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カミングアウト



「失礼しました沙月さんでしたね。それで沙月さんはなぜここに?」


 さっきから視界の隅でちょろちょろしていたのはあなたでしたか。

 場所が場所なだけに、お礼参りかなにかかと思って気になって仕方なかったんですが。

 佐々木さん改め沙月さんですね。もう覚えました。

 俺だって向かい合って名前を聞けばそりゃ頭に入るわけだけど……沙月さん、沙月さん……ん? このリストにはないぞ?


「会長?」


 村川さんの声に沙月さんを見ると、俺を見たまま固まっている。


「沙月さん?」


 石像のように固まっている沙月さんに声をかける。

 だけど俺と視線を合わせたまま動かない。

 いきなり出てきてなにがしたいんだろう。

 謝罪要求ならできれば村川さんの後にしてもらいたいんだけど。


「会長?」


 さっきから会長ってなに? 生徒会長? あれ? このひと何年生?


「沙月さん?」


 ちょっとピクリとも動かないんですけどこのひと。


「会長!」


 村川さんが沙月さんをらぐらぐら揺する。

 あの、結構な力で揺すってるけど大丈夫なの?

 結構華奢だよ? 腕とか細いよ?


「しっかりしてください会長!」

「はぉ!? あ、も、申し訳ありません!」


 髪がわさわさになるぐらい、ぐらんぐらんしたところで沙月さんがようやく息を吹き返した。

 よかった。男性恐怖症で気絶したのかと思った。

 俺もそうだったからその気持ちわかるよ。


「逢坂さんに初めて名前を呼ばれたものですから……心と体が活動休止してしまって……本当に申し訳ありません」


 それ気絶だよ?


「こちらこそ悪逆非道の数々、心からお詫びいたします。もうあのような振る舞いは慎むよう心と女神に誓いましたので、どうかお許しいただければ」


 俺は深く頭を下げた。


「え、女神?」

「いえこちらの話です。それで俺になにか用事ですか?」


 この沙月さん。よく見るとエグいくらい顔が整っている。

 それに蜂蜜のような綺麗な色をした長い髪に、均整の取れた体型。北欧系ハーフかな。

 こんな美人さん、遥さんと女神以外見たことが無い。女性恐怖症を克服してからの記憶だけど。


「逢坂さんが謝罪なさる必要はありません。今からすべてを説明させていただきますので、お時間いただいてよろしいでしょうか」

「説明ですか? それはありがたいのですが、このあと夕方まで用事がありまして」


 沙月さんが俺の手元をちらっと見る。


「その件でしたら問題ありません。今から全員を一堂に集めますので」

「一堂に集める? え?」

「私の推測が正しければ、ですが、逢坂さんは冷酷な態度をとった女子生徒たちに謝罪をなさろうとしているのではありませんか?」

「え、と、その通りですが。え? そのこと知ってるんですか?」

「はい。それについても説明させていただきます。もうひとつお伺いしたいのですが、逢坂さんは女性恐怖症を克服なされたのですか?」

「はい?」


 そのことも知っているのか。てかそもそもなんで女性恐怖症のことを知っている?

 なんだかこんがらがってきたぞ。


「克服……はい。できたとは思うのですが……」


 俺はそう答えた。

 すると女子二人が互いに顔を見合わせて頷きあう。

 

「それでは改めて、お時間をいただいてよろしいでしょうか」


 なんだろう。沙月さんのカリスマ性かな。

 ノーと言えない空気が漂っている。


「村川さんはどうでしょうか」


 先に時間をもらっていたのは村川さんだ。

 俺はそれについて確認すると、村川さんがぶんぶんと首を縦に振る。

 沙月さん──会長にすべてバトンタッチするといったところか。

 腑に落ちない点も多いが、今日予定していた数人の謝罪を一度に終えられるのならば、その分だけ早く病院に行ける。

 病院行けば遥さんに会える。

 要するに遥さんといられる時間が多くなる。


「では沙月さん。よろしくお願いします」


 俺がお願いすると「ありがとうございます」沙月さんがサッと右手を上げた。

 するとどこに潜んでいたのか、四方八方から姿を現した女子生徒たちが、わらわらとこっちに近寄ってきた。


 ひえっ!


 なんですかやっぱりお礼参りですか策士ですね言っときますけどこっちにはケンカ最強南部君がいますからね彼は相当やりますよ私を倒したければ先に彼を──


「逢坂さん、ご心配なく。まだリハビリ段階でしょうから」


 沙月さんが上げていた手を下げる。

 すると、ザッザッと地面を鳴らしていた行進音がピタリと止んだ。


「この距離でしたら大丈夫そうですか?」

「は、はい。お気遣いどうも……」


 いや平気だけど怖い。これは女性恐怖症というより別の、なんというか防衛本能だからね。

 それにしてもよく訓練されていますね。あなたの会員さんは。あ、会員さんでいいんですよね。


「逢坂さん。逢坂さんが女性恐怖症と知っていながら告白を繰り返してしまい申し訳ございませんでした!」


 え、急に大声出してどうしたの沙月さん!?


「申し訳ございませんでしたっ!」


 え? なに? 合唱? 卒業生を送る会?


「それから告白させていただき、ありがとうございました!」


「ありがとうございましたっ!」


 ちょ、怖い怖い!

 女子怖いじゃん!!





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