表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷酷王子などと呼ばれていたようですが今からでも遅くないと心を入れ替えることにしました  作者: 白火
第三章 冷酷王子などと呼ばれていたようですが今からでも遅くないと心を入れ替えることにしました
29/36

なんかいいなおまえら



 うわ。美味しそう!

 さすが遥さん。

 でもこんなに手の込んだ弁当、いくら『朝食のついでだから』とはいえ、毎日だと大変じゃないかな。

 ……よし。今日帰ったら話し合おう。弁当はもっと簡単なものでいいよって。

 でなければやっぱり俺が作ろう。


「お。さっき教室でもちらっと見えたけど、はるおみの弁当美味そうじゃん。手作り?」


 おお。わかるかね、翔太君。


「本当! すごく可愛いです!」

「かわ……? ありがとう十河さん」


 可愛いかどうかはわからないが、遥さんの手作り弁当を褒められるのは気分がいい。


「五大栄養素もバランスよく含まれてるし、なんかこう、愛情を感じるよな。お母さん?」


 五大栄養素って、翔太、おまえさんなにものだよ。


「んや。叔母さん。母さんの妹」

「へえ。叔母さんと暮らしてんだ。んじゃ両親は?」

「俺、三年前に実家追い出されてるから。だから叔母さんと二人暮らし」

「は? 追い出され……って中学一年で?」

「正確には小学校卒業後すぐに」

「……え、マジかよ。つかナニしたらその年で家を出されるんだよ……」

「昔の性格が災いしてな。ほら、そんなことはいいから食おうぜ」

「ちょっと待て、すっげぇ気になるんだけど」

「んなことよりこっちのこと教えてくれよ。購買で売ってるものとかテストの傾向とか」


 話題を変えないと。

 ほらみろ。

 十河さんと沙月さんが固まってるじゃねぇか。

 ん? 沙月さん? さっきからどうしました?


「沙月さん、具合でも悪い? なんか調子悪そうだけど」

「い、いえ。そのようなことは……」

「でもなんか口数少なくない?」


 どうしたのかな、と隣の十河さんにも振る。


「え、と。レコちゃんはきっと緊張しているのだと思います」

「きんちょう?」


 それって──

 俺はパンの袋と格闘している翔太をちらっと見る。


「そ、そうなんです。あの、近藤さんと初めてお話をしたので……」


 沙月さんが申し訳なさそうに言う。

 すると


「ん? ああやっぱ俺か。なんかすまん。ちょっと離れとこうか?」


 なかなかパンの封を開けられずにいた翔太が立ち上がろうと──


「あ、ち、違います! 平気ですから! 私の方こそ申し訳ありません!」


 沙月さんが勢いよく立ち上がり、深く頭を下げた。


「決して近藤さんのせいなどでは──」


 と、そこへ意地の悪い風がさあっと吹き抜け、沙月さんのスカートの裾を軽く煽った。

 沙月さんの白い太腿が垣間見える。


「きゃ!」


 沙月さんは恥じらい、ペタンとその場に座り込んだ。


「ええと沙月さん。長い付き合いをお願いしたいから最初に言っておくけど、俺ってば女子にはまったく興味ないんだよね。だから安心していいよ」


 翔太がびしっと決め顔をする。


「そういうの見ても全然、これっぽっちも興奮しないから。ほら。はるおみみたいに鼻の下伸びてないでしょ?」


 おおい。その言い方は二人を傷つけるぞ。


「え、あ……」


 いや、俺の顔見ないでください沙月さん。

 え? 鼻の下伸びてる? 伸びきってる?


「では、もしかして近藤さんは春臣さんを……」


 そっち!? ちょっと!?

 ピュアなおいらの知らない園は男子校じゃなくてここにあったの!?


「いいな、とは思っているけど、まだこれからじゃない? お互いまだ知り合ったばっかりだし」

「──ぶふっ“! おい! 否定しろよこのイカレポンチキがっ! これ以上イケメンを無駄遣いすんなっ!」


 黙ってりゃ相っ当モテるだろうに。

 こいつ、楽しんでやがるな。


「いいな……」


 ちょっと十河さん!? なにがですか!?


「冗談だからね!? 十河さん! なあ翔太!」

「……」


 くそっ! おい! そこで黙るな!


「──くすっ!」


 ふいに噴き出した沙月さんに俺と翔太が「ん?」と目を向ける。


「ご、ごめんなさい。ええと……実は私、以前から近藤さんとお話してみたいと思っていたのです」

「え。そうなの? 近藤君って、ここにいるこの翔太?」


 俺は驚き、聞き返した。


「はい。近藤さんとならお話しができるかもしれないって、勝手に、しかも根拠もなくそう思っていたのですが……その理由がそこにあったのかなって」

「そこって……翔太があれってこと?」

「はい……近藤さんの女子生徒を見る目が、以前の春臣さんとどことなく似ているような気がして……」

「ふっ。沙月さん。俺のことは翔太って呼んでいいんだよ」


 俺とこいつが似ている……だと?


