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 目が覚めると知らない天井があった。木目が柔らかく、とても暖かい感じがする。


「気が付いたか?」



 クレアは声のする方向を見る。銀色のオオカミ。


「ひっ!」


 反射的に体を動かそうとしたが、全身に鋭い痛みが走り、思うように動かない。怖くてぎゅっと目をつぶる。悲鳴は喉にはりついた。


「そんなに怖がるな。私は獣人だ。君をとって食いはしないよ」


 そういわれて恐る恐る目を開く。首から上はオオカミ。しかし、体はしっぽが生えている以外は人間だ。クレアはこのとき初めて獣人というものを見た。驚いて身動ぎしようとするとまた体が悲鳴を上げた。



「なにか、口にできるか? おーい、ベス、白湯を持ってきてくれないか」


 そういえば、喉が渇いた。


「はい、ご主人様」


 声のする方に目をやるとお仕着せを来た女の人がいた。この家のメイドのようだ。獣人ではなく人だった。クレアは自分が助かったことに安堵し、白湯を飲むと深い眠りに落ちた。


 彼はリチャードと名乗った。川岸で倒れているクレアを見つけ、助けてくれたのだ。クレアは三日三晩目覚めなかったとのこと。その話を聞いて、オオカミに追いかけられたことを思い出した。そして、森に置き去りにされたことも。思い出したくはない記憶の数々が、体の痛みとともに一気に溢れ出る。






 彼女は思ったよりも重傷で、それから、ひと月をかけて体を癒した。

 ここには主人のリチャードの他、メイドのベスと、数人の使用人が住んでいるだけだった。あたりに屋敷は見当たらない。まるで隠遁生活をしているようだ。

 

 彼らは皆愛想を振りまきはしないが、それでもとても親切だった。ありがたいことに誰もクレアに事情を聞かない。そっとしておいてくれるのだ。もう二度と思い出したくもない記憶。

 

 クレアは床から起き上がれるようになると、少しずつ家事を手伝い始めた。獣人のリチャードは無口で、最初は怖かったが、とても親切だということがすぐに分かった。メイドのベスもリチャードもとても献身的にクレアの世話を焼いてくれた。


 動けるようになってからは家事を手伝うようになったクレアに、無理をしないようにと声をかけてくれる。


 ここでは主人も使用人も皆一緒に食事をする。それが、とても居心地良い。みな素朴でいい人たちだ。けがが癒えたあとも使用人としておいてはもらえないだろうか。ここの静かな生活が気に入っている。クレアは掃除も洗濯も好きだ。もう、贅沢なんていらない。そんなふうに考え始めていた。




 しかし、その夢想もある日突然破られる。


「クレア、君にお迎えがきたよ」


 リチャードに告げられた。

 父にはきっとひどく怒られる。考えないようにしていたが、セスとの婚約はどうなったのだろう。もう破談になっているかもしれない。学校も退学になっているはずだ。

 

 クレアは途方に暮れる。



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