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02


 院長室に呼ばれた。何か叱られるのではないかと、びくびくしながら行く。しかし、院長は機嫌がよく、里親を探してくれるという。


 クレアはびっくりした。院長は、時折金持ちの商人や貴族が魔力の強い子を欲しがると言っていた。魔力のある子どもは人気があると。

 本当に誰かの子供になれるなら嬉しい。人から愛されるってどんな感じなのだろう。想像すると少しどきどきした。





 その一週間後、立派な服装をした紳士が訪ねてきた。クレアを引き取りたいという。


「あまり見栄えのいい子ではないね。お前の母親は美しかったのに」


 紳士はラッセル・レイノールと名乗った。魔力判定の結果を聞いて引き取りに来てくれたのだろうか。しかし、事実は違い、彼はクレアの本当の父親だった。彼女は大きな商家の娘だったのだ。


 それがどれほどすごいことなのか八歳のクレアには分からない。いきなり実の父親という人が現れて嬉しいと思うより戸惑った。父母に捨てられたと思っていたので、実感がわかないのだ。それに貧民街で育った彼女は、金持ちというものを見たことがなかった。


 実の父に出会えたら抱きしめてくれるものだと思っていたが、ラッセルは臭いから風呂に入って着替えなさいといっただけだった。冷たく感じるほど淡々とした人で、クレアに触れようともしない。


 孤児院を出るときは見送りなどないものだと思っていたが、院長もシスターたちも馬車を見送りに来た。院長は微笑みながら「ここで受けた恩は絶対に忘れないでね」とクレアに念押しした。



 初めて馬車に乗る。夢みたいだ。シートがふかふかで思っていたよりも揺れない。初めて着るかわいいワンピースに胸を躍らせた。まるでお姫様みたい。


「これから家に行くが、お前には姉がいる。血は半分しかつながっていない。そして血のつながらない母親がいる。彼女たちの言うことをよく聞くように」


 「血のつながらない」八歳のクレアには完全には理解できなかったが、父の様子からそれが良いことではないと分かる。浮き立った心は不安へと急速に傾いていく。


 ラッセルはある日突然、母親とともに不明になったクレアをずっと探していたのだと馬車の中で話してくれた。なぜ、母は出て行ったのだろう。子供心にも疑問を感じた。


 

 馬車が大きな橋を渡る。すると街が一変した。行き交う人にぼろを纏うものはなく。街もきれいだ。やがて、大きな屋敷が立ち並ぶ区画に入る。しばらくすると、レイノールの屋敷へ着いた。驚くほど大きくて立派だ。玄関ホールで使用人達に出迎えられた。クレアはびっくりして後退る。

 

 彼らはとてもよそよそしくて冷たい感じがした。

 自分は歓迎されていないのだろうか。ラッセルは出会ってから、一度もクレアに触れようともしない。不安になった。


 父のあとについて広い玄関ホールを向ける。

長い廊下を歩き、サロンにつくと義母テレジアと三ケ月年上の異母姉ジャニスに紹介された。


「まあ、貧相な子」

「お父様、いやよ。こんなみすぼらしい子が私の妹なんて! 恥ずかしくて、お友達になんていえばいいのよ」


 テレジアは蔑むような冷たい目でクレアを見据える。ジャニスは真っ赤になって怒っていた。ここにはきっと居場所がない。心臓をギュッと鷲掴みにされるような不安を覚えた。







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