17.邪魔されました
「「っ!」」
何やら、ただ事ではない様子。
私達は互いに向けていた剣先を収め、距離を取ります。
「──侵入者! 全員、今すぐ王城に行け!」
ゲルド団長が叫び、それまで観戦していた騎士達は一斉に立ち上がって訓練場を出ていきます。
「ゲルド団長、これはいったい……?」
「すまないヴィアラ殿。我々の決闘に邪魔者が入ったようだ」
先程、侵入者と言っていましたが、この警報がそれを報せるものなのでしょうか?
お城には騎士が大勢いて、この場にいなかった騎士が巡回しているはずですが、その監視の目を掻い潜って侵入してくるとは……相当な実力を持った刺客ですね。
「侵入者の目的は、何なんでしょうね」
「分からない。だが、わざわざ危険を冒してまで城に侵入してくるような奴だ。嫌な予感がする。──ヴィアラ殿」
「はい? なんでしょう?」
「恥を承知で頼みたい。力を貸してくれ」
そう言って、彼は深々と頭を下げました。
「はい。いいですよ」
「本当か!?」
そんなに意外でしたかね。すっごく驚かれてしまいました。
でも、これはクリスティアの護衛依頼の範囲内だと思うので、別に断る理由ってないんですよね。
「すまん。協力感謝する。それじゃあ頼んだぞ!」
「あ、ちょ、私は何を──って、行っちゃった」
協力してくれとか頼んだぞとか言われても、私は何を頼まれればいいのでしょう?
普通は指示するものですが、相当焦っていたのですね。おかげで何をしたらいいのか分からなくなっちゃいました。……あ、別に文句を言いたいわけではありませんよ?
「うーん、どうしようかなぁ……」
王城には騎士が沢山いるし、クリスティアには専属護衛騎士のアルバートがいる。
ぶっちゃけ、私のやることって無いんですよね。
『ヴィアラ。おそらく、侵入者を見つけたぞ』
「ぅえ?」
予想外な頭上からの助言に、思わず変な声が出ちゃいました。
「ヴァール。場所が分かるのですか?」
『それが侵入者だと断定はできないが、怪しい動きをしている者は見つけた』
「……お手柄ですね」
『其方のためだ。出し惜しみはしない』
かっこつけちゃって……。
でも、助かりました。
「──クリスティア様」
まだ観客席にいた護衛対象へと振り向きます。
彼女は不安そうな顔をしていました。でも怖がってはいませんでした。
護衛騎士への信頼があるから、でしょうか。
それとも王女として情けない姿は見せられないと、強がっているのでしょうか。
まぁ私にとってはどちらでもいいです。
クリスティアのことはアルバートに任せて、私は私でやるべきことをしましょう。
「私は侵入者を探してきます。貴女は絶対に──彼から離れないでください」
「大丈夫、なのですか?」
その問いかけを鼻で笑い飛ばします。
「先程の戦いを見ていませんでしたか? 私、かなり強いんですよ」
「……ええ。知っていますよ」
「なら良し」
クリスティアの笑みに若干、やわらかいものが戻ってきました。
それを見届けられたので満足。
彼女に背を向け、駆け出します。
「ヴァール。その侵入者は今どこに?」
『ちょうど真下にいるな』
…………真下?
地下にいる、ということでしょうか。
「用水路を歩いているのでしょうか」
『おそらく、な』
侵入者の逃げ道としては、よくあるやつです。
しかし、それが分かったところで、その用水路の入口が分からなければ意味はないのですが────あ。
「ヴァール。侵入者と思わしき連中は、この下にいるのですね?」
『そうだと言っている』
では、ちょうどいいですね。
『待て。なぜ剣を抜く。なぜ剣を構える』
「私、分かってしまいました」
『何をだ──あ、いや。言わなくていい。聞きたくない』
「そう。入口が無ければ、作ってしまえばいいのです」
『だから言わなくていいと────は? 今なんて? おい、待──ッ!』
精神を研ぎ澄ませ、一閃。
立っていた地面は細切れになり、落下します。
真っ暗な中を私は進みます。やがて用水路の灯りらしきものが見えてきて、その次に、驚愕したように真上を見つめて固まっている怪しい人物達を発見しました。
あの顔、見覚えがあります。
クリスティアを拐おうとしていた賊の頭、女のような男の人です。
どうやら侵入者は──賊。
捕らえられた賊の頭を救出しようと計画し、ちょうど良く私とゲルド団長との手合いで警備が薄くなったところを狙って侵入したのでしょう。
なるほど。彼らの実力ならば、騎士達の目を掻い潜ることができた理由にも納得です。
しかし、相手が悪かったですね。
「こんにちは。数日ぶりですね」
いまだ動けずにいる彼らに、まずは挨拶を。
剣の切っ先を突きつけ、ニコリと微笑み──次の言葉を紡ぎました。
「逃がしませんよ?」




