18.結果良ければ全て良し!です
「あ、アンタ! この前の……!」
女男が私を指差し、動揺したように声を荒げました。
人様を指差しちゃダメって習わなかったのでしょうか。……まぁ所詮賊に堕ちた人には無理な話か。
「チィッ──! ここまで上手くいってたのに、アンタのせいで!」
「私のせいにされても困ります」
「アタシが悪いっての!?」
「はい。そうですね」
「ムキィィィ!!! ムカつく小娘ね!」
と、女男は激昂し、得物をこちらに向けてきました。
「あら? 私とやるつもりですか?」
「あの時は油断しただけよ! 今度は負けないわ!」
…………随分な自信ですね。
あれだけ無様に負けたくせに、まだ勝てる見込みがあると思っているなんて、何を根拠にそう思っているのでしょうか。
まだ隠している切り札を持っている?
それとも、ただの強がり?
「まぁどっちでもいいですね」
何を隠し持っていたとしても、この女男が私を傷つけることはできないでしょう。
「あなたを再び捕縛します。──お覚悟を」
「ふんっ! 出来るものならやってみなさい! 出来るものなら、ね!」
ここで予想外のことが起こりました。
てっきりこの前のように斬り掛かってくるのかと思ったら、一歩身を引いて私から距離を置き、腰から丸い玉を左手に取り出します。
「なにを、っ!」
不思議な行動に眉をひそめた、その時──地面が大きく揺れました。
私としたことが外部からの邪魔に反応が遅れ、ほんの一瞬だけ、女男から目を逸らしてしまったのです。
──あ、やば。
そう思った時にはすでに遅く、輩はその左手に持った球体を思い切り地面に叩きつけ、激しい光が辺り一面を照らしました。
私は生まれつき身体能力が高く、当然、視覚も人一倍優れています。
だからこそ輩が行なった目眩しは効果的で、お恥ずかしいことに私は侵入者どもの姿を見失ってしまった。
「…………逃げられてしまいました、か……」
ようやく視界が元通りになった時、人の気配はどこにもありませんでした。
水面が不規則に揺れている。
……おそらく、水中を通って逃げたのでしょう。
『追うか?』
「……いえ。諦めましょう」
普通に逃げられたのでは、まだ追えました。
あの女男からは相変わらず強烈な香水の香りがしたし、その残り香を辿れば追跡は容易だった。
しかし、水の中に行かれてはどうしようもない。
ぶっちゃけ下水の中に入るのも嫌だし、侵入者の目的が賊の頭の救出だったなら、これ以上の警戒は無用でしょう。
……不本意ですが、相手方の目的は達成したわけですからね。
「まずは戻って報告を」
『それと、地面をぶっ壊したことへの謝罪も……だな』
言われて気がつき、上を見上げます。
何とそこには透き通るような青空が──ここは地下用水路なのに、おかしな話ですよね。
「謝らなきゃ、ダメですかね……」
『これで侵入者を捕らえていたなら話は別だったが、失敗したからな』
くっそ、今から追いかけ…………流石に遅すぎますよね。
「やだなぁ」
『そう思うなら、今度からは考えて行動することだな』
嫌だ嫌だと思いながら、天井の穴を伝って地上に戻ります。
すると大勢の騎士達が穴を囲むように待機していました。その中にはゲルド団長の姿もあります。肩で息をしているところを見るに、今急いで駆けつけてきたようですね。
「ヴィアラ、どの……?」
「これはこれはゲルド団長。まさかここで会うとは思っていませんでした。貴方も侵入者を探してここに?」
彼らは穴の中から現れた私を見て、とても驚いた様子で目を丸くさせています。
「あ、ああ……そうだ。……その、ヴィアラ殿こそなぜここに?」
「私も同じですよ。あの後、ゲルド団長に協力を頼まれて私も独自に調査したところ……侵入者が地下用水路にいることが判明しました。侵入者は賊で、彼らの目的は以前私が捕縛した賊の頭の救出。それを阻止しようと思ったのですが……申し訳ありません。奴らの予想外の抵抗にあい、逃しました」
そこまで説明して、一区切り。
ゲルド団長は考え込むように、顎に手を置きました。
「賊の仲間の救出、そしてヴィアラ殿ほどの手練れを相手に逃げ切る奴らの抵抗……なるほど。先程の地揺れは賊の仕業だったのか」
──ん?
「この大穴は地揺れの影響で崩落したのだろう。──くそっ! 奴らめ卑怯な手を!」
──んん?
「ヴィアラ殿の尽力のおかげで奴らの目的が分かった。賊の頭を逃したのは痛手だが、奴らの目的が達成された以上、我々もこれ以上の捜索は無意味だろう」
──んんん?
「とは言え油断するのは禁物だ。再びの侵入を警戒しつつ、我々は任務に戻るとしよう。──全員聞こえたか! そういうわけだ。引き続き警戒は怠るなよ!」
「あ、えっと……」
「ヴィアラ殿のおかげで侵入者の目的が分かった。……また助けられてしまったな。貴殿の協力に心から感謝する」
これは自分で開けた穴です──とは、もう言えない雰囲気。
困った私は笑顔で親指を立て、一言。
「どういたしまして!」
『おいこら』




