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「違います!私は……」


 また、ここでも私の言う事を誰も信じてくれない。


「何が違うのだ。どれほど探したか」


 セスが怒っている。探したと言った。彼だけはクレアのことを心配してくれたのだろうか。ふいに涙がこぼれそうになる。信じてもらえない悲しみや口惜しさが、とけていく。


「申し訳ありません」


 声を絞り出す。


「お前に死なれたら、この婚約は破談になってしまう。それでは家が困るのだ」


 やはり、そうだ。誰もクレアを心配などしてくれない。クレアは膝の上にある手を握りしめ、きゅっと唇をかみしめた。


「ジャニスが……いるではありませんか」


 絞り出すように言う。


「ジャニス? お前の姉か。彼女ではだめだ。魔力がない。お前との結婚がアシュフォード家の出した条件だ。そうでなければ、ほかの家をあたる。この国にも他国にも魔力を持つ裕福な商人の娘はいるはずだ。それを探す。


 今は、飢饉で領地経営は傾いているが、そのうち家は持ち直す。その時にアシュフォード家の人間が魔力持ちでなければ話にならない。きちんと学院は卒業してもらう」


 セスが一気に言う。クレアは彼がこれほど話すのを初めて聞いた。この国の貴族は魔力持ちにこだわるようだ。とりわけアシュフォード伯爵家では。


 ずっと彼にいつ婚約破棄にされてしまうのだろうかと、不安と恐れに苛まれていた。しかし、婚約破棄をする気はないようだ。聞き間違いだろうか? 彼は今言った。家が持ち直したときアシュフォード家の人間が魔力持ちでなければ話にならないと……。

てっきり、持ち直したら捨てられるものかと思っていたのだ。


 この国の貴族の結婚はほとんどが政略結婚だとエイミーは言っていた。家を継ぐことが最優先なのだ。セスにはその覚悟があった。話してみて初めて気づく、彼の見えてこなかった一面。


「それから、今後一切、学内での試験では手を抜くな。馬鹿にされているようで腹が立つ。僕は絶対に、もう二度とお前になんか負けない。そうすれば、仮にまたお前とダンスでペアになったとしても転ばせない。それと……元気そうでよかった」


 そう言うとセスは口を引き結んだ。それ以降、馬車の中で彼が口を開くことはなかった。クレアは彼の言葉に混乱する。ならば、なぜクラスが一緒になったことを詰ったのだろう。彼が分からない。しかし、彼女の心に小さな希望の火が灯る。「元気そうでよかった」と言った彼の気遣いの言葉をかみしめる。束の間、気持ちが温かくなった。


 馬車を降りると彼は言った。


「クレア、僕と君は婚約している。くれぐれも他の男と噂にならないように」


 エイミーの言っていた噂が彼の耳に届いているのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言]  これ、リチャード様サイド以外全部敵じゃないのかなあ、セスも、ちょっとだけマトモに見えた気がするけど結局自分の事しか考えていないし。  まあ希望が、細い蜘蛛の糸が漸く見えてきたので...、…
[一言] はぁ…。 御都合主義も言い分は、本当に…。 頑張れ…クレア…。
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