22
それから、あっという間に一週間が過ぎた。そろそろ生徒会に復帰しなくてはならない。ケイトがいるので気は進まなかったが、それは教室でも一緒だ。いろいろと考えてしまうより、忙しい方が良いのかもしれないと気持ちを切り替えた。
生徒会室に入ってみるとケイトは来ていなかった。少しほっとする。そういえば彼女はパーティやお茶会に忙しくよく生徒会をさぼる。それがありがたかった。
さっそくお茶くみなどの雑用が始まった。皆相変わらず人使いがあらい。
「すごいな。夜間、あの森で迷子になって生きていた者は初めて見た。案外丈夫なのだな」
生徒会長のアーサーに感心したように言われた。彼にクレアを気遣うそぶりはない。物珍しいようだ。どうやって助かったのかなどと、かなりしつこく聞いてきて辟易した。
クレアは、あの森の優しい人たちの住む家の話はしたくなかったので、「親切な方に助けてもらったのです」と適当に言葉を濁す。
ただ一人、マクミランだけが気遣ってくれた。
「本当に無事でよかった」
温かい言葉をかけられて、胸の鼓動が速くなる。彼の柔らかい笑みを見ると、血液が全身を巡り、はじめてこの場所に帰って来てよかったと思える。
彼はかわらず、声をかけてくれるし、親切だ。回復したばかりのクレアの体を心配してくる。彼女に代わって重い荷物を持ってくれた。そんな紳士的な扱いを受けたのは始めてだ。貴族の男性とはこんなに優しいものかと思った。
「クレア、君がいないと寂しいけれど。自分の体を第一に考えて」
気持ちがぽっと温かくなる。マクミランといると安心できた。彼は誰にでも分け隔てなく親切だ。だから、特別クレアにだけというわけではないけれど、それでも満足だった。
なぜなら、マクミランはクレアに親切にしても何も得することはないからだ。それなのに優しくしてくれる。それが嬉しい。なんの打算もなく、ただ気遣ってくれる。彼といるときだけは自分を肯定できるような気がした。ここでは打算で動く人間が多すぎる。それともクレアがみなに好かれていないだけなのか……。
「クレア、大丈夫? 少し痩せたようだね。もう少し食べなくてはダメだよ」
そういって、差し入れの焼き菓子をすすめてくれる。久しぶりに二人で飲むお茶は、格別に美味しく感じられた。彼は森でのことは何も詮索してこない。そっとしておいてくれた。
気付くと彼の手がクレアの目の前に迫る。クレアはびっくりして縮こまった。ぶたれるのかと体が勝手に反応する。
「どうしたの、クレア。君はそんなに僕に触れられるのがいやなのかい?」
「……え」
こわごわと顔を上げる。マクミランが苦笑していた。
「日を浴びてきらきらと光って綺麗な髪だなと思ったら、触れたくなった」
心臓のドキドキが止まらない。真っ赤になって下をむく。
「いえ、その……髪を褒められたのは初めてで……」
そのときこんこんとノックの音がした。
「お邪魔かな?」
アーサーが戸口に立っていた。一部始終を見ていたようだ。クレアは驚きと恥ずかしさとで、後ろもみずに生徒会室から逃げ出した。
くすぐったくて、体がふわふわする。地に足がついていないような……。しかし、その気持ちは長くは続かなかった。セスは何と言っていた? 他の男と噂にならないように。浮き立つ心はしゅっとしぼんだ。
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