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吸血鬼ですが、何か? 第7部 紛争編  作者: とみなが けい
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『ひだまり』に歴史あり…俺達は『ひだまり』移転先候補を見つけた…そして俺に新しいあだ名の予感が…やめて。

「いやはや…見える人間が見たら卒倒しそうな光景だな。」

「うむ、われでさえ少しビビってしまうが…まぁ、あまりおどろおどろしい雰囲気は無いな。

 混雑している電車の中のような物か。」

「四郎、電車に乗れるようになったのか?」

「うむ、場所によっては電車の方が便利だしな。

 あれはあれで面白い物だ。

 まぁ、われはのり鉄と言う物になりつつあるな。

 この前もリリーと箱根に行って来たが楽しかったぞ。」


明石と四郎が席に着き、俺は会合出席要請のメールが来て出席する旨返事をした事を伝えた。


「午後1時に迎えの車が来ると言っていたよ。

 普段着で来るようにってさ。」

「うむ、承知した。

 さて、これからどうするか…。」

「俺は司と忍を連れて一度マンションに帰ってから必要な物を取って死霊屋敷に行くよ。

 圭子は加奈や真鈴達と死霊屋敷に行く事にしよう。

 う~ん、やはり固まって動く方が良いかな?

 彩斗、『ひだまり』を少し早めに閉めるように出来ないか喜朗おじに聞いて来てくれないか?」

「うん、判った。」


俺は再びスケベ死霊と、スケベ死霊に共鳴した客でごった返す店内に出てキッチンの喜朗おじに少し早く店を閉められないか明石が言っていたと伝えた。

キッチンは戦場のような騒ぎで大忙しで汗みどろでスパイスの缶を開けようと四苦八苦している喜朗おじが答えた。


「どちらにしろ食材が殆どカラッケツで出せるメニューも少なくなってる!

 2時間くらい早く閉めるしか無いなと景行に伝えてくれ!」

「喜朗おじ!

 早くスパイス頂戴!

 ジャンバラヤが4つ急ぎだよ!

 出せるピラフ系はあと5つが限度だよ!」


キッチンの奥で圭子さんが腕まくりをして大きなフライパンを振りながら叫んだ。


「判った待ってろ!

 なんだこの缶は!

 蓋がくっついちまってるぞ!」


そう答えながら焦った喜朗おじがスパイス缶の蓋を派手に引っぺがしてしまい、スパイスの粉がキッチンの中を舞った。


「うわ!しまった!クション!クション!ハックション!」


スパイスを思い切り吸いこんだ喜朗おじの顔が悪鬼顔になった。


「きゃあ!喜朗おじのドジ!」


圭子さんの悲鳴が聞こえた。


何人かの客が圭子さんの声に気が付いてキッチンを見た。


「ああ!出た!マスターの鬼顔だ!」


呆れた事に何人かの客が拍手と歓声を上げた。


「うぉお!レアな現場を見たぜ!」

「あれが鬼顔か!俺達運が良いな!」

「ほんとにあんな顔をするんだ!

 こわ可愛い!」

「すげえテクニックだよな!」

「神レベルの特殊メイクだぜ!」


喜朗おじが慌ててお盆で顔を隠して客達にどうもどうもと手を振り、キッチンにしゃがみこんで身を隠し、顔が元に戻るのを待っていた。


「やれやれ、最近忙しい時に時々やらかすんだよね~。」


料理待ちの加奈がぼやいた。


「まぁ、最初の時は加奈が咄嗟にあれは特殊メイク好きの喜朗おじの余興だと言ってお客さんたちを胡麻化したんだけどさ~、最近はすっかり名物イベントみたいになってるみたいよ~。」


空の皿を下げてきたジンコが呟いた。


「まぁ、普通に盛り上がってるから良いんじゃないの?」


真鈴が出来上がった料理をお盆に乗せながら答えた。


「忙しい時にやらなきゃね~。」

「ほんとほんと~。」


ジンコと加奈がため息をついた。


「喜朗おじ!

