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 学年末試験の時期になった。クレアは普段から勉強が日課となっている。他にやることがないのだ。だからといって不幸なわけではない。たいてい静かに本を読んで過ごす。本を読むことに憧れていた彼女には幸せなひと時だった。


 試験は思ったより簡単だった。しかし、そこで前回の結果を思い出して怖くなる。またセスより上の成績だったらどうしよう。


 クラスは違うのに、廊下や図書館で見かけるとつい彼を目で追ってしまう。どうしたら好かれるのだろう。どうやったら、愛されるのだろう。せめて嫌われたくない。迷った挙句、数問、わざと解かずに提出した。


 その結果クレアの成績は三十番に落ちていた。セスは三番だ。やはり彼は悔しくて勉強したようだ。


「あら、やだ。やっぱりアレはまぐれだったのね。そうよね。庶民の子供がそんなに頭がいいわけないわよね」


 振り返ると女子のボス的存在の侯爵令嬢クリスティーンだった。周りの者は皆くすくすと笑っている。クレアはそこで初めて自分が彼女たちの反感を買っていたことに気付いた。庶民上がりの貴族が上位に入ってはいけないのだ。テストで手を抜いたのは正解だった。



 しかし、ある程度良い成績をとらねば勤め先は見つからない。クレアは何とか学校卒業までセスとの婚約が破棄されないように祈った。今、レイノール家に放り出されても仕事に就けない。それとも多少読み書きができれば、どうにかなるものなのだろうか。


 家では使用人の真似事をしていたが、見よう見まねであって、きちんと仕事を教えてくれる者はいなかった。今のクレアではメイドの職など就けないだろう。その先を想像すると怖くなる。幼い頃から貧民街で見てきた孤児院を出た少女たちの末路……。




 ここでは、熱心に勉強する者は半数ほどで後は遊んでいる。彼らは校内でダンスパーティを催したり、誰かの部屋でお茶を飲んだりと自由に過ごしていた。


 学園生活は取り立てて楽しいわけではないが、不幸なものでもなかった。ときおり思い出したように、派閥を組んだ貴族に馬鹿にされるくらいで、穏やかに一年は過ぎた。

 ただ勉強しなければという焦燥感にかられる。



 そしてクラス替え、クレアはセスと同じクラスになってしまった。同じクラスにはマイアーズ侯爵令嬢クリスティーンもいる。そして彼女と仲の良いケイト伯爵令嬢も。ケイトは差別主義で、クレアとの同席を堂々と拒否する数少ない生徒だ。



 エイミーとはクラスが別れてしまった。

「なるべくクリスティーンの目に留まらない方がいいわよ。そうじゃないと居心地が悪くなるわ。成績も私のようにほどほどがいいのよ」


 彼女の言う通りだと実感した。だからといって勉強をやめるのは不安だ。学年が上がればどんどん学ぶことも増えて、難しくなっていく。ついていけるのだろうか。それならば、またテストで手をぬけばいい。

 


 新学期、新しい出会いにわき、友達グループが出来つつある教室で、一人静かに本を読んでいると、クレアの元にセスといつも一緒にいるジョシュア・ハイドという伯爵令息がやってきた。セスが呼んでいるという。



 挨拶すら厭っていたのに、なぜ? 



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