トモダチ
「──じゃあ、逢坂の席はあそこな」
「うす」
小坂先生が席を指さす。
中央の列、前から三番目。
なんとも微妙な位置だ。
俺は空いている席に向かいながら、その周囲を窺う。
右、男。左、男。前、男。後ろ、男……。
あれ? ここ男子校?
次の席替えいつ?
新品の教科書が積まれている席に座る。
良かった。教科書が用意されてて。
めっちゃこっち睨んでる隣の男子にお世話にならなくて済む。
俺は大量の教科書を机の中に押し込ん……ちょっとこれ全然入らないんですけど。
入りきらない教科書どうすればいいの?
「近藤ぉ、逢坂にロッカーの使い方教えてやってくれぇ」
ん? なるほど。ロッカーがあるんだ。
で、近藤君とは。
「──はい」
後ろの席の男子生徒が先生に返事をする。
おお、君が近藤君ね。
良かった。睨んでる男子じゃなくて。
「ほら、それ持ってついてきて。ロッカーは教室の外だから」
「お、さんきゅ」
俺は教科書を抱えると、近藤君についていった。
「ここが君のロッカー」
廊下に据え付けられたロッカーのひとつを指さすと、近藤君はロッカーの上にひょいと座った。
俺はロッカーを開くと、どさっと教科書を入れて──
「これどうやるの?」
「四桁の数字を入れてエンター、開けるときは同じ番号を入れてエンター。同時に三回間違えるとロックがかかるから気を付けて」
近藤君が丁寧に教えてくれる。いい人そうだ。
見た目はチャラそうだけど。
「ねえ、逢坂君、だったよね。逢坂君さ、うちのクラスの男子、特に内部生の鷺沼君、ほら、君の隣の席の男子。気をつけた方がいいよ?」
ロッカーに鍵をかけて立ち上がった俺は
「どーゆーこと?」
近藤君の忠告に首を傾げた。
「十河さんだよ。鷺沼君のグループは十河さんともう一人、沙月さんを男子から護ろうと躍起になってるんだよ」
「はぃ?」
驚いて変な声が出ちゃったじゃねぇか。
「だから。いきなり十河さんに告白した逢坂君を彼らは危険人物としてマークしたってこと」
んだそりゃ。
「十河さんとは中学が同じだっただけで特になんもないぞ?」
「へえ。逢坂君も楽陽から来たんだ。どうりで。だからあんな大胆な告白できちゃったわけか」
「ん? いや。告白なんてしてないぞ?」
「はあ!? あれのどこが告白じゃないってんだよ!」
「食事に誘っただけだろ。だいたい転校初日にいきなり告白するアホいるか」
「あ、逢坂君さ、みんなからちょっと変わってるねってよく言われるでしょ」
はあ、めんどくせ。
まあ好きになりたいと思ってはいるけどさ。
十河さんは天上界の人間だぞ? や、人間じゃない。女神か。
そんな簡単に降りてくるわけねえじゃねえか。
「まあとにかく十河さんとはなんもねえから。ん、そういえば近藤君も十河さんのことどうこう想ってんの?」
「翔太でいいよ」
「んじゃ翔太。お前も十河さんのことどうこう想ってんの?」
「全然。俺は女に興味ないから、さ」
ウィンク……だと?
「お、おう。そ、か」
なにこれ。
初対面だよね、俺たち。
そういうことってさらっと言っていいの?
おい、二回もウィンクすんな。
俺相手にイケメンの無駄遣いすんなっつの。
「そういうことだから、よろしく。はるおみ」
どういうことだよ。
だからウィンクすんなっつの。
「ああ。よろしく近藤君」
「だから翔太でいいって」
「おう、近藤君」
「聞いてる? はるおみ」
「聞いてるぞ、近藤君」
なんか突き抜けてていっそ清々しいな。こいつ。
「おぉい。終わったらさっさと教室に戻れぇ」
「はいっす! すぐ行きま──おい、近藤君。背中をつつくな」
「だから翔太だって。外部生同士仲良くやろうよ」
「わかったって、近藤──ウは! 脇はやめろって!」
「俺がはるおみを護ってやるからさ」
「お前、だいぶ変わってるって言われないか? 友達がいたらだけど」
「トモダチ……?」
「ああ、やっぱいいや」
どうやら友達はできたようだ。
家には誘えないけど。