09
あっという間に半年がたち、初めてのテスト期間がきた。落第でもしたら大変なことになる。クレアは夜遅くまで熱心に勉強するようになった。やってもやってもきりがなくて不安になる。友達同士で勉強をしている人たちを見ると羨ましくなった。
図書館にいるとセスを見かけることがある。彼はたいてい友達と一緒だった。そんなとき挨拶に行くと無視されるし、嫌な顔をされた。どうも彼はクレアと知り合いだと思われたくないようだ。
クレアが学院に合格したと同時に両家の婚約は成立している。しかし、周りの人は誰も知らない。彼はきっと卒業まで秘密にしたいのだ。クレアは彼と出会うことがあってもそっと視線を外し気付かないふりをするようになった。
そんなことをするのは失礼なことだと分かっている。後で何か言われるのではないかと、とても不安だ。だが拒絶されているのに、強引にあいさつに行って、更に嫌われてしまうよりもましだと思ったのだ。
今日もセスが友達と図書館に入ってきた。クレアは気付かぬふりをしてそっと席を立つ。
一週間のテスト期間が終わると、ドキドキしながらテストの結果を待った。掲示板に結果が張り出される。
驚いたことにクレアは学年6位。喜んだのも束の間その二つ下にセスの名前があった。強い視線を感じ顔を向けると、彼が恨みのこもる目でクレアを睨んでいた。肝が冷え、体がすくんだ。どうしよう。これがまずいことだという事は分かる。
「すごいわね、クレア様。私は真ん中くらいかな」
エイミーが褒めてくれたが、セスが睨んでくるので気が気ではない。
私はどうすればよかったのだろう。ただ、落第したくなかっただけなのに……。
♢
不定期で月に数回あるダンスの授業がクレアは好きではない。この学校の生徒は庶民も含め、小さなころからダンスを習っている。だから、皆上手だ。
しかし、クレアはつい最近覚えたばかり、当然所作一つとっても美しくない。
失敗するとくすくすと笑われ「育ちが悪いからしょうがない」などという言葉がささやかれる。恥ずかしくていたたまれない。いつも場違いなところにいる気がするのだ。
普段は男女別れて行われるこの授業も一年に一回教師の決めたペアで踊らされる。誰と組まされるかはその日まではわからない。クレアは勉強も手につかないほど憂鬱だった。セスだったらどうしよう。
しかし、その年は男爵令息と組まされた。相手の足を踏むこともなく無事終了し、胸をなでおろす。セスはケイト・ラッシュというクレアが苦手とする伯爵令嬢と踊っていた。とても綺麗で王子様とお姫様みたいだった。
(私は本当にあの人と結婚するの?)
信じられなかった。同じ学校にいても彼とは住む世界が違うとしか思えない。




