生まれ、やがて雲が生まれ、大地には豊かな木々が天に伸び美味なる果実を実らせた。

 その果実を口にしたのが、人間と呼ばれる生き物である。

 やがて人間は家畜を使うことを学び、食べ物を貯めることで冬をしのぐ術を覚え、宝石を飾る楽しさを知った。

 体の健康だけでなく、心の健康にも気遣える余裕ができたというわけだ。


 やがてその人間をたぶらかす魔物が現れた。邪妖精である。

 光は闇を隠しはしたけれど、完全に消し去ることはできなかったのだ。そこに住む者さえも。

 邪妖精は人間にとっての宝を根こそぎ奪っていった。

 家畜を。

 宝石を。

 食料を。

 子供たちを。

 

 柵を作れば飛び越えて。

 壁があれどすり抜けて。

 鍵をかければ隙間から。

 

 狡賢ずるがしい邪妖精たちは根こそぎむしり取っていくのだ。

 だけど賢いのは、人間とて同じこと。

 幾度もの思考を繰り返し、彼らはある閃きに至った。

 

 ――止められないなら盗ませればいい。

 

 家畜の代わりに剝製はくせいを。

 宝石の代わりに土塊つちくれを。

 食料の代わりに枯草かれくさを。

 子供の代わりに人形にんぎょうを。

 

 ダイヤをくすねる烏にガラス玉をつかませるように、邪妖精に偽物を捧げる方法を学んだのだ。

 収穫時にはびこるので、主な活動は秋。

 繰り返すうちに範囲は子供や財産以外にまで広がり、時がたつにつれて年に一度の収穫祭と同時に行われるようになる。

 作業が大規模化したことと、どうせやるならとことんやっちゃえという人々の娯楽主義――というか悪ノリ――によるものである。

 そうして年に一度、秋の終わりと収穫を祝う盛大な宴へと膨れ上がっていったのだ。


 それこそがアウラ。

 九月タマリィ最後の三日間に行われる祭なのである。

 三日間は本物を出来るだけ身に着けてはならず、身にまとう宝飾関係は全てフェイクジュエリーで花は造花。

 作り物であることが絶対条件なのだ。

 そして作り物ということは職人の手がいるということだ。

 事実、アウラは各種職人の腕の見せ所であり、一年で最も過酷な時期となる。

 アウラがまたの名を“偽物祭”と呼ばれる所以ゆえんである。


 さて。

 もちろんのこと若き職人たるユータス・アルテニカもその偽物祭に巻き込まれた一人である。

 ここから話すのは、二人が闘技場に行くことになる一日前の話。

 全て話すと長くなるので要点だけをかいつまむと――


 ユータスは死にました。 


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