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46 ケイト・ラッシュ1

注:R15 残酷な描写あり、苦手な方、無理な方はUターンをしてください。これ以降予告はしません。というか、忘れるかも。


 ケイトは自宅謹慎を言い渡された。早く学園へ行きたいのに家から出ることもままならない。買い物などの気晴らしも禁止されている。不満でいっぱいだった。


 シャンデリアがきらきらと昼の陽光を反射する豪華なサロンで、茶を飲みながら、メイドに当たり散らしていると、父のリカルドが入って来た。


「ケイト、どういうことだ。アシュフォードの息子が証言したぞ。お前に刺されたと!」


 リカルドの顔は怒りで赤くなるのを通り越して蒼白である。ケイトはあっけにとられた。


「え、セス様、生きてたの?」


 正直な感想が漏れる。


「ああ、そうだ。先日、王宮に登城して、取調官にお前に刺されたとはっきりと証言して帰ったそうだ」

「嘘でしょ? 大きなギザギザのガラスの欠片がお腹に深く刺さったのよ。助かるわけないわ」


 リカルドはいらいらと娘の前を歩き回る。


 ケイトは納得出来なかった。生きているはずがない。もちろんセスを殺すのは忍びなかった。子供の頃から、彼は憧れだったのだ。綺麗な男の子。その上一度読めば、本の内容が頭に入るといわれているほど優秀だった。事実、学園に通いながら、彼は領地経営を手伝っていると噂があったのだ。セスを婚約者にすればさぞかし自慢にできるだろう。

 

 確か七歳上に兄がいるはずだったが、なぜか十歳で彼が跡取りになった。そのあたりの事情は知らない。大切なのは彼が跡取りだという事。

 昔、茶会で会ったとき、他家の子供達とは違い大人っぽくて落ち着いた感じだった。物分かりが良く、話を聞いてくれる彼がとても気に入った。


 本当に殺したくはなかったのだ。だが、ガラスの切っ先が彼の腹にずぶりと埋まってしまった。クレアのせいだ。

 あの時、瞬時にケイトの頭は働いた。彼が助かれば、自分がやってきたことがばれてしまう。迷いなく、ずぶずぶと彼の腹にガラス片を押し込んだ。

 

 意外に簡単だった。



「どうしてお前にそんなことが分かる? 庶民の娘であるクレア嬢が魔力暴走を起こして、ガラス片が飛び散り、運悪くそばにいたアシュフォードの令息に当たったと言っていたではないか? それなのに、なぜ、深く刺さったと分かる? なぜ、ガラス片の形状まで分かるのだ」


 リカルドが疑り深い目でケイトを見る。


「そ、それはひどく出血していたから、そう思っただけ」


 ケイトの目が一瞬泳ぐ。


「そんな訳ないだろう。他家の令息達の証言もある。お前が彼の腹に刺さるガラス片をつかんでいたと、そのあとクレア嬢の魔力暴走が始まったと彼らは言っている」


 リカルドが語気を強め、更に追及する。


「それもこの間言ったじゃない。私はセス様のお腹に刺さったガラス片を取り除こうとしただけ。それが危険な行為だとは知らなかったのよ」


 いつもケイトに甘い父から、こんな扱いを受けたのは初めてだ。無性に腹がたつ。

 彼女は自分の言っていることが矛盾だらけだということに気付いていなかった。


「どうしたの、お父様。私を疑ってらっしゃるの? だいたい、なんで私がセス様を刺したりするのよ。

 私だって、クレアがまき散らしたガラス片のせいで顔に傷が残ってしまったのよ。ひどいわ。クレアを優先して治療するだなんて。

 だいたい、あの子、殿方に媚びるのが上手いのよ。アーサー様がクレアの有利なように証言したのでしょう? 生徒会でもそうだったわ。何かっていうとクレア、クレアってマクミラン様まで、何なのよ。いったい」


 地団駄をふみ、支離滅裂な言い訳をした上、子供が駄々をこねるように怒り始めたケイトにリカルドは頭を抱えていた。


「ねえ、聞いていらっしゃるの、お父様? クレアは当然放校になったのよね? 魔力暴走を起こすなんて危険すぎるわ。私たちは制御方法を学んでいるのよ。いくら成績が良くたって学内で暴走したら、退学よね? ああ、早く学園へ行きたいわ。早く皆に説明しなくては、この状況を……」


 バンと強く机を叩く音にケイトは驚き口をつぐむ。


「クレア嬢は放校になどなっていない。そもそも魔力暴走を起こすほど魔力の強い者は少数だし、貴重な人材だ。だいたい彼女は庶民の子などではなく、アシュフォード家の婚約者だったではないか! 厳重な抗議を受けたぞ。話が違い過ぎる」

「だってもともとは卑しい身分の子よ」

「元庶民でも今は貴族だ。成績はトップクラスでまじめで優秀な生徒だと聞かされた。お前の話は嘘ばかりだ!」


 リカルドが激昂したが、ケイトも負けていない。彼女はわがままいっぱいに育っていた。親に敬意を払うことなどない。


「ひどいわ、お父様。自分の娘より他人の言う事を信じるの?」


 挑むような目で父を見上げる。


「それならば、ピクニックの件はどうだ。行方不明になった令嬢、あれも同じクレア嬢ではなかったか? 当時、アシュフォードの令息が家に訪ねてきていたよな。

 あの時はいつも一人でいて可哀そうだから、誘ってあげたと言っていた。そして、あの娘が勝手な行動をとっていなくなってしまい、必死に皆で捜しまわったと」


「そうよ、その通りよ。私はとても親切にしてあげたの。それなのにクレアったら」


 リカルドはもうたくさんとばかりに手を振り、ケイトの言葉を遮る。


「クレア嬢が勝手にどこかへ行ってしまったのではなく、お前が置き去りにしたのだろう?」

「どうしてそんなことを私がしなくちゃいけないの? それに、なぜ今更そんな話をするの? もう随分前に済んだことじゃない。お父様だって、あの時は全然関心を持たなかったわ」


 怒りで体を震わすケイトに、リカルドは諭すような口調になる。


「それは家に非がないと思っていたからだろう。もう、今日は部屋で休みなさい」


そう言ってサロンから出て行ってしまった。


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