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冷酷王子などと呼ばれていたようですが今からでも遅くないと心を入れ替えることにしました  作者: 白火
第三章 冷酷王子などと呼ばれていたようですが今からでも遅くないと心を入れ替えることにしました
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ということになりましたけど、なにか?

本日2話目です。

前話がまだの方はそちらからお願いします。



 沙月さんは廊下側の後ろから二番目の席に、背筋を伸ばして座っていた。

 いつ見ても折り目正しい姿に感心する。


「沙月さん。お久しぶりです──ああいいです、いいですよ」


 声をかけると沙月さんは立ち上がろうとしたので、俺はそんな沙月さんを手で制した。


「本当に驚きました。春臣さん。こちらへ戻られたのですね」


 沙月さんは蜂蜜色の長い髪を耳にかけると、またお会いできて嬉しいです、と座ったままの姿勢で小さくお辞儀をした。


 そうか。沙月さんは俺がここの初等部に通っていたことを知っているのか。


「いろいろとありまして──またよろしくお願いします」


 ん。そういえば。

 十河そごうさんも沙月さつきさんも、ほかの女子生徒のように友達同士で語らう様子もなく、それぞれ一人でポツンと座っている。

 高校が始まってそろそろひと月になるけど、クラスに馴染めていないのか。

 内部生同士が集まるのは、まあしょうがないが。


 十河さんと沙月さんは、たしか楽陽ではそれほど親しい間柄ではなかったと聞いていたが……こっちではどうなんだろう。


「ええ──早速で申し訳ないんですが、沙月さんに質問したいんですけど」


 沙月さんは目を二度三度瞬くと、なんでしょうと小首を傾げた。


「俺から話しかけられるのは迷惑ですか?」

「え? そ、それは……私は振られた立場ですけれど……でもそのような気遣いは……」


 あ、違う! そうじゃないんです!


「や、ごめんなさい。そういうことではなくて、俺や他の男が沙月さんと話すことを快く思っていない男子生徒がいるそうなので、ちょっと確認しておこうかなと」

「え、春臣さん、それはどういう……?」


 沙月さんは俺の質問の意図がわからないのか、きょとんとした顔で俺を見る。


「俺はこっちでも沙月さんと普通に会話ができれば、なんて思っているんですけど、どうやら沙月さんと話すには許可が必要らしいのですよ。知らなかったですか?」

「許可、ですか?」


 沙月さんはますますわけがわからないという顔をする。

 鷺沼君がしていることを知らないのかな。


「そういえば男性恐怖症の方はどうです?」


 俺は周囲に聞こえないよう、少し声のトーンを落として訊ねた。


 もしかしたら鷺沼君は、男性恐怖症の沙月さんを慮ってルールを作っているのかもしれない。

 以前、美咲や沙月さんが俺にそうしてくれていたように。


「ええと。はい。やっぱり春臣さんや美咲さん以外の男子は苦手で……こちらの男子生徒とはまだ会話も……」


 なるほど。


「じゃあ、鷺沼君は沙月さんを護っているのかもしれませんね」

「護っ…………あ!」


 さっきの俺に対する鷺沼君の態度に、沙月さんも思い当たる節があったようだ。


「それって、まさか、その、私から春臣さんを遠ざけようと……」


 俺は頷く。


「まあ俺だけじゃないみたいだけど」

「そんな! どうして勝手に! 私はそんなこと望んでもいないのに!」


 沙月さんが感情をあらわにする。


「沙月さん、ちょっと声が──ということは、俺は沙月さんに話しかけても問題ないと、そういうことでいいのかな?」

「もちろんです! こうして春臣さんと再会できたのに──」


 沙月さんは立ち上がると、クラスの中央──というより鷺沼君の方を向いた。

 そして視線だけを俺に合わせると


「春臣さん。私は貴方に告白して振られましたが、それでも貴方とはこれからも良い関係を築きたいと考えています。ですから、このような私ですが、どうか私と友達になってください!」


 クラス中に聞こえるような大きな声でそう言った。


 俺は一瞬、驚きはしたものの


「こちらこそ。よろしくお願いします」


 手を差し出した。

 沙月さんは俺の手を握り返すと、急に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして俯いた。


 なんていい子なんだ。

 こんないい子を困らせるとは鷺沼め。

 まあでも男子が近寄ってこないのは、沙月さんにとっては良いことなのかな。


 とにかく今日だけで翔太と沙月さん、二人も友達できた。

 遥さんに教えてあげなきゃ。

 十河さんは友達として数えていいのかな。ちょっと神々しすぎるけど……。 



「さあ、授業始めるぞ」


 男の先生が入室してきたところで俺は自分の席に戻った。



 そして俺は、声には出さず表情で──


 『ということになりましたけど、なにか?』


 と、鷺沼君に向かって鼻を鳴らすと、


「この……やろう……」


 彼はなんとも悔しそうに俺を睨み続けるのだった。


 ちなみに翔太は授業中、何度も噴き出していた。




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