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吸血鬼ですが、何か? 第7部 紛争編  作者: とみなが けい
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別の騎兵チームたちと知り合いになり、会議は終わって…俺達は警察官になった…はなちゃん含めて。…まじですか?

「ジンコ、よくテレビで警視総監と言うのを聞くけど警察庁長官って…」


俺が小声でジンコに尋ね、ジンコが小声で答えた。


「彩斗、警視総監てね、いわば首都警察、東京を管轄する警視庁のリーダーと言う事よ。

 地方の県警本部とかと規模は違うけどあまり変わらない組織よ。

 警察庁と言うのは全国の警察組織を統べる組織でその長官だからよっぽど偉いわよ。

 ここに警察庁長官がいると言う事はね、日本政府、つまり総理大臣とか、政府のお偉方たちもこの事を承知してると言う事なのよ。」

「なるほど、あの男の頭の中を覗いたのじゃがさっきからこれは緊急事態だから緊急事態だからと念仏のように唱えているじゃの。

 面白いの!

 なんか偉そうな者達が並んでいる前で色々言い含められていたようじゃの。

 テレビで見た総理大臣とか言う男や口がひん曲がった人相が悪いギャングのような奴や気弱そうなのに欲深な顔つきの奴やずる賢い私利私欲にまみれた女や…どうも政治家と言う奴らは上の方はろくな奴はおらんじゃの。

 奴らはあの男に頭を抱えながら困った顔をして何かを言い含めていたじゃの。」

「へぇ~、そうなんだ~!

 それは面白いわね~!」


後ろから女の声が小さく聞こえて来た。

俺達が振り向くと後ろの席に座っていた中年の小太り女と両側に座った20代そこそこに見える双子の男が笑顔で俺達を見ていた。


「あら、聞こえちゃったからね。

 ごめんなさい。

 私は第10騎兵ヴァナルガンドの者よ。

 よろしくね。」


女と双子の男、横で居眠りをしていた老人の男が双子の片割れに横腹をつつかれて目が覚めると人懐こい笑顔で手を差し出した。


「あ、俺達は第5騎兵ワイバーンです。

 どうぞよろしく。」


俺達は第10騎兵ヴァナルガンドのメンバーと握手を交わした。

ヴァナルガンドの他にもはなちゃんの声を聞いている者がいるようで、俺達に顔を向けて笑顔で会釈をしている。

俺達も少し戸惑いながら会釈を返した。

そう、ここには初めて会った、俺達と同じように岩井テレサと同盟を組んだ悪鬼討伐チームがいるのだ。

こんな事が起こらない限り顔を合わせる事も無かっただろう。

何か新鮮な想いが湧き、俺達以外に仲間がいるという事を実感した。

見回した限り100人くらいの人や悪鬼が席に着いていた。

そこここでひそひそと自己紹介をしあい、握手を交わしていた。

敵の悪鬼ではなく味方がこれだけいると知って俺達も心強く思った。

だが、そんな俺達に敢えて戦いを挑み襲撃を掛けて来た奴らはどれほどの人数がいるのだろうか?


岩井テレサが立ち上がりマイクを持った。

ざわめいていた会場が静まり、岩井テレサに注目した。


「皆さんが集まったようなので我々が直面している状況を説明します。

 ここには外部の人間もいるので、質疑応答と今後の対策についての説明は後程改めて行います。」


岩井テレサは前置きをしてから、第1騎兵カスカベルと第8騎兵ヤクルスが悪質な別物の討伐に向かった際に奇襲を受け、カスカベルの半数とヤクルスの殆どが殺された事を説明した。

そして襲撃してきた集団が非常に統率がとれた強力な存在で別物と人間の合同チームだと言う事が判明した。

プロジェクターに映し出された低軌道衛星が撮影したと思われる赤外線映像で戦闘の詳細が説明されて、カスカベルとヤクルスが応戦をして謎の集団のうち、別物を13体、人間を7人倒した事を伝えた。


