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25語話を更新(12/17 12時)後、約40分以内にお読みになられた方へ
すみません。25話投稿ミスにより、後半部分追加修正あります。
クレアは遅い時間、人気のまばらになった図書館の片隅で、古い魔導書を貪るように読んだ。授業にも出ず、三日三晩考え続けた。いったいどこで調合を間違えたのだろう。分からない。タイミングだろうか? それとも魔力の問題?
一瞬調合教師の顔が浮かんだが、こんな本を見せれば没収されてしまうだろう。さらに惚れ薬を作ったことが分かれば、放校にされかねない。人の心を操る魔法は制限されているのだ。
どうやら、惚れ薬の調合は失敗したようだ。クレアが未熟だったのか、それともあのレシピが間違っていたのか、分からない。一週間もすると絶望にも似た淡い諦めの気持ちが広がった。心が鈍い痛みに疼く。
いずれにしてもクレアの復讐心はすっかりしぼんでしまった。もう、薬を作り直す気力も残っていない。怒りでかっとなっていた心と体が急速に冷え、憎しみが燃え尽き、さらさらと灰になって消えていく。
不思議な気分だった。殺されかけたケイトやエイミーにこのような復讐心はわかなくて……いまだに彼女たちが怖い。
それなのに、いままで親切に接してくれていたマクミランがあれほど憎くなるとは思ってもみなかった。
セスにはずっと冷たくされているが、彼は唯一迎えに来てくれた。家族は事故後もクレアに面会することすらしない。それどころか父親からはお叱りの手紙をもらっている。
学園に入って浮かれて遊んでいるから罰があたったのだと、今後このような無様な真似をしたら、考えがあるとの脅し文句が記されていた。
セスはクレアと結婚することが決まっているので十分不幸だ。彼はハズレを引いている。セスに復讐などいらない。そしてケイトの恋も報われない。クレアが割り込んでしまったから。
エイミーは? 彼女のことは忘れよう……。はじめから、友達を作るなんて無理だったのだ。
マクミランへの復讐は彼の誘いにのらないだけで十分だ。それで彼は儲け金をふいにするし、プライドだって挫かれる。自信満々の彼が、クレアのようなつまらない娘にフラれるのだ。
もう、誰にもかかわらない。彼らだって軽い気持ちでやっているのに、一人で熱くなってしまった自分が馬鹿みたい。
クレアは元々孤児だった。その前は捨てられた子供。野垂れ死にしていたかもしれないのだ。二度とこれ以上の幸せを夢見たりしない。ご飯が食べられて、ゆっくり眠れる場所がある。そして勉強もさせてもらえるのだ。十分ではないか。
愛されるってどんな気持ちがするのだろう。愛されたい……そんな贅沢な事はもう考えない。心が、どこまでも透明な悲しみに満たされていく。
出来る事ならば、消えてしまいたい。母に捨てられ、家もなく、雨の道端に崩れ落ちたあの日。私は、どうして助かってしまったのだろう。雨に溶けてしまえば良かったのに。
次の朝、沈み込む気持ちを奮い立たせて、久しぶりに教室に向かう。教室の片隅で、ぼうっとしながら教科書を開く。全く勉強に身が入らない。まるで憑き物が落ちたかのように、気力がなくなっていた。ここでは金さえ払えば落第することはない。
授業が終わるころには彼女の心は擦り切れていた。すべての努力は無駄。クレアに出来る事はもうない。
帰り支度をしていると、
「クレア、どうしたの。元気がないようだけど?」
今までかけられたことのない甘く柔らかな声が頭上から降ってきた。顔を上げるとおひさまのような笑顔を浮かべるセスが、心配そうにクレアをのぞき込んでいる。温かい光を湛えたエメラルドグリーンの瞳が、慈しむようにクレアを見つめた。
……えっ?




