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 それから、あっという間に一週間が過ぎた。そろそろ生徒会に復帰しなくてはならない。ケイトがいるので気は進まなかったが、それは教室でも一緒だ。いろいろと考えてしまうより、忙しい方が良いのかもしれないと気持ちを切り替えた。


 生徒会室に入ってみるとケイトは来ていなかった。少しほっとする。そういえば彼女はパーティやお茶会に忙しくよく生徒会をさぼる。それがありがたかった。


 さっそくお茶くみなどの雑用が始まった。皆相変わらず人使いがあらい。


「すごいな。夜間、あの森で迷子になって生きていた者は初めて見た。案外丈夫なのだな」


 生徒会長のアーサーに感心したように言われた。彼にクレアを気遣うそぶりはない。物珍しいようだ。どうやって助かったのかなどと、かなりしつこく聞いてきて辟易した。

 

 クレアは、あの森の優しい人たちの住む家の話はしたくなかったので、「親切な方に助けてもらったのです」と適当に言葉を濁す。

ただ一人、マクミランだけが気遣ってくれた。


「本当に無事でよかった」


 温かい言葉をかけられて、胸の鼓動が速くなる。彼の柔らかい笑みを見ると、血液が全身を巡り、はじめてこの場所に帰って来てよかったと思える。


 彼はかわらず、声をかけてくれるし、親切だ。回復したばかりのクレアの体を心配してくる。彼女に代わって重い荷物を持ってくれた。そんな紳士的な扱いを受けたのは始めてだ。貴族の男性とはこんなに優しいものかと思った。


「クレア、君がいないと寂しいけれど。自分の体を第一に考えて」


 気持ちがぽっと温かくなる。マクミランといると安心できた。彼は誰にでも分け隔てなく親切だ。だから、特別クレアにだけというわけではないけれど、それでも満足だった。


 なぜなら、マクミランはクレアに親切にしても何も得することはないからだ。それなのに優しくしてくれる。それが嬉しい。なんの打算もなく、ただ気遣ってくれる。彼といるときだけは自分を肯定できるような気がした。ここでは打算で動く人間が多すぎる。それともクレアがみなに好かれていないだけなのか……。


「クレア、大丈夫? 少し痩せたようだね。もう少し食べなくてはダメだよ」


 そういって、差し入れの焼き菓子をすすめてくれる。久しぶりに二人で飲むお茶は、格別に美味しく感じられた。彼は森でのことは何も詮索してこない。そっとしておいてくれた。


 気付くと彼の手がクレアの目の前に迫る。クレアはびっくりして縮こまった。ぶたれるのかと体が勝手に反応する。


「どうしたの、クレア。君はそんなに僕に触れられるのがいやなのかい?」

「……え」


 こわごわと顔を上げる。マクミランが苦笑していた。


「日を浴びてきらきらと光って綺麗な髪だなと思ったら、触れたくなった」


 心臓のドキドキが止まらない。真っ赤になって下をむく。


「いえ、その……髪を褒められたのは初めてで……」


 そのときこんこんとノックの音がした。


「お邪魔かな?」

 

 アーサーが戸口に立っていた。一部始終を見ていたようだ。クレアは驚きと恥ずかしさとで、後ろもみずに生徒会室から逃げ出した。



 くすぐったくて、体がふわふわする。地に足がついていないような……。しかし、その気持ちは長くは続かなかった。セスは何と言っていた? 他の男と噂にならないように。浮き立つ心はしゅっとしぼんだ。







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― 新着の感想 ―
[気になる点]  リチャードさんから貰った本は、もう読んだのでしょうか?  てっきり、現状を打破するヒントが隠されていると思っていたのですが・・・・・・σ(^◇^;)。 [一言]  とりあえず。  自…
[一言] ここまできてマクミランが悪役じゃないわけがないと思う… 色仕掛け使う方の諜報員とかになれる演技派の美人局だと予想
[一言] これでマクミランくんも実はクソ野郎でした~されちゃうとクレアちゃんだけじゃなく自分も絶望しちゃいそうなのでそれだけはどうか… クレアちゃん本来虐げられる謂れは一切ないんだから開き直れちゃえば…
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