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29 私が騙されていたのでしょうか?

 そのうち、いつも隣にいるセスが気になって勉強が手につかなくなってきた。すると今度は一緒に勉強しようと言われ、二人は夜遅くまで図書館棟で勉強してから、寮に帰るのが日課となってしまった。


 

 クレアにはどうしてこうなったのか分からない。気づけば、惚れ薬を飲んでしまった彼のペース。薬はクレアが想像していたように相手の心を翻弄するようなものではなかった。ただひたすらに、まっすぐ好意を伝えてくる。結局、人に好かれるという経験のないクレアが、振り回される羽目に陥った。



 しかし、ずっと甘やかしてくれていた彼はなぜか勉強には厳しくて、遅れていた分も詰め込まれた。クレアは音を上げる。


「あの、セス様。ここは、別にテストを白紙で出しても、卒業できるのですよね。だから、それほど、熱心に勉強しなくても……。それに私は、頭がよくないので、こんなにおぼえられません」


 事実、勉強は二年になって格段に難しくなっている。しかもクレアは随分休んでいて、中期のテストはひどい結果だった。


「は? クレア、何を言い出すんだ? 僕は勉強しなくても卒業できる学校など聞いたことがない。このままでは君は落第する。下手をすれば出席日数も相俟って放校だ。君は魔力が桁違いに高いから、ここに置いてもらえている状態なんだよ?


 それに、頭がよくないだなんて。『そんなことないよ。頭がいいから頑張れ』とでも言って欲しいの?

 さんざん、いままで、体調不良だのよく分からない理由で授業を休んでおいて、何を今更言っているんだい」


 別にクレアは「うん、そうだね。クレアは馬鹿だね」と言われたところでその通りだと思うだけなのなのだが……。虐げられてきた彼女は、もとより甘い言葉を期待して問うなどということはない。 

 

 それよりも叱られて、びくっとなった。もしかして、「惚れ薬」の効果が切れたのかもしれない。途端に彼と話すのが怖くなった。惚れ薬を飲んでいる彼が、クレアを嫌うことはないと安心し、いつの間に気軽に話すようになっていた。きっとクレアの作ったものは不完全だ。いつ効果が切れてもおかしくない。


「やだな。そんな顔しないで、クレア。僕は君と一緒に進級して、また同じクラスで学びたいと思って言っている。一緒に頑張ろう。ごめんね、きつい言い方をしてしまって。君をすっかり怖がらせてしまった」


 彼はそう言うととろけそうなほど甘い笑顔を浮かべる。クレアの心臓はばくばくとなり、気持ちは言葉にならず、ただこくこくと頷いた。


「すみません。セス様、私、頑張ります」

 

 クレアの言葉を聞いて、セスは満足そうに頷く。気づけば、惚れ薬を飲んだセスが主導権を握っている。


「ところで、『別にテストを白紙で出しても、卒業できる』などととんでもないデマを君に吹き込んだのは誰なのかな?ここは名門だ。それはあり得ない。それにここでの成績は結構将来を左右するものだ。確かに一定数遊んでいる奴らはいるけれど。みな結構真剣に勉強しているよ。茶会に忙しいだの、ダンスパーティーに忙しいだの、真に受けないでね?」


 セスの笑顔が深くなり、クレアはぞくりと寒気をおぼえた。苛められ続けたクレアにはこれがまずい状況だと本能的に分かる。しつこく誰かと聞かれたが、クレアは「忘れた」と言って、ふるふると首を振る。しかし、名前を言うまで帰してもらえない流れに諦めてエイミーだと白状した。


 エイミーはもしかしたら、ケイトに引きずられているだけなのかもしれない……。そんな淡い期待が心の片隅にあった。だから、言うのを躊躇した。





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