「翔太。非常に残念だがやっぱりキミとの縁はここまでだな」

「はいそこっ! やっぱりってなんだよ! 前々から思ってたような言い方すんな! しかもこの感動的な流れでバッサリと!」

「そもそも俺とおまえは似ていない」

「ひっで! いいか? ここ渋谷区ではなぁ──」




『心配かけてごめんね』


 俺と翔太がやんやとやってるとき、十河さんが沙月さんに向かって小さく囁いたその言葉の意味は、俺にはわからなかった。




 ◆




「にしてもウケたよな。鷺沼の顔」


 食事が終わり歓談していると、翔太が教室での一幕に触れた。



 遥さんの弁当は控えめに言って最高だった。

 遥さんありがとう。控えめに言って大好きだよ。

 オムレツは家に招待したときに食べてもらうことにした。

 いきなり弁当分けても引かれるだろうし、最初はやっぱり本来の味を100%堪能できる出来立て熱々のオムレツを食べてもらいたい。

 あ、言っておくけど冷めても美味しいんだからね。勘違いしないでよ。



「ぐぬぬ、なんて実際に言うやつ、ホントにいるんだな。いやぁはるおみのおかげでいいもん見れたわ」

「おまえさぁ。ずっと吹いてたろ」

「だってあんなんされたらぐうの音も出ねえじゃん。あいつらが大切に鳥籠にいれていた十河さんと沙月さんに対していきなりあんな態度、あんなのイケメンでも許されない暴挙だってのに、はるおみっつったらああも自然にやっちまうんだからな」

「俺は別に、十河さんと沙月さんと仲良くしたい一心で」

「私だってほかの男性はともかく、逢坂さんとはもっとお近づきに……」

「ええ。こうして昼食をご一緒できるなんて、夢にも思わなかったですから」


 鳥籠だなんて、十河さんと沙月さんが二人して「心外です」と頬を膨らませる。


「──はぁ~おっかし。いつ思い出しても笑えるわ。で、はるおみんちにはいつ行けばいいんだ?」

「は?」


 急になに言ってんだこいつ。


「いやだから。おまえんちにいつ──」

「なぜそうなる」

「だって俺たち友達だろ? 十河さんを誘ってたんだから俺だって──」

「おいこら。普通そういうのはもっと親しくなってから段階を経てそれでも遠慮がちに──」

「なんもしねえって。安心しろよ。一回目でさすがにねえよ。たぶん」

「その段階じゃねえ! アホかおまえは! ぜってぇくるな! おまえだけはぜってぇ家に入れない! ちょっと顔写真撮らせろ! 守衛さんに危険人物として指名手配してもらうから!」

「あ、あの。逢坂さん」


 両手で隠そうとする翔太の顔をどうにか写真に収めようとしていると、十河さんが話しかけてきた。


「そのことですけれど、姪のさくらもご一緒させていただくことは……」


 ちょっとピンボケしてしまったが、なんとか翔太の顔写真を手に入れた俺は


「さくらちゃん? もちろん構わないけど、あれ? 妹じゃなかったんだ」


 姪とは知らなかった。

 てっきり妹だとばかり思っていた。


「はい。さくらは姉夫婦の子なのですが。その、あの日以来逢坂さんのことをすごく慕っていて、ことあるごとに逢坂さんの話をするのです。私もさくらももう逢えないと思っていたのですがこうして再開することが叶って、そのうえお食事にまでご招待いただいて……厚かましいとは思いますがこんな機会は二度とないことかもしれませんので、ご無理でなければさくらも……」

「それはなんとも嬉しいな。二度とないなんてことは決してないけど、もちろんさくらちゃんも招待させてほしい」


 と、安心したような表情を見せた十河さんが沙月さんに視線を送った。

 なんのサインだろう。


「あ、春臣さん! あの──」

「そうだ! せっかくだから沙月さんもどうかな! ほら、美咲たちにもリモートで参加してもらって遠距離同窓会なんていうのは」


 同窓会を開くにはまだそれほど懐かしい面子ではないが、口上としては最適だろう。

 沙月さんが切り出そうとしていたことと意図が違っていたらゴメンだけど。


「え。よろしいのですか? 私もお伺いしてしまって」

「もちろん。遥さん──俺を面倒見てくれている叔母も俺に友人ができたことを喜ぶし、実はちょっと相談したいこともあったから」


 十河さんと沙月さんが笑顔で視線を交わし合う。


 もしかしたら十河さんは、さくらちゃんを誘って人数が増えたことで、沙月さんも誘いやすくなってほしかったのかもしれない。

 ならば沙月さんから言わせずに、自分から切り出して正解だったかもしれない。


「なんかいいなおまえら」


 翔太が芝生を毟っては放り、放っては毟っている。

 いじけアピールがなんかすごい。


「そんな顔すんな。翔太も──」

「え? いいのか? じゃあ手土産持って──」

「翔太も仲良くなったらそのうちきっと招待してやるからさ。たぶん」

「おい!? そこは『翔太も友達だから来いよ』じゃねえのかよ!」

「いんや? うちのマンションのコミュニティチャットにおまえの顔写真送っておいたから。もうすでに危険物として出回ってるころじゃないか?」

「は、はぁあ!?」




 春というより初夏に近づきつつある日差しの下で昼食を楽しんだ俺たちは、


「──ジョークだって。翔太も来てほしいに決まってるだろ?」

「……冗談にしてはちょっとキッツいんですけどね」

「逢坂さんもそういう冗談を口にするのですね」

「春臣さんは男子の扱いがとても上手ですからね」

「まあ写真を送ったのは事実だけどな」

「おい!!」


 そんな軽口を交わす関係へと変化を見せながら学校へと戻るのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