リリーがリムジンで迎えにやって来た…なんか凄い大事になっていて俺とジンコは固まった。
やがて、スマホに迎えが来た旨のメールが来た。
「それじゃ行こうか。」
俺達は頷きあってマンションの部屋を出た。
マンションの玄関には黒いストレッチリムジンが止まっていて、前後をやはり黒色の大型セダンが止まっていた。
「おお!なんか豪勢じゃの!
映画みたいじゃの!」
はなちゃんが無邪気な声を上げた。
スーツ姿の男女達が油断なく周囲を警戒する間にリムジンのドアが開きリリーが中から手を振った。
「おお!リリーじゃないか!」
「目立つから皆早く乗って!」
俺達は迎えの凄さに驚きながらもそそくさとリムジンに乗り込んだ。
護衛のスーツ姿の男女達と違い、リリーは普段着だった。
リムジンは俺達が乗り込むと速やかに発進した。
「ふぅ、岩井テレサがねどんなに秘密を守ろうとしてもどこかから情報が漏れて襲撃されるかも知れないから、いっそのこと厳重に警護して襲撃をあきらめさせるとともに私達の本気を見せつけようと言う事になったのよ。
このリムジンは防弾防爆仕様よ。
ワイバーンの迎えは誰にするかとテレサはちょっと悩んだみたいだったわね。
結局私か榊が行けば偽物と疑われないと言う事になったけど榊が忙しくてね、私が迎えに来たわよ。」
「成る程、リリーならばわれ達も間違いようが無いからな。」
その通り、四郎は言うようにリリーがいたから俺達は疑いなくリムジンに乗れた。
これが全然見知らぬ者が迎えだったら俺達も不安に感じて色々詮索するだろう。
俺達は珍し気にリムジンの中を見回した。
勿論リムジンに乗るのは生まれて初めてだ。
シャンパンとグラスとおつまみのスナック迄置いてあってびっくりした。
「ほほ、彩斗、お酒は帰りに飲んでね。
会合で酔っちゃうと駄目だから。」
リリーが笑顔で言った。
「あらジンコ、何か緊張してるわよ?
落ち着いて。」
リリーに言われて座席にかしこまって座っていたジンコが頷いた。
「いや、この前リリーから岩井テレサさんの組織の事を説明されたけど…なんか凄いから…」
ジンコの言葉を聞いてリリーは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、そうね。
私達も普段はこんな大仰な事はしないのよ。
ただ、今回はかなりの大事だと受けとってもらうのが良いかもね。
そして…あら?」
リリーが眉をひそめて手元のボードを見た。
「確かワイバーンからは4名と…。」
「そうだよリリー。
俺と四郎とジンコとはなちゃんだけど。」
「あらいやだ、どうしようかな?
どうも私達も色々忙しくて誰かがおっちょこちょいな事をしでかしたみたいね。」
「うむ、リリー、何か不都合な事が有るのか?」
「いや、四郎、はなちゃんが出席する事は問題無いのよ。
ただ、その場合人数の数え方に間違いがあったみたいね。
同盟チームには依り代に宿った死霊メンバーがいるのはワイバーンとオルトロスだけだし、オルトロスの方の死霊ははっきりそれとわかる名前だったからね。
はなちゃんの藤原はなと言う名前で悪鬼か人間メンバーとどこかで勘違いされたみたいね。」
「リリー、わらわでは何か不都合があるじゃの?」
「え?いやいや、はなちゃんが出席する事は全然問題無いわ。
千年以上この世に存在しているから、私達も助言をもらいたいわ。
ただね…まぁ、後で判るわね。」
そう答えてリリーが苦笑いを浮かべた。
リムジンは俺達を乗せて岩井テレサの屋敷に近づいて行った。
警察のかなり厳重な検問で道を塞がれていた。
少し怪しいと思われた車は容赦なく脇に寄せられて、車と乗っている人の体を厳重に検査されている。
何かの時に備えて最小限の武装をしている俺達は焦った。
「リリー、俺達武器を持っていてヤバいかも…」
俺が言うとリリーは笑顔を浮かべた。
「大丈夫、何も問題無いわよ。
私だってほら、武装しているもの。」
リリーがジャケットをめくると大きなナイフと、自動拳銃が吊ってあった。
黒光りする自動拳銃は恐らく40口径以上、対悪鬼用の強力な銃だろう。
やがて検問の所に来てリムジンが警察から止められた。
リリーが窓を開けて近寄って来た警察官にボードと胸ポケットから何かを見せた。
ボードを受け取った警官がリムジンの俺達の顔を見た。
「一人足りないようですが…。」
「一人欠席だ巡査部長。」
「は!警視正どの!どうぞお通りください!」
巡査部長と呼ばれた警官がボードをリリーに返してビシッ!と敬礼をし、リムジンが検問を通った。
余りの予想外のやり取りに俺とジンコが固まった。
「え…リリー…今って…」
「警視正と言ったけど…大きな警察署の所長クラスの階級…」
俺とジンコの驚きを理解しない四郎とはなちゃんがのんびりした声をあげた。
「リリーは警察署長様なのか。偉いもの…なのか?」
「四郎!相棒とか言うテレビの右京とか言う変人のおかまっぽい奴が警部じゃの。
リリーは多分もっと偉い階級じゃの~。」
リリーが苦笑いを受かべた。
「あらそうなの?
