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2.騎士を辞めます


 夜になって寝静まった廊下を、ずんずんと歩きます。

 まだ僅かに残っている使用人や見回り騎士と何度かすれ違いましたが、そんなの気にしません。挨拶されたら返します。ですがこちらから何かをするつもりはありません。


 私には、やるべきことがありますから──。


「おい! 待てって!」


 そんな私を呼び止める声が一つ。

 彼はロートレク・シュレイダ。騎士のくせに絶世の美少女と大恋愛を果たしやがった、年下趣味のクソ野郎です。


「悪かったって。少しからかっただけだろ。だから止まれ!」

「こんばんわ。急で申し訳ないのですが、陛下への取り次ぎをお願いします」

「おい!」


 やってきたのはラエット王国、国王陛下が眠る私室。

 その部屋の前で待機している騎士の二人に軽く挨拶してから、用件を伝えます。…………後ろで何かが喚いていますが、無視です。


「申し訳ありませんシルヴィア様。陛下はすでに就寝されています。用件は明日に──あぁ!?」

「陛下〜? 朝ですよ〜、さっさと起きてくださ〜い」


 どんどんと扉を叩き、返事を待たずに蹴破ります。

 数人の悲鳴。それは外と内から同時に聞こえました。


「な、なななんだお前! 俺は寝てるって言われただろうが!」

「陛下、素が出ていますよ。私やロートレクの前なら構いませんが、他の騎士がいるのですからもっと国王らしい振る舞いをお願いします」

「お、おう。すまない。夜なのに騒がしくして──って、全部お前のせいだろ!」


 ベッドの上で毛布に包まり、警戒したように指差し怒鳴る男こそがラエット王国国王──ブルックス・ディ・ラエット。私がお仕えする人です。


「はぁ、もういい……。お前に何を言っても無駄だからな。座れ」


 陛下は溜め息を一つ、室内に控えている使用人と騎士達を下がらせました。

 中に残ったのは私とロートレクだけ。座れと許可を得たので御構い無しに一番ふかふかなソファへ腰を下ろします。

 ちなみにロートレクは座ったまま。このような場面でも騎士としての誠意を示すようです。真面目ですね。


「で、何の用だ? この俺を叩き起こしたんだ。つまらない用件だったら減給だからな」

「契約終了です」

「ん?」

「私、今日で騎士を辞めます。今までお世話になりました」

「んん?」

「…………はぁ」


 困惑と落胆。

 一つは前方から、もう一つは後ろから。


「お前、急に何を……」

「やりたいことが見つかりました。旅に出ます」

「………………」


 陛下は私の後ろ、ロートレクへと視線を移します。

「おいどういうことだ説明しろ」「それは本人に聞いてください」と、そのような会話をしているように思えました。


「陛下、私──恋がしたいんです」

「……はぁ?」

「だから恋人探しの旅に出ます。探さないでください」

「…………少し、待ってくれ」


 待てと言われたので、待ちます。

 いーち。にーい。さーん。よーん……って、長いですね。


「陛下が長考するなんて珍しい。寝起きだからでしょうか?」

「お前のせいだろ」


 と、ロートレクは呆れたように一言。

 何でもかんでも私のせいにするのはどうかと思いますが、これに関しては何も言い返せそうにないので黙ります。


「お前は恋愛をするために騎士を辞めると。それを伝えるために、俺を叩き起こしたって訳か」

「ええ、その通りです」


 肯定するように頷くと、陛下は再び「はぁ……」と溜め息を一つ。

 その中には『溜め息一つで幸せも一つ逃げる』との言葉があります。まだ陛下は30前半ですが、そろそろ毛根を気にした方がいいと思います……って、悩ませているのは私のせいか。テヘッ。


「…………はぁぁぁ……分かった。それがお前との『契約』だからな」


 普通、こんな急に仕事を辞めると言ったら怒られます。

 しかも相手は国王。それを守護する騎士だと言うのに、そんな急に辞められる訳がないだろうと、下手をすれば罰せられるほどの無礼な発言。

 ですが、私が罰せられることはありません。


 それが私と陛下との契約。


 私は元々『傭兵』として各地を渡り歩いてきました。広大な大陸を歩くにはお金が必要です。行き着いたところで魔物を殺しまくり、お金を稼ぎ、そうやって何年も活動しているところ私は今のラエット王国に辿り着いたのです。そこで陛下に私の腕を買っていただき、しばらくは国王陛下の剣としてこの実力を振るうことを決めたのです。

 なので正しく言えば、私はまだ──傭兵です。

 ですが王国が野蛮だと名高い傭兵を雇っているのは世間的によろしくない。だから私は有限の騎士──特例騎士として任命されたのでした。


 契約と言っても所詮は金だけで結ばれたもの。

 他の騎士達と違って、私は陛下に忠誠心を捧げていません。

 この命を犠牲にしてでも国を守る愛国心もありません。


 ──報酬がいいから。

 私がこの国に雇われていた理由は、それだけです。


「辞めたくなったら辞めていい」

 契約の終わりは私の独断で構わないと、そう言ったのは陛下です。


「にしても、そうか……いつか来ると覚悟していたが、今がその時ってことか」

「『辞めたくなったら辞めていい』。そう仰ったのは陛下です。まさか今になって、あの時の言葉は無効だとは言わないでしょう?」

「…………ああ、そうだな。お前ほどの奴をずっとこの国に留めておけるとは思っていなかった。いつこうなっても良いようにと準備は整えてきたが、その……もう少し時間を考えてほしかったな」

「それは失敬。やろうと思ったらすぐに行動してしまう性格なので、さっさと言ってしまおうかと」


 あと、お酒に酔っていたために行動力がえらいことになっていた、という理由もあります。……七割くらい。


「話は理解した。一先ずは明日…………あー、もう今日か。今日の昼までに除名の話は纏めておく。とりあえず今は帰れ。激務だったんだ。眠くて仕方ない」

「分かりました。では、また──よろしくお願いしますね」


 シッシッと手を払われ、私は一礼した後に退出します。

 帰れと言われてしまったらおとなしく帰るしかありません。陛下と同じように疲れた様子のロートレクと別れ、私も王城に借りている私室へと戻りました。




 そして、お昼になりました。




「本日を以って、特例騎士シルヴィア・ガレットの任を解く。其方の素晴らしき偉業を讃え、後世にも其方の名を伝えていこう。今まで本当に──ご苦労であった」

「ハッ!」


 こうして私は騎士を辞めました。


 ──恋がしたい。

 その目的を果たすため、私は、恋人探しの旅に出たのです。


次回は8月7日の12時です。


『面白い』『続きが気になる』

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