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その日から、時々皆が帰って閑散とした生徒会室で、マクミランと二人でお茶を飲むようになった。彼は決まって、クレアが押し付けられた雑用を手伝ってくれる。いままで、煩わしいだけだった仕事が急に楽しくなった。
ケイトには時折、嫌がらせをされるが、気にしないようにしていた。時々熱いお茶をかけられたり、足をひっかけて転ばせられたりするくらい、たいしたことではない。貴族令嬢は強く相手を打ったり、口汚く罵ったりしてくることはないのだ。
彼らはまず相手の誇りを傷つける。クレアにはその誇りがないのだから、実家に比べればどうということもない……。
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そして今年も憂鬱なダンスの発表が近づいた。月に二回程度あるレッスンすら苦痛なのに、教師が指名する男子生徒と皆の前で踊らなくてはならない。
教師が男女のペアを発表する。クレアはどきどきしていたが、セスは今年もケイトと踊るようでほっとしていた。
「あら、男性が一人足りないわね。セス、ケイトと踊ったあと、クレアと踊ってくれる」
その教師の言葉にクレアは愕然とした。怖くてセスの反応が見られない。断るかと思ったが、彼は承諾した。
セスとケイトのダンスは完璧だ。一つのミスもなく美しい。すぐ次がクレアの番だった。
差しだされたセスの手を握る。一瞬目があう。彼の瞳は氷のように冷たく、突き刺すようだ。彼の怒りがひしひしと伝わり、クレアは動揺し、俯く。
曲が流れる。クレアは必死でステップを踏んだ。間違えないように、彼に恥をかかせないように。しかし、ありえない場所で彼の足がすっと前に出る。クレアは踏まないようによけようとして、体勢をくずす。その時セスが彼女の手を放した。
クレアは為すすべもなく、無様に転んでダンスホールの床に膝をついた。彼にわざと転ばせられたのだ。
(どうして……目立ちたくなかったのではないの? 恥をかきたくなかったのではないの?)
ざわめきがクスクスと忍び笑いに代わる。そのときひと際高い笑い声が響いた。ケイトだ。「やっぱり、庶民の子にダンスは無理よ。セス様がお気の毒だわ。あんな子と踊らされて」そんな囁きがそこかしこから漏れる。
クレアは、必死に涙を堪えた。なぜ、これほど彼に嫌われなくてはならないのだろう。自分の何が悪いというのだろう。きちんと言って欲しい。ちゃんと、なおすから、あなたに好かれるように頑張るから……。そんな考えがクレアの頭のなかをぐるぐると回った。




