俺は会合出席メンバーを選んだ…『ひだまり』は絶対どこでも繁盛すると確信した。
「どうする?
行くだろう?」
「そうだね四郎。
こんな状況なら行かなくちゃいけないよね。」
「同行者は3名迄とあるな。
人選は彩斗に任せるよ。」
明石に言われて俺は迷ってしまった。
まず俺は行かなければならないだろう。
そして、四郎か明石かは来て貰わないと、だがワイバーン戦力の要の2人を同時に連れて行って留守中に何かが起これば…。
黙ってしまった俺を見て四郎が頭を掻いた。
「やれやれ、彩斗が悩むのもわれは判るな。
しかしはなちゃんをどう勘定するかだな。
はなちゃんは鋭く察する事が出来るから、この前の岩井テレサとの面会の時の様に雰囲気を探ってもらえば助かるが…しかしはなちゃんはいざと言う時に留守番組の守りの要にもなるし…。」
「四郎、その通りだな、はなちゃんも連れて行った方が良いと思う。
なぜならな、カスカベルを誘き寄せていつ襲撃するかなどのタイミングなどそうそう簡単に探れないだろうと思うからだ…可能性としては良く知らないチームのヤクルスの連中を探ったか、或いは…裏切者が内部にいるか…。
どちらにしろ、相手の動向をある程度探らないと待ち伏せ一つ仕掛けるにも大変な事なんだよ。」
明石の言葉に俺はぎょっとした。
「え!だって悪鬼同士に嘘は通用しないと言ってたじゃないか!」
「彩斗、この世に絶対と言う事は無いぞ。
巧妙に嘘を突き通せる悪鬼もいるかも知れんしな…岩井テレサの方でもその可能性は排除していないと思う。
まぁ、その対策は打ってあると思うが…これはあくまでも可能性の問題だぞ。
はなちゃんがいれば何か違和感を感じたら教えてくれるだろうしな。」
「彩斗、わらわはどちらでも構わんじゃの。」
俺は再度考え込んでしまった、が、決めた。
「うん、はなちゃんも連れて行こう。
残る者は用心して何とか対策を練ってもらう。
そして、四郎も一緒に来てくれ。
向こうにリリーもいると思うから情報収集に役に立つかもね。」
「うむ、判った。
われとはなちゃんと彩斗だな。
もう一人は誰にする?」
「う~ん、そうだな~。」
ジンコが個室に入って来た。
「お話中ごめんなさい。」
「ジンコ、どうしたの?」
「あの~、実は手がかかる料理の注文が立て込んじゃって…喜朗おじが圭子さんにキッチンの応援に入ってもらえないかと…昔の制服が有るからそれに着替えて欲しいと…。」
圭子さんが目を丸くした。
「え!ええええ~!
まぁ、キッチンに入るのは良いけど、あれを着るの~?」
「はい、喜朗おじがお願いしますと…。」
明石がニヤリとして圭子さんを見た。
「圭ちゃん良いじゃないか、俺も久し振りにあの姿を見たいな。」
「あんた何言ってるのよ!
私は2人も娘がいておまけに人妻なのよ~!」
「最初にあれを着た時も2人の娘持ちで人妻だったじゃないか。」
「も~!
しょうがないわね~!
喜朗おじにこれから行くと言って置いて。」
「はい、わかりました。
ありがとうございます。」
ジンコがぺこりと頭を下げて出て行った。
仕方ないわね~と言いながら圭子さんがレモンスカッシュの残りを飲み干して個室を出て行った。
「圭子は昔『ひだまり』でウェイトレスをしていたんだよ。」
明石がにやにやしながら言った。
まぁ、圭子さんも美人の部類に入るし、歳も俺とそう変わらないなと思いながら、俺はひらめいた。
「そうだ!もう一人はジンコにしよう。」
「ジンコ?」
「ジンコか…」
明石と四郎が顔を見合わせた。
「ジンコはいつでも冷静で取り乱さないし、周りをしっかり観察して状況を把握できるから適任だと思うよ。」
「うん、そうだな、われも良い人選だと思うぞ。」
「確かにジンコだったら俺達に筋道立てて会合の様子を報告できるだろうな。」
「ジンコは良いと思うじゃの。」
こうして会合に出席するメンバーは俺と四郎、ジンコとはなちゃんに決まった。
「さて、俺達はこれからどうするか…会合は早ければ明日とかと言って来ると思う。
俺の見込みでは優秀な集団は反応が早いからな。」
「うむ、それではわれと真鈴は死霊屋敷に籠るか。
あの目を付けた悪鬼の討伐はしばらく延期、泳がせるしか無いな。」
「俺達も死霊屋敷で司と忍の夏休みの残りを過ごそう。
ここも用心の為に暫く閉めるか。
従業員の研修と言う事にするか。」
「そうだね、皆まとまっていた方が良いと思うよ。
一人で単独行動は控えた方が良いね。」
俺はそう答えながら『みーちゃん』のユキと会える日が無くなって寂しい思いになった。
今夜『みーちゃん』に飲みに行ってユキの部屋に泊まろうかと思っていたのだ。
「司、忍、あの屋敷にお泊りだぞ。」
「いえ~い!やった~!」
「パパ、キャンプしようよ!」
「うん、良いぞ。
お前たちの宿題を全部終わらせるぞ。」
「ええ~!」
「がっくし~!」
司と忍が微妙な表情を浮かべた時に店内から声が上がった。
ああ!ニューフェイス!おねえさん!奇麗~!こっち向いてくださ~い!
