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エピローグ 希望の光

「わー!」

 フランの悲鳴で朝倉大雅は目覚める。


 ――ここは。


 白い天井が見えた。


 俺の部屋だ。

 

 何故か、ベッドに居た。黒マスクに学生服姿の大雅。


 ベッドに横たわったまま、もう一度天井に視線を戻し、ゆっくりと深呼吸した。

 夢ではなく、今までの出来事が現実だったのだと悟った。


 戻って来たんだな。


 さっきの、フランの声。何か感じる。この人肌の温もりは……。


 慌てて横を見ると、フランがこっちを見ている。銀髪に赤いスカーフ。

 

 フラン? いや、少し違う。


 猫族の象徴であるある三角の大きな耳は無く、人間の姿。銀髪の長い髪に耳が完全に隠れている。

 そこには人間の姿のフランが居た。


 人間の姿も見とれるぐらい、メッチャ可愛いィ~。


 頭の上にある大きな耳が無く、横に丸い耳が付いているのを手で確認するフランが、

「私、人間になったのね」

 嬉しそうに言って、鏡のある方へ向かうおうとするフランを見て大雅はまた驚いた。

 一糸まとわぬ姿。


 あの時と、出会った時と逆の現象だ……。


「これが、私……」

 鏡を見詰め、呟いた。

 裸にスカーフ。もの凄くエロく見えて直視出来ない。

 大雅には刺激が強過ぎた。

「私、人間になったのよ。今すぐハグしてよぉ!」

 振り返って抱擁を求めるフランに、


 ――正面はマズイって。


 慌てて大雅は目を逸らす。

「もう、タワンもいないんだし、力強く抱き締めてよぉ」

 フランの催促。

「ちょ、ちょっと、心の準備、というか……」

 上体を起こして、おろおろする大雅に、

「なによぉ! 必死の覚悟でこの世界に来たというのに、タイガのいくじなしぃ!」

 構ってもらえず怒りが爆発した。


 抱き締めたいのはやまやまだが、猫のままだったらまだしも、両親に裸の女性と一緒に居るのを見られたらヤバイって。


 口に出しては言えず、気が動転した大雅の出した言い訳が、

「し、修行が足りん!」

 と訳の分からないことを言ってうろたえる。


 戻って来たのは二人だけではなかった。

 足元がムニョムニョする。

 布団の中を覗き込むと、突然、小猿が飛び出して来た。

「サスケ! お前も来たんだな。しかし、猿のまま。なんにも変わっていないんだな」

 と笑って、サスケを抱え上げながら、

「地球に戻って来たはいいが、コロナ渦で苦労するぞ」

 大雅は忠告すると、

「今度は私が助ける番。向こうの世界みたいに、二人で、お猿さんと困難を乗り越えましょう、ね」

 フランが言った。


 まずは、大事なところを隠して欲しいものだ。


 視線を逸らしたまま大雅は頷いた。


 今、世の中はどうなっているのか? 父親は仕事で、母親は買い物に出掛けているらしい。

 この世界に疎いフランに留守番させて、一人、祖父の忍者屋敷に向かった。



「お、タイガ、また来たのか」  

 祖父が言って、大雅の顔を見る。

「……お前、何か変わったな」

「さすがは最後の忍者、俺が成長したことが分かるんだ」

「違うわい! その猿だ」

 言ってサスケを見た。

「昨日は、綺麗なシャム猫を連れて来ただろう。お前ん家は動物園か」

 と突っ込みを入れる。

「昨日……」


 そうか、一日しか経っていなかったのか。


「この猿、人間の言葉を理解するんだぞ」

「嘘付け!」

 当然、祖父は信じてくれない。

「いいかサスケ、二階の壁に掛けてある鍵を取って来てくれ」

 サスケに言い聞かす。

 すると、大雅の手から飛び降りて勢い良く二階に向かう。


 しばらくして、サスケがお目当ての鍵を持って来て大雅に渡した。

「ほぉう、こりゃ驚いた。本当に人間の言葉を理解するんだな」

「それだけじゃないぜ、今度は俺」

 言って祖父の前で、バク宙二回転を決めて見せた。

 立ったままの状態から後ろに宙返りし、しかも空中で二回転する。

「どうだ、凄いだろう」

 決めゼルフを言って鼻をすする。

「いつの間に、そんな技を……」

 驚きを隠せない。


 今、世の中は、新型コロナウイルスの第8波の兆しで感染者が増加。行動規制は解除されたものの、暗い影を落としていた。

「学校の休みの土曜日曜日に、忍者ショーをやろうと思っているんだ。それに、この忍者屋敷を動画サイトに投稿して宣伝するよ」

「そりゃ助かる。ワシはデジタルが苦手だからな」

「爺ちゃんの忍者屋敷にも、客が戻って来る。これから、忙しくなるぞぉ」

 拳を握り締め、自然と力がみなぎる。

「コロナ前のように、客が戻って来るといいんだがな」

 閑古鳥の鳴いていた忍者屋敷に僅かな希望が見えてきた。



 この世界を知らないフランが地球で暮らしていくには、家族の協力が不可欠。

 フランが猫人間であったことを正直に大雅は話した。

 異世界の入り口で踏み止まり、引き返した経験のある父親は、彼女を受け入れ面倒を見ると言って協力を惜しまなかった。


 一人でこの世界に遣って来たフランに家族からのサプライズ。

 シャム猫の子猫をプレゼントした。

「まあ、可愛い。先祖の猫ね。私の髪と同じ銀色で顔が黒い。子供の頃の私と一緒だわ」

