適合
「──すごい……地下にこんなのがあったなんて……」
俺はありえないような光景に夢中になる。
地下は人工都市があって人類が生み出した最先端技術の塊のような所。
「ここはいずれ人類の要になる場所よ、いつか上の世界が滅んでしまった時にね」
「地上の世界が滅ぶんですか?」
地上の世界が滅んじゃったらここで暮らすことになるのか……それはちょっと悲しいな
それは綺麗な青空を見れなくなる事を意味しているから……
「うふふ──そんな暗い顔しなくたっていいのよ?そんな事起きるはずないもの、今はね」
俺がなんとなく思いにフケている間にも車は音を響かせながら道路を進んでいく。
──ヒロちゃん……ヒロちゃん……ヒロちゃんおかえりなさい。
ただいま……母さん
──ヒロ君のお母さんが倒れたって……!!
か、母さんが倒れた?
──母さん!母さん!──
ヒロちゃんお母さん病気みたい……お父さんのことよろしくね。
──父さんはなんで来ないの?なんで?なんで母さんの葬式にも来ないの?
最後に母さんが俺に言ったのは……
「ヒロちゃんが悲しんでる所お母さんは見たくないの、だからお母さんを笑って見送ってくれない?」
母さんは最後の最後に「お父さんをよろしく」と言って覚めることのない永遠の眠りついてしまった。
そしてその日から僕の目に映る景色は色が無いように見えた。全てが白黒のようだった。
母さんに『お父さんをよろしく』なんて言われたけど、あんな父親によろしくなんてできないよ。
──母さん、戻ってきて……
───
「起きなさい、ヒロ君……ヒロ君ってば」
「うぉああああああ!!」
「ほら目的地に着いたわ、降りなさいヒロ君」
どうやらいつの間にか寝てしまってたようだ。ん?目元が濡れている?
俺は泣いてたのか?
もう、母さんの事で泣かないって決めてたのにな、俺はまだあの時と全然変わっちゃいないのか。
俺は「はぁ」と変わらない自分に呆れて溜息を吐いた。
「溜息なんかしちゃって幸せが逃げるわよ、さぁ早く行きましょ」
「は、はい」
車を降り、先導するミスズさんの後ろを歩く。──のだがさっきから同じ所をぐるぐると回っている。
「ミスズさんもしかして迷いました?」
「い、いえ、迷ってなんかないです……」
顔を少し赤くしながら不機嫌そうにしている。
「ちょ、ちょっと待ってねヒロ君」
ミスズさんは鞄から携帯を取り出し、誰かへ電話をかける。
「もしもし、そっちから私の居場所が分かるでしょ?至急迎えに来なさい」
電話を終えてわずか数秒後、横から人が出てきた。
──これ壁じゃなくて扉だったのか。
「何やってるんですか、ミスズさん」
出てきたのは白衣を着た男性だ。
「来て早々で悪いんだけど、ヒロ君をあの場所へ案内してくれる?」
「えぇ!?もう、本当に人使いが荒いんですからーったく……」
「なにか言いました?」
「い、いえなんでも!彼を早急に連れていきますねー!!」
俺は白衣の男に襟を掴まれて走られる。
「ちょ、ちょっと待ってく、苦しい!!」
「あ!ごめんごめん」
しばらく走った所でやっと襟を掴む手を離してもらえた。
「いやァ、さっきはすまなかったね急に走り出しちゃって」
「い、いえ大丈夫です。そ、それよりこの場所は?」
正直、気持ち悪くて吐きそう……
そんな状況でも目前の光景に質問せずにはいられなかった。
「あぁ、ここかい?ここは今から君にASCに適合させる所だよ」
「ASC?なんですかそれ」
「簡単に言うと君に眠っている力を解放するために必要な状態の事だよ」
俺に眠っている力?俺にそんなものがあるのか?
