プロローグ 天才と呼ばれた少年
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その場は、紅の光で満たされていた。少年の右手の澄んだ輝きに、彼と同じ立場の少年少女達も、試験官すらも、片時も目を離すことは出来なかった。
彼らの驚きはやがて、興奮へと変わっていった。早く彼の魔術を見たい。そう思わざるを得ないほどに、その輝きは清く、壮大であった。
まるで周囲の胸の高鳴りに応じるかのように、更にその光は強くなってゆく。だが、少年の魔術はそれだけでは終わらない。少年が両手を前に掲げ、ようやく彼らはそれに気付く。
少年は、左手を碧に染めていた。少年が両手を合わせ、紅と碧の魔力の波長の違いがゆらぎとなって周囲を震わせる。
「二重魔術陣!?」
誰かがそんな声を漏らした。それにつられて周囲がどよめくが、それも長くは続かない。
誰かが息を呑む音すら鮮明に聞こえてくる。それほどまでに張り詰めた空気の中、ついにその時が訪れた。
波長が重なり、揺らぎの消えたその刹那。少年は口を開き、唱えていた。
「『炎柱』」
直後、少年の前に二つの幾何学的な模様が浮かび上がる。
そして荒々しくも美しい、空気を焦がすような豪炎が放たれた。充分な距離をとっているはずの彼らにも熱風が吹き付ける。
確認するまでもなく、試験用の木材は一瞬で消し炭になっていた。圧倒的な力に、誰も声を出すことが出来ない。
試験官が口を開いたのは、炎が完全に消え、緩やかに吹く冬の風が彼らの頬の熱を完全に奪い去った後であった。
「推定魔力保有量A、魔導技術A。総合魔術適正ランクA」
その言葉が、試験会場を震わせた。
少年の名は、アラン・レイヴェルト。史上最高の天才と呼ばれた彼はこうして、栄えあるヴェレリア魔術学園への入学を決めた。
そして彼の輝かしい魔術師人生は――――――――この瞬間、終わりを告げていた。
読んでくださりありがとうございます。
短いプロローグですので、もう一話投稿します。
そちらも読んでいただければ幸いです。