 喜ぶフランに大雅が言った。

「明日から、爺ちゃんの家に行ってもらうよ」

 未成年の男女が同じ屋根の下で暮らすのは問題がある。

「うん。いつでも会えるし、今は勉強の方が大事よね」

 大雅を気遣って、笑顔でフランは言った。



 祖父の暮らす忍者屋敷から通信制高校に通い、自宅学習をして卒業を目指す。

 好奇心旺盛のフランはなんでも吸収する。根っからの勉強好きで、見ること聞くことすぐに覚え、今では、学力は彼女の方が上、大雅はフランに頭が上がらない。


 実家が織物屋だったフランは、服作りに関わりたいという思いからアパレルの仕事に就きたいと考えるようになる。

 流行ファッションに関心のあるフランは、アパレルのデザイナーを目指して、目下勉強中。


 忍者屋敷の宣伝用の動画を動画サイトに投稿する傍ら、フランにも投稿の仕方を教える。

 日常生活の何気ない動画。自撮り動画を投稿すると、お洒落な着こなし姿に、目鼻立ちがはっきりしたアイドル級のルックスが相まって、視聴者の注目を集めた。

 男性からも女性からも好かれる人気者になるも、フラン自身、自分の魅力に気付いていない。

 この世界に来て、フランは充実した生活を送っていた。



 勉強の傍ら、フランは大雅と一緒にクノイチとして忍者屋敷の役者として手助けしている。

 忍者ショーでは、人間離れした派手なアクションが人気を博し、忍者屋敷は大勢の観光客で賑わいを見せる一方、人間の言葉を理解するサスケのショーも人気で、キャラクターグッズを作ったところ好評で、大きな収入源になっていた。


 大迫力の本格忍者ショー。

 異世界での冒険で培った超人的な身体能力から繰り出される圧巻のパフォーマンス。

 ステージ上を軽快に飛び回り、観客を盛り上げ釘付けにした。

  

 忍者ショーを終えた二人のもとに、威厳のある人物が近寄って来た。

「私は日本体操協会の委員、君達は、オリンピックに興味はないかね」

「オリンピック?」

「確か、フランスであるのよね、オリンピックが」

 フランが言うと、

「ああ、二年後のフランスで」

 大雅が答える。

「パルクール競技の選手として、我々と行動を共にしてくれないか」

「パルクール競技? ああ、飛んだり跳ねたりする競技だったな」

 パルクール競技――障害物があるコースを素早く通り抜けるため、走る・跳ぶ・登る、に加えて、壁を飛び越え、回転して受け身を取るといった動作を繰り返しす。まさに大雅が行っている忍者ショーそのものの競技だ。


「残念ながら、正式競技での採用は見送られたが、フランスオリンピックのお披露目式にて、パルクールが披露されることが決定したんだ。パリの中心、コンコルド広場でお披露目式が行わる。君達の演技で、パルクール競技の凄さや面白さを世界に広めたいんだ」

 役員にそう言われ、ふと大雅は考える。


 オリンピックか。今まで考えたことなかったけれど、人間離れした瞬発力に脚力、向こうの世界で培われた力が、そのままこっちに引き継がれたんだ。猫の力と人間の技との融合。陸上競技に体操、あとは水泳、その気になればなんでも狙えるんじゃないか。


「瞬発力を極めた俺は、もっとも金メダルに近い男かもな。主役はいただき」

 と自慢するように言って鼻をすする。

「私も、目指そうかな」

「それは良い。コロナ禍で暗かった世界に、明かりが灯れば良いな」

 暗く沈んでいた日本に喜びをもたらす。

 二人は二年後の七月二十六日に開催されるフランスオリンピックに標準を合わせて、目を輝かせた。


 忍者ショーでは力を抜いているが、オリンピックの時は全力で観客を魅了させる。人間の動きを超えた超絶技、人類史上最高難度の誰にも真似の出来ない大技を繰り出し、人々の度肝を抜かすんだ。それが、コロナ禍の虚脱感や無力感から抜け出す突破口になれれば。


 そう思った瞬間、暗くモヤの掛かった世界に、光が差し込んだ気がした。


 停滞していた社会が動き出す――。

 笑ったり泣いたり、たわいのない話で盛り上がる普段の日常。霧が晴れて目指す道が、大雅にはハッキリと見えた。


 コロナでみんな落ちるところまで落ち、どん底を味わった。だから、あとは上るだけ。長引くコロナ禍に負けないために、勇気と感動を与えたい。暗く沈んだ日本を、俺達の競技で明るく元気にするんだ。


 大雅とフランは新たな目標に向かって歩んで行く。


 暗くても、うつむいていちゃ駄目なんだ。顔を上げ、前を見て進む。この先、素晴らしい未来が待っているんだから。自らの力で、未来を掴む。ホップで飛んで、ステップでより前へ、そして、ジャンプでコロナ禍を乗り越えるんだぁ! 



                         了


最後まで読んでいただきありがとうございます。

昔、シャム猫を飼っていたので、シャム猫をヒロインにしました。最初の構想では、世界一周、最後はトラ猫(日本特有の猫?)の支配する日本で、忍びと対決、なんて考えていたのですが、それだと100話になりそうで荷が重い。タイ(シャム)からインドまでの短い距離、コンパクトに収めました。

 次回はタイムリープものを、と考えています。


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