表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/68

54 エイミー・ジェレミア 焦り

 クレアとマクミランとの仲が目につく。だいぶ噂になってきている。まあ、私が広げたのだけれど。クラスが違うので観察しづらいが、セスはだんだんクレアにとがった視線を送るようになってきた。


 そんなある日、朗報が届いた。クレアとセスがダンスでペアを組んだ時、クレアが転ばせられたという。見ていた人たちは、わざとではないと言っているけれど、転びそうになったクレアの手をセスが放したとケイトが言っていた。絶対にわざとだ。すごく見たかったのに、あいにくダンスの授業はクレアと重ならない。

 可愛さ余ってというところだろう。彼は嫉妬している。愛がすべて憎しみに変わってしまえばいいのに。


 だが、これだけでは、まだ心配だ。たとえ苛められたとしても、クレアには相手を恨むだの仕返しするだのという発想がない。セスが何かの折に一言謝れば、あっさりと許すだろう。クレアのそういう面が利用しやすい反面腹立たしい。


 私はそれとなくクレアに接して生徒会の様子などを聞き出した。アーサーやマクミランの話を出し揺さぶりをかけてみる。これといって面白い反応はしなかった。アーサーにも興味なく、別にマクミランに夢中というわけではなさそうだ。周りが見えている。それなりに人気のある先輩に言い寄られているのに。クレアのそんな態度が生意気だ。



 最近、一番面白かったのは、テストを白紙で出しても卒業できると言った時のクレアの絶望した顔。随分苦労して勉強していたものね。私はその様子に笑いを堪えるのに必死だった。馬鹿なクレアはあっさり信じて希望を失ったようだ。


 それにしてもなぜこの子は必死に勉強するのだろう。いい家に嫁入りするのに。努力していい成績をおさめてどうしようというのだろう。今すぐ学園から立ち去って欲しいくらいだ。だからといって幸せな結婚などして欲しくない。いっそクレアの親が破産すればいいのに。


 そういえば、一年の頃から何度か、決まった相手はいないのかと聞いているのに相変わらずクレアはいないと答える。

 この一点だけ私に対して正直ではない。なぜだろう。実はクレアに警戒されていた?



 そんな時ケイトが面白い話を持ってきた。


「クレアをピクニックに誘わない?」


 ピクニックに誘う。そこでクレアを苛めるのだろうか? クレアをつぶしたい気持ちもあるが、できれば他人ひとにやって欲しい。ケイトを手伝って、自分の手を汚すのは嫌だ。


「まさか、そこで苛めるのですか?」


 即座に心配そうな表情を作る。


「ふふ、やあね。仲良くするに決まっているじゃない」


 ケイトはどう猛な猫のような笑いを浮かべる。


「ほら、あの子、ちょっととろいじゃない? だから、森で迷子になってしまうかもね」

「そうですわね。そういうこともあるかもしれません。ふふふ」


 さすがケイトだ。残酷で愉快なことを思いつく。私にはない発想だ。これで私の評判は傷つかず、一人目障りな者が消える。


 私は早速乗り気ではないクレアを励ました。何かとアドバイスし、準備も一緒にしてやる。当日になるとすっかりクレアもその気になっていた。

 そんなにこの子は人に好かれることに飢えているのだろうか? ケイトに少し優しい言葉をかけてもらったら、あれだけ苛められていたのに、笑顔まで見せるようになった。ああ本当にこれから起こることが楽しみだ。


 それにしてもあんなにマクミランが積極的なのに、どうしてクレアは落ちないのだろう。愛されたいのではないの? それともセスとこのまま結婚した方がよいという打算があるのか。いずれにしても油断ならない。


 早くセスと決裂してくれればいいのに、彼は前よりいっそう切なげな目でクレアを追っている。いつかは仲直りしてしまうかもしない。クレアなどちょっと彼が謝罪して優しくすれば、すぐにほだされてしまうだろう。やはりクレアにはいなくなってもらうのが一番だ。






 すべては上手くいっていた。


 ケイトやラッシュ家だけではなく、私たちも学校関係者やセスにクレアがいなくなった経緯を聞かれた。私とケイトは涙を流し、悲しみにくれ、心配そうな表情を作る。他の令嬢も似たり寄ったりだった。彼女たちはケイトに逆らえない。皆ラッシュ家に忠誠を誓っている。その上、クレアをよく思っていない。


 結局、クレアは貴族ではない。それなら、バレなければ何をしても大丈夫。ましてや彼女は貧民だ。人ですらないのだから、誰だって真剣に追及しない。私たち四人は誰も罪悪感を持つ必要は全くないのだ。

 

 しかし、ほどなくしてケイトがクリスティーンの派閥から外された。ピクニックのことを咎められたらしい。何か勘付いたのだろうか。高位貴族には時々勘の鋭い者がいる。せっかくクリスティーンと近づけると思っていたのに、私ごときでは彼女から来ない限り親しくはなれない。



 もう一つ気になることがある。セスが学園に来なくなった。噂によるとクレアを探しているようだ。振り向くどころか、他の男に心を寄せるような不実な婚約者に、なぜそれほど必死になるのか理解に苦しむ。


 おかげでケイトが荒れていた。クレアがいなくなれば、自分がかまってもらえると勘違いしたようだ。その上、セスが家に訪ねて来たらしい。ケイトは詳細を話したがらないが、セスはクレアのことが諦められないのだ。


 成績優秀者のセスが、学業を放り出してクレアを探している。馬鹿げているとしか思えない。残念な事にセスには友達がいて、彼らも協力しているようだ。意外なことにセスはアーサー・ファーガソンと仲がよい。高位貴族の交友関係はよく分からない。いずれにしてもうちの派閥ともケイトの派閥とも違う。


 例え、クレアが見つかったとしても、オオカミか魔獣に食い荒らされた骸だろう。しかし、二、三週間すると彼もクレア探しに飽きたようで学園に戻ってきた。少し憔悴していたが、所詮はその程度で諦められるものだったのだ。

 





 その一週間後、悪夢が起きた。クレアが、帰って来たのだ。信じられない。あの森から生還するなんて……。

 私は必死で、マクミランとの噂を流した。実際、遊び慣れている彼が本気になっているらしい。しかし、それはそれでクレアは愛されて、結局幸せになるのだろうか。気に食わない。


 いろいろ、クレアに尋ねたが、さすがにもう以前のように心は開いてくれない。少しは知恵がついたようで忌々しい子だ。ただ、相変わらず意気地がなく、私を問い質すことも責めることもできない。それとも分を弁えているのだろうか。クレアの悲し気で不思議と澄んだ青い瞳に苛立ちが止まらない。


 そのうちクレアの様子がおかしくなって、授業に出てこなくなった。理由は知らないが、このまま学園をやめればいいのに。ついでに放校になってしまえ。

 

 願いもむなしく、しばらくするとクレアが調合室を一人で使いはじめた。遅れた勉強を取り戻すためだそうだ。私も参加したいと教師に言ったが、クレアの邪魔になると言われた。許せない。なぜ、あの子ばかり愛されて、贔屓されるの? 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ✕「つい[て]に放校になってしまえ」 〇「つい[で]に放校になってしまえ」 [一言] エイミーの性格ちょっと歪んでますね笑 セス様がエイミーをどうするのか今からワクワクしてます。 …
[気になる点] エイミーはクレアになりたかったのか? Aクラスの成績、人に好かれる性格、すぐ頬を染める可愛らしさ、素晴らしい婚約者、人を見下せる高い魔力。 自分のものにならないなら消してしまえ? …
[一言] 嫉妬でどろどろですね…(-_-)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