──まぁ、何も無ければここに呼ばれる事なんか無いか。
「どうやって俺とそのASCとかいうものを適合させるんですか?」
「あれだよ」
白衣の男の視線先へ目を向けると、そこには液状のモノが入ったカプセルの様な物があった。
「俺、あのカプセルの中に入るんですか?息出来なくて死ぬんじゃ?」
中、液体だし……
「大丈夫だよちゃんと息出来るから、でも少し慣れるまでキツいと思うけどね」
「え!キツいですか?」
「まぁ、そうだね人によるけど例えば頭痛だったり、吐き気とか症状に出る事があるよ」
なんか、地味にキツいモノなんだけど。
「まぁ、本当に駄目な時は右手挙げてサインしてくれ、そうしたら一度中断するから」
「もうやるんですか?」
今からだとまだ心の準備が……
「まだミスズさんからの指示がでてないから出来ないよ、ははっ……」
白衣の男が苦笑いする。
「えっと、じゃあミスズさんの指示はいつでるんですか?」
「もうそろそろだと思うけどなぁ~」
瞬間――電話の着信音が鳴る。
白衣の男は慌てて白衣から携帯を出し、通話を始める。
『もしもし、蘭くん?こっちの準備は出来たから適合始めていいわよ』
どうやら白衣の男は蘭さんというらしい。
蘭さんは通話しながら見えない相手にペコペコしている。
たとえ見えてなくてもペコペコしなきゃいけないほど恐い人なのだろうか。
そんな事を思っていると、通話を終えた蘭さんは俺を見て言った。
「ミスズさんから適合始めてもいいってさ」
何故か蘭さんの目が泳いでいる。
そっか、通話相手はミミズさんだったのか、きっと別でミスズさんに恐い事でも言われたんだろうな。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん!大丈夫だよ、きっと成功させるから」
身体震えてるけど大丈夫かな、蘭さん……
一体彼に何を言ったんだろう……ミスズさん……
「心配なんですが……」
「ピンチの時こそ人は成功するものだよ、だから僕に任せて!」
もうピンチとか言っちゃってるよこの人、俺はこれからどうなっちゃうの……?
「よーし!!それじゃあ、ヒロ君あのカプセルの中に入ってくれ!」
もう不安でしかないけど、腹をくくってカプセルへと向かっていく。
――もう引き下がることはできない、カプセルへと近づくとカプセルが開き、その中へと足から入っていく。
――完全に身体が入ったら、カプセルが閉じていく。
《ヒロ君、聞こえるかい? 》
脳裏で蘭さんの声が聞こえる。俺はそれに応えるように頭の中で喋った。
(はい、聞こえます)
《よしそれじゃあ、早速適合を開始するよ。肩の力を抜いて、適合させる事だけに集中してくれ》
(分かりました、やってみます)
頭の中に不思議な感覚が流れはじめる、今確かに液体の中にいるはずなのに息が出来ているし、蘭さんが言った通り気持ち悪さもある。
けれど俺は頭の中に流れる不思議な感覚に集中する。
あぁ、なんだろう。ひたすら光の中を進んでいくようなこの感覚。
先へ辿り着きたいけど、辿り着いてはいけないようなこの感覚。
……なんだろう。
―――
「緊急事態発生!!適合は成功しましたが、ヒロ君の意識が戻ってきません!!」
《今のヒロ君はどんな状態なの!?》
「意識が乱れていて、こちらの意識に戻すことが不可能な状態です!」
《仕方ないわ、カプセルを無理矢理こじ開けてヒロ君を助け出して!彼の身の安全が最優先よ!!》
「了解しました!」
ヒロ君……無事でいてくれよ!!
緊急時専用の器具が入ったケースのガラスを割り、器具を持ってカプセルへと向かう。
「まさか、こんなことになるなんて……僕がもっとちゃんとしてれば……」
後悔と助けたいという感情でカプセルを無理矢理こじ開けていく。
―――
光の中から人影が現れる。
『ヒロちゃんならきっと運命を変えられるわ』
か、母さん?母さん!
届きそうで届かない、それが悔しくて悔しくて仕方ない。
――もう一度母さんに会いたいよ……
《ヒロ君!……ヒロ君!》
蘭さんが俺を呼んでる声がする、でもそれに応えてしまったら、また母さんと離れてしまう予感がした。そんなの……嫌だ。
『ヒロちゃん、ここにいちゃダメよ、行きなさい、お母さんがあなたに何かできるのはこれが最後なの、だからお願い……』
分かった……分かったよ……母さん……
さっきまで進んでいた光が逆行していく。
「ヒロ君……ヒロ君……大丈夫かい?!」
「ん……、俺は──」
蘭さんが俺の顔を見るなり安堵な表情を浮かべる。
「適合は……失敗ですか?」
「その逆、大成功だよ」
「そうですか……良かったー……」
俺は「はぁ」と安堵の息を吐く。
「この後は、どうするんですか?」
「僕がミスズさんの所へ案内するから、後は彼女の指示に従ってくれ」
「分かりました」
俺には何故か謎の虚しさが残っていた。
「それじゃあ彼女の所へ行こうか」
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