ほほ、いきなりこういう身分にされてなんか良く判らないけどね。
私は今のところ警察庁の任命した特別捜査官という立場らしいわよ。
これ、言っとくけど本物だからね。」
リリーが胸ポケットから先ほど警察官に見せた身分証を出して見せてくれた。
俺は本物をじっくり見た事は無いが、確かに警察庁の警視正で特別捜査官と何やら大仰に書き込まれていてかしこまった警察の制服姿のリリーの顔写真が付いていた。
「あらやだあまり見ないでよ。
この写真は写りが悪いのよ。
私こんな顔だったっけ?って思っちゃった。」
身分証や免許証あるあるの事を言いながらリリーは警察バッジ付きの身分証を胸ポケットに納めた。
「じゃあ、あの検問は俺達や岩井テレサの為の…」
「そういう事よ。
まぁ、警察がどこまで不審者を屋敷に近づけさせないか判らないけどね…とにかく、今はこれ位大事と言う事よ。」
固まった俺とジンコ、凄いな~と気楽に言う四郎、凄いじゃの!凄いじゃの!とはしゃぐはなちゃんを乗せたリムジンは機動隊が両脇を固める岩井テレサの屋敷の大きな門をくぐった。
はなちゃんが並んでいる機動隊員たちにご苦労じゃの!と言いながら無邪気に敬礼をしていた。
緊張していた俺とジンコもはなちゃんにつられて変な敬礼をして四郎とリリーに笑われた。
もっともリムジンのスモークガラス越しには外にいる機動隊員達には判らないだろうけど。
警備の警官隊の物々しさに比べて門をくぐると整然と落ち着いた感じになった。
俺達のリムジンが車回しに停まると、榊と黒スーツの男が2人ドアを開けてくれた。
俺達は挨拶もそこそこに岩井テレサの屋敷に入った。
「うむ、見た目には判らんだろうが、かなり強力な悪鬼と人間のチームが固めているな。」
「そうよ四郎、今は第2騎兵タランテラも私達スコルピオと一緒に屋敷を固めているわ。
この部屋で少し待っていてね。」
リリーはそう言って立ち去った。
俺達はこじんまりとしているが、豪華だが落ち着いた感じの部屋でしばし待たされた。
「何かがわらわたちを探っているじゃの。」
はなちゃんが言った。
「そうなのかはなちゃん?
われは特に感じないが。」
「そうじゃろうの。
じゃが、やはり岩井テレサの方にはわらわも敵わないくらいの死霊…神が付いているようじゃの。
さすがにレベルが違うじゃの。」
やがてドアが開き、スーツ姿の女性が顔を出した。
「ワイバーンの皆さまこちらへ。
武装はそのまま携帯されて結構です。」
「どうやらチェックは済んだようじゃの。」
はなちゃんが小声で言った。
俺達は地下にあるちょっとした劇場のような所に案内されて、すでにかなり席が埋まっている中で席に着いた。
ステージと言うか、演壇にはテーブルがあり、岩井テレサと何人かの人物が座っていた。
警察の制服姿で苦虫を噛み潰したような顔の人物を見てジンコが息を呑んで小声で呟いた。
「ちょっと彩斗、あれ、警察庁長官よ。
本物よ。」
成る程、何か物凄い大事なんだろう。
世間が全く知らない所で物凄い大事が今の日本で起きているのだろう。
続く