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26 邪魔をしに行くそうです


 花嫁選考会には、ナディーン姉様も来るのだ。


 わたしと来れば、アントニアは顔を見たくもない相手の近くで生活しなくてはならなくなる。そのことを思うと、無理なような気がした。


 ポールの頼み事は、思いの外かなりの難題だったようだ。


 それでも言わなければ。


 わたしは意を決した。


「それなんだけど、花嫁選考会には姉様も来ることになってしまったの」


 言ってから、アントニアを見やれば笑顔が凍りついている。

 やっぱり嫌だよね、と思い、きっと断られるなと思ったけれど、返って来たのは別次元の返答だった。


「なんてこと。どこまでも人の幸せを邪魔したいのね……ふふふ、わかりましたわ、ジェシー!」


「は、はぃっ!」


「侍女にはわたくし以外を選ばないで下さる?」


「はい?」


 訳がわからずに目を見開いていると、アントニアは赤い瞳に闘志とおぼしきものをギラつかせていた。


 目の錯覚だろうか、炎が燃えているようにさえ見える。


 わたしは思わず目をこすった。


 しかし現実はそのままだった。


「貴女のお姉様だから悪く言いたくないけれど、きっと花嫁選考会を引っ掻き回して楽しむつもりなのよ。ならば、わたくしはナディーンの邪魔をしに行くわ。ジェシーと、招かれた女性たちのためにも。いいですわね!」


「はい!」


 先ほどから「はい」しか言っていない気がするが、それ以外出て来ないのだからどうしようもない。


 視界の片隅に若干怯えた様子のボリスと、お茶とお菓子を持ってきた女性使用人が見えているが、入り込めないのかこっちに来ない。来てくれれば一度中断出来るのにと思っていると、アントニアは不気味な笑い声をあげる。


「これ以上の犠牲者を減らさなければなりませんわ。あのお綺麗なお顔の裏に隠された本性を暴いてさしあげたいものですわね、ふふふふふ」


 これはどうしたら止まるのか。


 長年の、積年の恨みが弧を描いた唇から零れて止まらない。


「その時の男どもの反応が見てみたいものですわね……あ、そういえば、聞かなければと思っていたのだけれど、殿下がアンダーソン公爵家を訪問なさったそうじゃない。ということは、ナディーンをご覧になったのよね?」


「……見たよ」


「じゃあ、まさか、ナディーンも選考会に呼ばれたと言うこと!?」


 いっそ悲愴と例えても良いほどの表情になるアントニア。


「違うよ、呼ばれたのはわたしだけ。姉様はただの付き添い」


 そう答えると、アントニアの元々大きな目が増々見開かれた。そう言えば、彼女はまだ姉様を見ても虜にならなかった若い男がいるということを知らなかった。


「じゃあ、何も起きなかったのね?」


 俄かには信じられないのか、問い返してくるアントニアにわたしは強く頷いた。


「凄い! 奇跡じゃない!」


「そうだね。凄く驚いたし……もう終わりなのかなと思ったけれど、殿下はあのボリスと同じで何も感じてないみたいだったの。美人さんですね、とは仰ったけど、本当に何も。

 あ、そうだ、殿下の護衛役の人も何も感じてないみたいだったよ。主従揃ってだなんて、凄いことだよね」


 こっそりポールを売り込んでみる。


 決めるのはアントニアだし、必要以上に何かを言うつもりはない。

 彼女を口説き落とせるかどうかはポール次第だろうけれど、こうして彼女と話せるきっかけを作ってくれたから、そのお礼のようなものだ。


 ただし、彼は女好きの遊び人だ。


 本気だと言っていたものの、もしもアントニアを傷つけるような事態になりそうなら、わたしは全力で阻止するつもりだった。


 ただでさえ傷ついているのだ。


 その傷口がまた開くようなことにはさせない。


 などと考えていると、呆気にとられた様子のアントニアが盛大に息をついた。


「まあ、そんなことがあるものなのね。その時のナディーンの顔を見てみたかったわ。さぞ衝撃を受けたでしょうね。貴女の従者の時なんて、あまりのことに頭痛で寝込んでたし、今度は一度にふたりですもの。想像するだけで少し胸がすくような気がするわ」


 アントニアは心底嬉しそうに語る。


 わたしはその時の姉様を思い出し、背筋が寒くなった。

 ボリスの時はただ衝撃を受けただけだったのが、今回は全く違う。ただ、怒っているらしいことは確かだ。


 そんなわたしの胸中は知らぬまま、アントニアはにこにこしながら語る。


「それに、その護衛役の人にはぜひ会いたいわね。どんな人なのか気になるもの。そんな方がふたりもいる国だなんて、ますます、行かなくちゃという気になるわ!」


 アントニアは気合たっぷりだ。


 とりあえず、ポールが女好きであることはちゃんと教えておこう。わたしが知らない間に何かある可能性だって捨てきれないのだ。


「そ、そうだね」


 わたしは何とも言えぬ不安を感じつつもそう返し、ようやく少し落ち着いたところで、安堵した様子の使用人たちがお茶を持ってくる。幸い、さほど冷めてはいなかった。


 それからは、少しお喋りをし、お茶を楽しむ。かねてから気になっていたその美貌はどうやって保っているのだろうとか、そんな話だ。


 終始照れたり嬉しそうにしたりする姿は、あまり見たことのないもので、わたしは本当にこの時間を作るキッカケをくれたポールに心から感謝したのだった。



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