その声を聞いて明石が苦笑いを浮かべた。
「なんだかな~、
あいつら女だったら誰でも良いのか~?
彩斗、喜朗おじに明日からしばらく店を閉めると伝えて来てくれるか?
それとジンコと話が出来る状態だったら会合の件を伝えてくれ。」
「うん、判った。」
俺は店内に出て驚いた。
店内は満席で客でいっぱいだった。
それどころか新たな客が来て会計カウンターの横に出した椅子に座って店のコミックを読みながら待っている者までいた。
面白いのは確かに客は若いヲタクみたいな奴らが目立ったが、かなりの割合で若い女性や近所の老人や主婦まで幅広い年齢層を保って混雑している事だった。
俺はキッチンに首を突っ込んで喜朗おじに明日から数日店を閉める旨伝えた。
「そうだな、判った!
ただでさえこれでは体がもたんよ。
休ませてもらうか。
圭子さん!ピラフを追加で3つ頼むよ!」
「判ったわ!任せとけ!」
キッチンで圭子さんが大きなフライパンでチキンライスを4人分まとめて炒め、フライパンを豪快に振っていた。
やはり圭子さんが来ている服は加奈達と似たあの制服姿で、ぴちぴちの若い女の物と違い少しだけムチムチの大人の色気が滲み出ていた。
そしてスケベ死霊が圭子さんの足元にも7匹ほどたかっていた。
「彩斗おかしいんだよ、応援の女子を入れれば入れる程客がわんさかやって来るんだ。」
「喜朗おじ、あいつらが凄い数になっているよ。
いつもの倍は、いや、それ以上いるみたい。」
「ええ!本当か?
俺はキッチンに入りっぱなしで判らんかった!」
そう、『ひだまり』の客席はスケベ死霊で足の踏み場も無いくらいになっていた。
ジンコの応援に真鈴が、その応援に加奈が、そして圭子さんが応援に入るたびに辺りからスケベ死霊が押し寄せているに違いない。
そしてスケベ死霊の思念が増大して共鳴し合ってますます客を引き寄せるのだろう。
そうに違いない!
ジンコが下半身をスケベ死霊に埋もれながらオーダーを取ってグラスと食器を下げにカウンターにやって来た。
「ジンコ。」
「なに?彩斗?」
「あのな、岩井テレサの会合に…」
「ごめん良く聞こえない!」
俺はジンコの耳に顔を寄せて岩井テレサの会合の件を言った。
ジンコは判った!と言ってオッケーサインを出した。
そして俺は店内を見て息を呑んだ。
客のうちの大部分が激しい嫉妬の目で俺を睨みつけていた。
誰だよこいつ俺のジンコちゃんに馴れ馴れしくしやがって!
耳元に口を近寄せた何か言ったぞ!
きっとジンコちゃんの耳の匂いを嗅ぎやがったんだ!
くそ!死ねばよいのに!
もしもその思いが矢だったら俺は針千本状態になって息絶えていただろう。
俺は尚も飛んで来る思念の矢から逃げながら慌てて個室に退却した。
「おお彩斗、ありがとうな。」
「景行、うちのメンバーならどこに行っても繁盛すると思うよ。
いっそのこと死霊屋敷から近い所に土地を買って店を開いても絶対儲かると思う。
凄く儲かると思うよ、俺の個人的な貯金を、いや、会社の留保金を全部投資しても良いよ。」
「なんだ彩斗、凄い自信だな。
一体どうしたんだ?」
「景行、四郎も店内を見たら判るよ。」
景行と四郎が個室のドアを少し開けて店内を見て固まっていた。
スマホがメールを受信した。
やはり会合は明日の午後から行うと伝えていた。
岩井テレサの家での会合で俺のマンションに午後1時に迎えの車が来ると言う事だ。
俺は四郎とジンコとはなちゃんを伴って出席すると返信した。
明石と四郎はまだ個室のドアから店内を見て固まっていた。
続く