 忙しいんだから早く顔を戻してよ!」


圭子さんがフライパンから皿にジャンバラヤを盛りつけながら叫び、喜朗おじがお盆で顔を隠したまま立ち上がり、お盆をとると元の顔に戻っていて、客達が喝采を送っていた。

スケベ死霊達までが拍手を送っていた。

喜朗おじは圭子さんに尻を蹴飛ばされながら料理作りに戻った。

やれやれと思いながら俺は個室に戻った。


明石は店内の声を聞いてこめかみに手を当てて困り顔だった。


「彩斗、喜朗おじがあれをやっちまったんだな?」

「ああ、そうだよ。

 お客さんたちがマスターの鬼顔って盛り上がっていたけどね。」

「俺達は目立つとやばいんだがな~。

 ただでさえ、加奈やジンコの評判が口コミやSNSで広がってテレビの取材を何件も断っているんだよ…はぁ~。」

「あの制服、変えれば良いんじゃないの?」

「彩斗、あれは喜朗おじの拘りでな、可愛くて少しエッチなメイドと執事と言うのはどうしても喜朗おじの譲れない物だそうだ。

 昔は…今も置いてあるのかな?

 俺も執事の制服があってな、昔はそれを着せられてここを手伝った事も有るぞ。

 今も店にあるとは思うけどな。」

「…え?

 景行が執事の恰好の制服…」

「うむ、それは見ものかも知れぬな。」

「アニメで見たじゃの!

 景行があんな格好したのか!」

「うん、中々女性の客から評判良かったんだぞ。

 圭ちゃん、圭子が焼餅焼いて拗ねちまったからもうやめたがな…。

 喜朗おじは秋葉原のメイドカフェが流行り出した時に入り浸ったくらいだ。

 今の制服を変えるなら店をたたむとまで言っているんだ。

 最近はもちょっとスカートのフレアを利かせて短くするかもとか言い出しているしな…。

 喜朗おじの部屋に入った事無いだろう?

 なかなか気合が入ったメイドマニアの部屋だぞ。

 何かのアイドルグループのファンでもあるしな。

 喜朗おじはあの変なライトもってヲタ芸と言うんだっけ?踊ったりするんだぞ。」


明石の言葉を聞きながらそれって変態エロヲタおやじじゃんか、という言葉を俺は飲み込んだ。

確かにあの制服は可愛いとエロいのギリギリの、男の魂の根源をついて絶妙な出来だが、もっとスカートが短くなったら、ガーターベルトがギリギリ見えそうなスカートになったら…俺はドキドキした。

『ひだまり』の歴史と内情を知って少し得をした気分でもある。


「そうだ、彩斗。

 店を早めに閉めようと伝えたか?」

「うん、食材も少なくなって出せるメニューが無くなって来たから2時間早く閉めると言ってたよ。」

「そうか、判った。

 じゃあ、店を閉めたら全員で出かける事にしよう。」


やはりスケベ死霊で下半身が見えない真鈴が個室に入って来た。


「ここにお客さんを入れて良いかって喜朗おじが言ってるんだけど。

 もう、外に何人か並んで待ってるんだよね。

 出せるメニューが飲み物とデザートが数種類しかないと言ったんだけど、待つっていうお客さんがいるんだけど。」

「判った、入れて良いぞ真鈴。

 あと2時間少しで店を閉めるから頑張れ。」

「うん、判った…あの、景行も執事の制服で手伝ってって喜朗おじが…」

「それは断る!」


明石が断固として言った。

そして個室に客がなだれ込み、居心地が悪くなった俺達は明石のマンションに引き上げて店が終わるのを待つ事にした。


このまま待って店が終わり次第に『ひだまり』メンバーと死霊屋敷に行くと明石が言い、俺と四郎とはなちゃんはマンションに帰って必要な物をランドクルーザーに乗せて一足早く死霊屋敷に行く事にした。