「…互いの損害を見たら完敗だな。

 これは手強い奴らだな。」


四郎が小声で呟いた。


「そして、襲撃を掛けてきた集団は私達が対立するあの組織とは違う事が判明しました。

 対立する組織も同様の襲撃を受け、かなりの損害が出たことをお伝えします。

 私達と対立する組織は一時休戦を結ぶ事となり、共に謎の集団を討伐する事になりました。」


岩井テレサの言葉に会場にざわめきが走った。


「この中にはあの組織との戦いで仲間を失った者達が大勢いると思います。

 はっきり言うと私もとても悩みましたが、このまま無軌道にそれぞれが戦いを進めると破滅的な未来を迎える事は日の目を見るよりもはっきりしています。」


会場の者達が静まりかえった。


「我々は自由意思を尊重します。

 あの組織との合同作戦に参加できないというチームは参加しなくて結構です。

 しかし休戦協定は断固守らなければなりません。

 休戦期間中、あの組織への攻撃は絶対に禁止します。

 この決定に従わずに攻撃を加えたチームは…我々と敵対組織両方を敵に回す事になります。」


静まり返った会場を岩井テレサは静かにゆっくりと見回した。


「反対するチームはいない様じゃの。」


はなちゃんが小声で言った。

岩井テレサとはなちゃんの目が合って岩井テレサは笑顔を浮かべた。


「異議は無いようなので次に進みます。

 我々はこの事態を非常に憂慮する日本政府と協定を結びました。

 この事件、いや、この紛争が解決するまでは私達の超法規的な行いを黙認、そして水面下で協力するという合意を得ました。

 のちほど皆さんにその手続きについて説明いたします。

 こちらは日本政府からの代表の方です。

 今ここで皆さんの前で確認を取りたいと思います。

 どうぞ。」


岩井テレサに指名された警察庁長官が立ち上がった。

事前に余計な事を言わないと言い含められていたのか、警察庁長官は簡潔に俺達の事態終息のための超法規的行動を黙認して水面下で有るが全面的に支援すると宣言した。

続いて、なんと在日米軍の将軍と自衛隊の将官が立ち上がり同じような宣言をした。


俺とジンコは呆気にとられてその非現実的な状況を見つめていた。


挨拶をしたお偉い者たちは拍手も何もなしでそそくさと退散した。

会場には岩井テレサと俺達だけになった。


岩井テレサがステージの中央に椅子を抱えて来て置くと座った。


「さぁ、めんどくさいのは帰ったわね。」


会場に笑い声が起きた。


「あとは私達でざっくばらんにやるわよ。

 う~ん、タバコ吸わせてもらうわよ。

 皆さんでタバコの煙が苦手な人はこっちの方に寄って頂戴。

 強力なエアカーテンで仕切ってあるから大丈夫よ。

 お菓子と飲み物を前の方に置くから欲しい人はどうぞ遠慮なく。」


先ほどまでのきちんとした感じでどこかの政府首脳か歴史ある王族の様な貫禄と威厳を滲ませていた岩井テレサが、今は近所のおばさんのような感じになっていたが、その方が俺達は話しやすかった。

俺達は遠慮なく岩井テレサが用意した美味しいお菓子と飲み物を取りに行った。

リラックスした会場ではそれぞれの騎兵、同盟関係のチームと直属のカスカベル、タランテラ、スコルピオのリーダーが自己紹介した。

俺も指名されてドキドキしながら何とか自己紹介をして、質疑応答の時間に入った。

質問はあまりなかった、次に今回の事態に対する俺達の行動についての説明があった。

関東圏内を大きく3つに分けてそれぞれ、カスカベル、タランテラ、スコルピオが管轄し、事態が収まるまでは俺達同盟チームはそのエリアエリアを管轄する3つのどれかのチームの指揮下に入る事が求められた。

指揮下に入る期間は紛争解決までとし、同時に直属チームが臨戦態勢で待機を続け、何かあった時は直に駆けつけて同盟チームの援護をするという条件で全てのチームが同意した。

岩井テレサが別に組織した調査班が今回の謎の集団のアジトを突き止め、場合によっては対立する組織と共に殲滅作戦を行う事が決まった。

俺達ワイバーンは第15騎兵スキュラと先ほど会話をした第10騎兵ヴァナルガンドと共にスコルピオの指揮下に入る事になった。

驚いたのは第15騎兵スキュラは俺のマンションから4駅ほどの近さにいたと言う事だった。

スキュラのリーダーの40代後半に見える男はニコニコしながら俺達と挨拶した。

スキュラのメンバーは11人、ヴァナルガンドのメンバーは14人だそうだ。

会議は終わり、リリーがやって来た。


「あなた達は私達スコルピオの指揮下に入るわよ。

 無茶な命令は出さないから安心してね。」


リリーが笑顔で続けた。


「当然質の悪い別物の調査討伐は続けて構わないわ。

 いつもより注意してね。

 どこで奴らが見張っているか判らないからね。

 襲撃には十分気を付けてね。

 その代わり討伐には厳重に警戒した私達も同行する事になったわ。

 カスカベルの二の舞は御免だからね。」


全くその通りだと俺達が頷いた。


「じゃあ、ワイバーンから始めようかな?

 付いて来て。」


俺達は何の事だろうとリリーについて行くと、広い部屋がパーテーションで幾つかに区切られている所に来た。


「さて、皆これを着て。

 サイズはあってると思うわよ。

 …一応…プッ…はなちゃんの分も用意されてるわね。

 何かの冗談かしら?

