『』だった生活にサヨナラ
『α』とは始まりであり、『Ω』は終わりであって『α』の始まりである。
西暦3000年──人類は約束された災いを齎す。
人間は傲慢が故に禁忌とされてきた巫術を使い、神を生み出そうとしたのだ──だが生まれたのは人の姿を偽った化。
人はそれを『異端』と呼び、恐れた。
『異端』は人の負の感情をエネルギーとし、世界を混沌へと陥れるほどの強力な存在だった。
『異端』の誕生から5年が経過し、政府は対異端機関『Nemesis』を設置。
nemesisでは『異端』に対抗するべく研究を重ね、ASCの適合による強制トランス状態を可能とした。
トランス状態になると人間は無意識にα領域を展開させ、人並み外れた能力を得ることができる──しかしASC適合による強制トランス状態にできるのは限られた選ばれし人間のみだけ──
機関はその選ばれし人間を『αΩ』と名付けた。
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緊急特別警報、緊急特別警報──
「『異端』が接近しているため近くのシェルターへ避難します、皆さん逃げ遅れないでください!」
教室からは「きゃあああ」だの「うあああ」だの悲鳴が上がって騒がしくなる。
俺は心の中で「逃げたって無駄なのになぁ」と呟き逃げ惑うクラスメイトたちを眺めていた。
俺は正直もう逃げるのが面倒になったんだ、終わりが無いのに希望を持って逃げ回るのは馬鹿らしいじゃないか。
──もういっその事ここで『異端』とやらが来るのを待ってみるのもいいかもしれない。
「ふふ……、君面白いね」
いつの間にか隣の席に一人の女の子が座っていた。
「君がもしかして『異端』……なのか?」
「正解ー、私は”傲慢の異端“だよ。君は?」
「如月ヒロ……」
「ヒロって言うんだぁ!そっかぁ、もしかして私と闘いたくてここに居たの?」
「いや、そうじゃないよ」
……随分『異端』って人間っぽいんだな。化物なんて言われてるからもっと『化物』みたいなイメージしてたんだけど。
「俺は君を倒す特別な能力なんて持ってないし、闘ったところで俺が負けるよ」
「うーん──君は嘘つきだね」
「それはどういう意味?」
「だって、ヒロさァ私を倒せるくらい強い能力持ってるじゃん?まぁ、でも今の君だったら一撃で倒せちゃうけどね♪」
「なら今、俺をここで殺せばいいじゃない?そうすれば天敵が消えるだろ」
俺がそう提案すると、傲慢の異端は俺に顔を近づけて、不敵な笑みを浮かべる。
「それはダメぇ、ここで君を殺しちゃうのはつまらないからァ」
傲慢の異端は笑みを浮かべたまま顔を離し「じゃ、またね」と言って姿を消した。
あれが異端……見た目は普通の女の子なのにどこか狂気じみていて心の隅で恐いと思った自分がいる。
──対異端機関「Nemesis」
「『αΩ』の候補者の一名が『異端』と接触したようです」
「その候補者と異端を調べて」
「はいっ、候補者はαΩアルファオメガ謙虚候補如月きさらぎヒロ、異端は『傲慢の異端』です」
「元凶じゃなかったのがせめてもの救いね、私が彼を連れて来るから後はよろしく」
──東京東区032
あの後、俺に謎の電話がかかってきて東京東区032に来るように言われた。
最初は断るつもりだったけど電話の相手は人類の未来がかかってる──とかなんとか言って最後は政府の判断だから俺に拒否権は無いと言ってきたのだ。
政府の判断で俺が呼ばれているなら従わなくちゃいけない。
政府の言うことは絶対。これが今の社会ルールでそれは憲法でも決まっていることだ。
──国民は政府に忠実な犬だ。
「待ち合わせの場所はここか?」
待ち合わせ場所に指定された所には犬の銅像が建てられていた。
俺はその犬の銅像前にあるベンチに腰を掛けて綺麗な青空を見ながら呆ける──
「君がヒロ君?」
「そぅですけど……」
「そうっ、ちゃんと来てくれて嬉しいわ」
待ち合わせ場所に現れたのはスーツ姿の美人な女性だった。
そのスーツ姿の女性は人を凍りつかせるほど冷淡な目をしていて正直苦手なタイプの人間ではあるけれど。
「その──あなたは……」
「私は京ミスズ、今から君が向かう機関の最高責任者です」
「電話をかけてきたのはミスズさんですよね?どうして俺を呼び出したんですか?」
「目的地に着いたら全てを話すわ」
ミスズさんは「ついてきて」と背を向けて何処かに向かって歩き出す。
──『ついてきて』か、
俺は半信半疑のままミスズさんの背中についていく。
歩き始めて3分が経った頃──空き地の駐車場で足を止める。
そこには高級そうな黒塗りの車が駐車されていた。
「俺はあの車に乗るんですか?」
「あら、ああいう車は嫌いだったかしら?」
ミスズさんは機嫌が悪いのかさっきよりも冷淡な目が強くなっているように感じた。
「……………」
俺はまるでアナログのように車へ向かい静かに車の扉を開けて静かに座り静かに扉を閉めた。
ミスズさんは運転席に乗って助っ席に座る俺に一つ質問する。
「──ヒロ君、私が怖い?」
「い、いえ………」
ミスズさんはどうやら自分でも恐がられているのを分かっているらしい……あからさまに気を落としている。
「そ、その本当ですよ?少し目つきが怖いだけで、ですから……その……とりあえず進みましょうよ」
「そうね……」
ミスズさんは苦笑して車のエンジンをかけ、ある所へ向けて発進した。
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「君、異端と会ったでしょ?その時異端になんか言われた?」
「傲慢の異端ですか?なんか最後に闘おうみたいなことは言われましたけど」
「どうやら君は異端に好かれたようね」
俺が異端に好かれている?何故?そもそも異端が人間を好む事なんてあるんだろうか?
「異端だって私たちと変わらない『人』よ、感情だって持っているわ、彼らは人間の傲慢さで呪われてしまった人間なのよ」
──!?
異端が『人』?そんな事何処でも教えてもらってないぞ……政府は俺たちに何か隠しているのか?
──少し胸糞悪いな。
「呪われているとしても……異端はやはり倒すべき存在なんですか?」
ミスズさんはハンドルを握る力を強める。
「異端が生まれたのは私たちのせいでもあるの、だから責任を持って異端という存在をたとえ理不尽でもこの世から消さなければいけないの」
──もう、あんな悲劇は繰り返したくないから……絶対に。
「ミスズさん……?」
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「着いたわよ」
着いた所は周りに何も無いただの道。
「何も見当たらないんですが本当にここなんですか?」
「まぁ、少し待ちなさいもうすぐだから」
そのわずか数秒後、目前の何も無い道が扉のように開き人工物のトンネルの様なモノが出てくる。
その光景に思わず俺は目を見張ってしまった。
「何も無かった道が……まさかそんな……」
「驚いてくれたようで嬉しいわ、それじゃあ行きましょうか」
ミスズさんは少し微笑を浮かべながらアクセルを踏み、人工物の入口へと向かっていく。
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「君の言う『αΩ』の適合者は集まったのかね?」
「まだ全員ではありませんが三人の適合者が揃っており、今日もまた一人適合者が来る予定です」
「『異端』がまた活動を始める前に七人を集めるのだ、それが人類に残された最後の希望」
「重々承知しています」
「それじゃあ頼んだよ──京ケンジ司令」
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