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ただ、愛されたかった。
人から愛されるとどんな気持ちになるのだろう。
ふわふわと温かい、そんな感じなのだろうか。
どうしたら、いい
どうすれば、よかった
本当は、ただ知りたかっただけなのかもしれない。
愛される幸せを。
愚かな私は過ちを犯した。
もう取り返しはつかない。
―グリアン王国の王都エケラにある貧民街アンゴロ地区―
とても寒い朝だった。クレアは母親のエリザと自分のために朝食を用意する。固くなったパンを慎重に薄く切って焼く。パンに塗るバターもチーズもだいぶ前からない。クレアは子供だから半分、エリザは大人だから一枚。粗末な木のテーブルに皿を二つ置き白湯を用意する。支度ができた。
エリザを起こすため、ドアをノックする。いくら待っても返事がない。いつも母の眠りは浅い、クレアはもう一度声をかけたが、起きる気配がなかった。ドアを開けると部屋は空っぽ。母はどこへ行ってしまったのだろう。
七歳のクレアは、母を探しに冬の街に出た。寒さと心細さで涙が零れそうになる。母に会いたい。クレアは、エリザがよく出入りしている酒場を何軒か回ったが、子供は邪魔だと追い出されてしまった。どこにもいない。コートも手袋も無い手がかじかむ。日も暮れて寒さに凍え家に帰ると、隣のおばさんが言った。
「あんたの母親なら、明け方に男と出ていったよ。あんた捨てられたんだ」
(どうして、私が悪い子だったから?)
涙が枯れるまで泣いた。次の日もその次の日も母を探して街を歩く。食事は薄いパン一枚に水という毎日が続き、やがて食料は底をつき、住んでいるのが子供だけと分かると家も追い出されてしまった。手を差し伸べてくれる者はなく。とうとう冷たい雨に打たれて街路にぼろ布のように倒れ込んだ。この街ではこうやって子供が死んでいく。
お母さんに会いたい。いい子にするから。お願いもう一度だけ……。