 …本気なのかな~?」


そう言ってリリーが出したものは…ちゃんと記章が付いた警察官の制服とYシャツとネクタイだった。


「リリー…これって…」

「各チームで何人が来るのか指定したのはこの事よ。

 さっさと着替えて隣で写真撮って頂戴。」


変な予感を感じながら、俺達ははなちゃんも含めて着替えて写真を撮り、また元の服に着替えて待機させられた。


ドーナツを頬張りながら四郎がぼやいた。


「さて、リリーは何故あんな事を…。」


ビスケットを齧り紅茶で流し込んだジンコが呟いた。


「なんか凄い予感がするけど…私で良いのかな?」

「何が?ジンコ?」


ジンコが言いたい事は何となくわかっているが俺は誰かの口からさっきの事の説明を聞きたくてしょうがなかった。


「彩斗、判るでしょ。」


ジンコが言った途端にリリーがやって来てお待たせ~!と言って…俺達にさっきリムジンでリリーが巡査部長に見せた警察官の身分証をまとめて俺に渡した。


「さて、これで全員の分ね。

 彩斗はリーダーだから私と同じ警視正よ。

 四郎とジンコと…あ~…はなちゃんは警視…。

 警視って普通の警察署の所長クラスだってさ。」


やっぱりやっぱりやっぱり…。


「これは正真正銘の本物だからね無くしたりしないようにね。

 本当はあなた達偽名で登録と言う話だったけど、別に持っている身分証、運転免許証とかと名前が違っていたら混乱を招くから駄目だと警察庁から言われたからね~。」

「…」

「…」

「…」

「各都道府県警に通達が行ってるからこれで日本全国どこでも駐車違反とかスピード違反とか武器の所持がばれても問題なしよ。

 悪用は絶対しないでね。

 まぁ、私は本当に効力があるのかGTRに武器満載で思い切りスピード違反して警官に停められて後ろの席のマシンガンを見られて応援に駆け付けた何人かの警官に取り囲まれたけど、後からお偉い警官がやって来て丸く収まって皆がビシッ!と敬礼されて放免されたけどね。

 あんたたちは真似しちゃ駄目よ~。」

「…」

「…」

「…」

「ん?どうしたの?」


俺達はリリーにはなちゃんの写真が付いた、藤原はな警視、の身分証を見せた。


「…本当に作っちゃったのね…これは…ちょっとテレサを呼んで来るわ。」


じっとはなちゃんの身分証を見つめ、肩をプルプル震わせ笑いを堪えて顔を赤くしたリリーが走り去り、しばらくして岩井テレサの手を掴んで戻って来た。


「あら、みんな久しぶり、彩斗君、良い男になったわね。

 その顔の傷は戦士の勲章よ。

 あら、こちらは新しいメンバーのジンコさんね。

 初めまして、岩井テレサです。

 あなたは聞きたい事が山ほどあるってリリーから聞いているわ、今度ゆっくりお話ししましょう。

 四郎もはなちゃんも元気そうね。

 あなた達の活躍は…」

「テレサ、挨拶は良いからこれを見てよ。」


リリーが藤原はな警視の身分証を岩井テレサに見せた。

じっと身分証を見ていた岩井テレサの顔が見る見る赤くなり、腹を抱えてその場に崩れ落ちて笑い転げた。


「誰よこんなことしたのは~!

 きゃはははは~!

 うひ~!おかしい~!

 誰が作ったのよ~バカなの?バカなの~?」


そして、俺達はワイバーンからもう1人警視の身分証を発行する事に決まり、はなちゃんの身分証はせっかく作ったのだからそのままと言う事になった。

そして、岩井テレサからお菓子のお土産を沢山もらって俺達はリムジンでマンションまで送り返された。

勿論帰りのリムジンでシャンパンとおつまみを堪能した。

そして、俺達は時々身分証を引っ張り出してまじまじと見つめた。

結構危険な状況とこの身分証…現実感が100パーセント無い。


「う~ん、どうしようかなこれ。

 大学でも持っていなきゃいけないんでしょ?」

「そうだねジンコ警視、やはり肌身離さず持っていないといけないと思うけど。」

「はぁ~!

 真鈴に代わればよかったかも、きっとあの子羨ましがるわよ。」

「うむ、そうかも知れぬなジンコ警視、われもそう思うぞ。」

「わらわもきっと真鈴は羨ましがると思うじゃの、ジンコ警視。」


ジンコが苦笑いを受かべた。


「ちょっとそのジンコ警視ってやめなさいよ、四郎警視、はな警視、彩斗警視正。」


俺達は現実からはるかにぶっ飛んだ世界に放り込まれた気分でどう心の中で処理すれば良いのか皆目わからずに、とりあえず笑い転げるしか無かった。

俺達はランドクルーザーで死霊屋敷に戻り、その晩に全員集合してお土産のおやつを食べながらジンコの理路整然とした報告を受けた。

そして、残り1人分の警視の身分証争奪戦じゃんけん大会が開催された。






続く





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