明日の朝に会合出席メンバー、俺と四郎とジンコとはなちゃんがマンションに行って迎えを待つ事に決めて死霊屋敷に出発した。


死霊屋敷に向かう途中で、地下の市蔵と戦った後で寄った食堂の前を通った。

あの時は気が付かなかったが、隣の敷地にさびれたドライブインがあった。

今は営業していないようだ。


「彩斗、あれはなかなか良いのじゃないか?」


ランドクルーザーを運転している四郎が廃ドライブインの前に車を停めた。


「ああ、『ひだまり』の移転先って事?」

「そうだ、ここなら死霊屋敷から車でもすぐだしな。」

「ちょっと降りて見てみようか?」


四郎とはなちゃんを抱いた俺はランドクルーザーを下りて廃ドライブインを見た。

『ひだまり』の3倍くらいの広さがあり、田舎特有の店のあるあるで、前の駐車場も広かった。


「土地は大体…300坪以上はあるね。

 車もいっぱい止められるよ。

 バス停も近いし…」


俺は近くにあるバス停の時刻表を見たが、最寄りの駅までのルートなのか、中々本数があった。

遥か遠くだが、道路沿いにコンビニの看板も見える。

山道に入る前の所だし、そこそこ人通りが有るのだろう。


「駅から少し遠いけど…タクシーでも1000円くらいで来れるよね。」

「うむ、あのスケベ死霊を連れてきたら多少辺鄙な所でも繁盛するとは思うがな。」

「ここなら死霊屋敷からでも悪鬼の接近は判るじゃの。

 わらわの監視できる範囲に入っているじゃの。」

「車どころか自転車でも死霊屋敷からそんなにかからないね。」


俺達はドライブインの中を覗き込んだ。

人気のない店内。

ほぼ居ぬき状態だろう。

字がかすれた薄汚れた貸店舗の看板が落ちていた。

しかし俺は見た。

あの死霊屋敷の屋根裏にいた蒼いワンピースを着た若い女の死霊が、もう一人若い男の死霊と席に座り、道路を眺めていた。

四郎とはなちゃんも店内の死霊を見た。

俺達と死霊は目が合って会釈を交わした。


「うむ、あの子は屋根裏にいた子だろう、ここまで散歩に来ているのかな?」

「勝手気ままな死霊じゃの。

 あちこち散歩しているのじゃろ。」

「あの子は彼氏がいるんだ…。」

「彩斗は何を言っておるのじゃの。

 女なら死霊でも何でも構わんのかの。

 うきゃきゃきゃ!」

「違うよはなちゃん、ただ寂し気な人だったから気になってただけだよ。

 俺はちゃんと人間の彼女が出来たよ。」

「まだ10回野郎にはなっていない癖に偉いものになったじゃの。

 まだまだ節操がないスケベ初心者男じゃの彩斗は。

 だから『顔面鷲掴みキス拒否られ野郎』なんじゃの。」

「…はなちゃん…何故それを…」

「なに、前に彩斗の頭の中を見た時にありありと見えたじゃの。

 あの鯨のような女に笑顔を浮かべられながらも物凄い力で顔面を鷲掴みにされて…しばらく彩斗の顔に痣が残ったじゃの。

 物凄い力で顔面を鷲掴みにされて彩斗の顔が半分くらいの細さになったじゃの。

 まるでひょっとこの様な顔に…しばらく顔が元に戻らずに…うきゃきゃきゃ!」

「はなちゃん、なんだその面白そうな話は。」


四郎が眉を上げてはなちゃんを見た。

詳しく聞きたくてたまらない顔をしていた。


「うわぁああああ!

 はなちゃん!言わないで!

 真鈴達に絶対に言わないでね!

 お願いします!

 お願いしますぅ~!」

「彩斗、大丈夫じゃの。

 真鈴達は親友じゃけど言わんのじゃの!

 秘密にしておくじゃの!」


だが、俺は知っている。

女の親友の間では、恋人同士以上に秘密は守られない事を。





続く






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