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奴隷を買いに来たら女子高生がいた


「うわぁ。……たっけぇ」


 思わず声に出してしまった。


 金貨30枚。

 家を出たときのためにコツコツと貯めてきた、ダリスの全財産だ。


 金貨1枚は元の世界の日本円に換算するとだいたい10万円くらい。

 つまりダリスの全財産は約300万円ということになる。


 ちなみに銀貨1枚は1万円くらいで、銅貨1枚は千円くらい。

 それより下の貨幣は存在しないので、コレを買うからアレもつけろ、なんて売買交渉がそこかしこでみられるし、貨幣の流通が少ない村では物々交換も盛んだ。


 だというのに。

 ダリスの前に並んでいる商品は、200G(金貨200枚=約2,000万円)だの150G(金貨150枚=約1,500万円)だのと、目が飛び出るような価格が掲げられていた。


 価格の札の隣には『戦闘力』と書かれた札が置かれている。

 200Gの方は戦闘力C、150Gの方は戦闘力D。

 周りを見渡してみると、CとDの札がいくつも並んでいた。


 商品はすべて『奴隷』である。

 ダリスがいるのは街の中心から少し離れたところにある奴隷売り場。

 今朝がた、クラノデア家を出てきたダリスは、一直線にこの場所へ足を運んだ。



 ……正直、なめていた。

 クラノデア家には奴隷が召使いとして何人も働いていたから、奴隷はもっと手軽に買えるものだと思っていた。


 今さらながら、実家の太さに驚きを隠せない。


 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

 ダリスの『買った奴隷を冒険者にして、ダンジョンでお金稼ぎをしよう』計画には、何よりもまず最初に奴隷が必要なのだから。


「あの、すみません」

「……ん? おっとお客様でしたか。どんな奴隷をお探しで?」


 うさんくさい顔をした奴隷商の男は、目の奥が笑っていない貼り付けたような笑顔でダリスに微笑んだ。


「奴隷ってどれもこんなに高いんですか?」


 もっと安い奴隷もいるのではないか。

 それがダリスに残された希望。


「ああ。ここに並んでる奴らはどれも戦奴ですからねぇ」


 せんど? 鮮度がいい的な?

 ダリスはポカンとした顔で「せんど?」と間抜けな声を出していた。


「左様で。戦奴ってのは戦闘用の奴隷のことでさあ。昔はコロシアムで見世物にされてたヤツラですが、アレが禁止されてからは主人を護衛にしたり、留守宅を守らせたり、門番にしたり」


 戦闘用の奴隷、略して戦奴。

 なるほど言われてみれば、ここに並んでいる奴隷はみんな筋骨隆々のマッチョマンばかりだ。女性の奴隷なんか一人もいない。

 つまり、クラノデア家にいる奴隷とは全然別モノだということだ。


「あー、なるほど。ちなみに戦奴じゃない奴隷は――」

「ああ、そっちが目当てでしたか。お盛んですなあ。へいへい、あっちの奥に揃ってますよ」


 目の奥が笑っていなかった奴隷商の目が、とてもいやらしく光っていた。


 奴隷商に連れられ、たどり着いた場所にはたくさんの女性が檻に入れられていた。

 戦奴と大きく違うのは戦闘力の札が置かれていないこと。


 しかし金額の札はというと、140G、120G、120G、130GP…………。

 戦奴よりちょっと安いくらいで、ほとんど変わらない。


 いや、買えないし。


「へっへっへ。どうです、上玉でしょう?」


 奴隷商の下卑た笑い声。

 この世界の奴隷事情に疎いダリスでも、さすがに察しがついた。


 じっくり見れば、どの奴隷も若く容姿の整った女性ばかり。

 つまり彼女たちは、男性の夜を慰めることを目的とした奴隷なのだ。


 もちろん、ダリスが求めている奴隷はコレジャナイ。


 女奴隷たちの檻のさらに奥には、50Gから80Gの値がついた奴隷が並んでいる。

 そちらは体格の小さい男や、容姿がイマイチな女が並んでおり、どうやら使用人や下働きとしての用途を求められた奴隷のようだ。


 ダリスの手持ちは30G。使用人クラスの奴隷すら買えない。

 自分の読みの甘さに自己嫌悪しつつ更に歩みを進めると、暗がりにも檻が並んでいるのが見えた。


「おっと。どこに行かれるんで? そっちには見切り品しか置いてませんぜ」


 見切り品。なんて良い響きだろう。

 迷いのない足取りで奥へ向かうダリスと、いぶかしげな表情で後ろをついてくる奴隷商。

 行きついた場所は薄暗く、鼻をツンと刺激する不衛生なニオイがした。


 やはり、いくつもの檻が並んでいるが、戦闘力の札はおろか値札すら置かれていない。奴隷商は見切り品だと言っていたが、表に出さず、値札すら置かないということは積極的に売るつもりがないのだろう。

 いや、普通に並べても売れないからこんな扱いになっている、という方が正しいか。


 しかし、これこそダリスが求めていた『奴隷』だった。

 他の人たちが一切見向きもしない、売値すら付かない、誰からも価値がないと思われている奴隷たち。ここに眠っている才能を見つけ出すことが、ダリスには出来る。


 ダリスは目に力を込めて、目の前にいる奴隷をじっと見つめた。


――――――――――――――

戦闘力  E

属性   風

勇気   F

集中力  E

反射神経 D

魔力   F

成長速度 E

成長限界 E

――――――――――――――


 八項目をS+、S、A+、A、B+、B、C、D、E、Fの十段階で表す。


 これがダリスのユニークスキル『真・鑑定』だ。

 いわゆる転生ボーナスと呼ぶべきチートスキルである。

 なぜなら、この世界における一般的な『鑑定』では、戦闘力しか測ることができないからだ。


 戦闘力とは筋力(STR)と耐久力(VIT)の総合値。

 それは戦闘の根幹というべきステータスではあるが、戦闘の才能とはそれだけでは決まらない。


 いかに戦闘力が高くとも、

 勇気が低ければ強敵に立ち向かうことはできない。

 集中力が低ければ攻撃を正しく命中させることができない。

 反射神経が低ければ敵の攻撃に反応することができない。


 いま鑑定した奴隷は……残念ながら全てのステータスが並以下だったが、ここに並んでいる見切り品の奴隷たちの中から掘り出し物を見つけることができれば、ダリスはおのが野望へと一歩近づくことができる。


 ダリスは次の奴隷を鑑定しようと、さらに暗がりへと足を進めた。

 しかし、ダリスの足はある檻の前でピタリと止まってしまう。


 もしかして幻を見ているのだろうか。

 檻の中には……女子高生がいた。


 ここは異世界。

 ゲームの中にあるような、中世と近世のヨーロッパをごちゃまぜにしたような摩訶不思議な世界。


 黒い髪、黒い瞳、やや白いがあくまで黄色人種の域を出ない肌色。

 紺のセーラー服に白いスカーフを巻いた日本の女子高生は、この異世界に紛れ込んだ異物であった。




○Tips


【奴隷】

 人でありながら、人としての権利を認められず、主人の所有物として売り買いされる労働力。

 敵国や賊に攫われたり、親に売られたり様々な理由から奴隷が生まれる。


 アメリカで奴隷制度が廃止されたのは1865年、わりと最近のことである。

 もちろん日本にも奴隷はいた。特に戦国時代には、敵国を侵略する際に『乱取り』と呼ばれる大名お墨付きの人狩りが行われていたとされている。

 近代でも貧しい農家の子女が商家に売られる『丁稚奉公』があったが、自由がなく報酬もない(もしくはわずか)ので、これも奴隷の一種であろう。

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