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なんてこと……。クレアはケイトの告白にどんな顔をしていいのか分からなかった。その後もゲームは続き、動揺していたクレアが負けた。こんど罰ゲームを決められるのはケイト。
「そうねえ。私、アネモネの花が好きなの。摘んできてくださらない?」
「アネモネですか? えっとどこに咲いているのでしょう」
意外な罰ゲームにクレアは戸惑った。
「ふふふ、うちはここによく来るので知っているのだけど、この道を北に行った先に橋があるの。そこを渡るとアネモネの群生地があるの。ぜひ摘んできてくださらない?ついでに景色も楽しんできてね。そうだわ。後で皆で行きましょう。とても奇麗なのよ。楽しみだわ」
ケイトが花開くように微笑む。彼女の言葉に場が湧いた。クレアはモノマネや告白ではなくて、ひとまず胸をなでおろす。それに先ほどのケイトの告白でまだ気が動転していたので、落ちつくために一人になりたかった。
やはり、集団を離れるとほっとする。最初は景色を楽しみながらアネモネの群生地を目指した。ところが思ったより橋は遠く、渡った後もしばらく歩いたが、森が続くばかりで花などどこにも咲いていない。
どうしよう、せっかく皆で楽しんでいるのに、水を差してしまったら。
気が付くと陽が傾きかけていた。アネモネの花を持ってかえらなければ、ケイトの機嫌を損ねてしまうかもしれない。クレアはそれが一番怖かった。しかし、いくら何でも遠すぎる。すこし風が肌寒くなってくる。心細くなってきた。もう戻った方がよいと判断し、とぼとぼと来た道をたどる。
その間にも急速に日暮れてきた。薄暗くなってきた森のなかで、不安に背中を押されるように、自然と足も速くなる。やがて、皆でゲームをしていた広場が見えてきた。ほっとしたのも束の間、そこには誰もいない。
道に迷ったのだろうか。きっとそうだ。クレアは彼らを探した。しかし、日が暮れ、鬱蒼とした森は暗くなり、とうとう歩き疲れて座り込んでしまう。
信じたくない。彼女たちが、わざと置き去りにしたなんて。道は一本道、迷うはずがない。そして道にはっきりと残る馬車の轍。この場所で間違いない。クレアは森に捨てられた。
人に捨てられるのは、これで二度目だ。頬を涙が伝う。母に捨てられた日を思い出す。
「どうして? いったい、私の何がそんなに悪いの……教えて、絶対に直すから、いい子にするから、お願い……捨てないで」
途方に暮れ、膝を抱える。しかし、悲しみに浸るのもそこまでだった。
かさりと、葉擦れの音がする。森の暗がりに光る複数の目。オオカミだ。そう思うと同時にクレアは駆けだした。
まだ、死にたくない。
後ろから、オオカミの群れが追いかけてくる。夜も更けてきた森で、一人逃げ惑う。オオカミは獲物を追い詰めて楽しんでいるようだった。
やはり、ハイキングなど参加するのではなかった。分を弁えず、楽しもうとしたから、幸せになろうとしたから、罰があたったのだ。息は切れ、足ががくがくし、木の根につまずく。それでも立ちあがる。
獣に切り裂かれて死ぬなんていやだ。
とうとう崖の淵まで追い詰められた。下を見るとは黒々とした谷川が流れている。後ろからはオオカミが、迫る。
じりじりと後退りした。ふいに地面が消える。体が落下していく恐怖に意識を手放した。




