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39 広がる視野4 アシュフォード家

その日、午後のティータイムを皆で過ごした。


「私のことはお母様と呼んでね。うちにきてくれるのだから、今から慣れておくために、それがいいと思うの」

「それでは、私のことはお父様と」


 アシュフォード伯爵夫妻が言い張り、貴族とはそういうものかと思い、クレアは素直にそう呼ぶことにした。それを聞いていたセスが隣で苦笑する。


「そうそう、今夜は兄が来るから」


 セスの言葉にクレアは驚く。確か彼は嫡男だと父ラッセルから聞いていた。


「ミハイルといって、セスの7歳上なんだが、病弱で田舎に引っ込んでいてね」


 ジョゼフが説明する。クレアは初めて聞く話だ。ラッセルは知っていたのだろうか? そのあと、父と息子は連れ立ってサロンを後にした。セスもジョセフの仕事の手伝いをするという。


「クレア、一緒に刺繍でもやってみましょうか?」


 二人がいなくなったサロンでミレーユは嬉しそうに提案する。もちろんクレアは刺繍など初めてだ。夫人が丁寧に教えてくれる。アシュフォード家の紋章を教わった。見た目は綺麗な模様だったが、実際には剣と牙と甲冑をモチーフにしたものだと教えられた。


「一気に詰め込んでも覚えられないと思うから、少しずつこの家のことを勉強していきましょうね」


 彼女はクレアに丁寧に刺繍を教えながら、柔らかな笑みを浮かべる。一時間ほどのんびりと楽しんだ後、ミレーユは「お祭りの準備があるから」と言って席を立つ。


「あの、お祭りって、何のお祭りですか?」

「収穫祭よ。あら、セスから聞いていなかったの? そんな大袈裟なものではないのよ。ただ五年ぶりだから、皆盛り上がってしまって。

 そうそう、クレアが迷い込んだ厨房、あそこはお祭りの時だけ、領民に貸し出しているの。いつもはそんなことはないのだけれど。しばらく、城の外から人が来るから、気を付けてね。いま、城を執事に案内させるから」


 ミレーユはにっこりと笑う。


「いえ、大丈夫です。皆さま、お忙しいようですし、それに、私、刺繍が楽しいので」


 クレアが城の案内を断る。


「そうだよ。クレアは刺繍より、勉強しようね」


 執事ではなくセスがサロンに戻って来た。


「ここに帰って来た時くらい、息抜きさせてあげればいいのに。学園ではお勉強ばかりで大変でしょう」


 とミレーユが呆れたように言う。


 クレアは、そのまま城の一角にある大きな図書室に連れていかれた。


「祭りは領民のものだから、僕らがすることは殆どないのだけれど、それでもやはり、少し協力しないとね。それが済んだら、城も町も僕が案内するから、それまで大人しく待っててね。

 

 それから、さっきは使用人との付き合い方なんて、偉そうに言ってしまったけれど、彼らを気遣ってくれてありがとう。なかなか出来る事じゃない。君はとても優しいね」


 先ほどクレアが城の案内を断ったことを言っているのだ。彼は温かい笑みを浮かべている。甘い言葉をかけられたわけではないのにクレアは胸がどきどきした。



 晩に家族だけの晩餐が開かれた。セスの兄ミハイルを紹介される。濃茶の髪にセスと同じ緑の瞳を持つ優しそうな青年だ。


「クレア、セスを宜しくね。彼はちょっと気難しいところがあるから」

「兄上、やめてくれ」


 朗らかに笑うミハイルは、あまり病弱そうには見えない。何だかんだとセスとは仲がよさそうだ。羨ましい。ふと半分しか血の繋がらないジャニスを思う。



 その日は、皆で食後のお茶を飲み、少しカードで遊ぶ。アシュフォード家はクレアが子供の頃夢に思い描いた通りの温かい家庭だった。

 惚れ薬を飲む前のセスからは想像もできない。冷たい美貌を持つ彼は、とても愛されて育った人だった。


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