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この世界は――
ある日、
ある妖精が、
ある言葉を発した瞬間から始まった。
“光あれ”と。
闇はまばゆい光によって覆い隠され、空と大地が生まれ、やがて雲が生まれ、大地には豊かな木々が天に伸び美味なる果実を実らせた。
その果実を口にしたのが、人間と呼ばれる生き物である。
やがて人間は家畜を使うことを学び、食べ物を貯めることで冬をしのぐ術を覚え、宝石を飾る楽しさを知った。
体の健康だけでなく、心の健康にも気遣える余裕ができたというわけだ。
やがてその人間をたぶらかす魔物が現れた。邪妖精である。
光は闇を隠しはしたけれど、完全に消し去ることはできなかったのだ。そこに住む者さえも。
邪妖精は人間にとっての宝を根こそぎ奪っていった。
家畜を。
宝石を。
食料を。
子供たちを。
柵を作れば飛び越えて。
壁があれどすり抜けて。
鍵をかければ隙間から。
狡賢い邪妖精たちは根こそぎむしり取っていくのだ。
だけど賢いのは、人間とて同じこと。
幾度もの思考を繰り返し、彼らはある閃きに至った。
――止められないなら盗ませればいい。
家畜の代わりに剝製を。
宝石の代わりに土塊を。
食料の代わりに枯草を。
子供の代わりに人形を。
ダイヤをくすねる烏にガラス玉をつかませるように、邪妖精に偽物を捧げる方法を学んだのだ。
収穫時にはびこるので、主な活動は秋。
繰り返すうちに範囲は子供や財産以外にまで広がり、時がたつにつれて年に一度の収穫祭と同時に行われるようになる。
作業が大規模化したことと、どうせやるならとことんやっちゃえという人々の娯楽主義――というか悪ノリ――によるものである。
そうして年に一度、秋の終わりと収穫を祝う盛大な宴へと膨れ上がっていったのだ。
それこそがアウラ。
九月最後の三日間に行われる祭なのである。
三日間は本物を出来るだけ身に着けてはならず、身にまとう宝飾関係は全てフェイクジュエリーで花は造花。
作り物であることが絶対条件なのだ。
そして作り物ということは職人の手がいるということだ。
事実、アウラは各種職人の腕の見せ所であり、一年で最も過酷な時期となる。
アウラがまたの名を“偽物祭”と呼ばれる所以である。
さて。
もちろんのこと若き職人たるユータス・アルテニカもその偽物祭に巻き込まれた一人である。
ここから話すのは、二人が闘技場に行くことになる一日前の話。
全て話すと長くなるので要点だけをかいつまむと――
ユータスは死にました。




