25 友達ができました
アントニアに引きずられるように歩いてほどなく、立派な温室に辿りついた。そこでは色とりどりの、この国にはない花が幾つか花をつけており、その美しさにわたしは瞠目した。
「わあ、綺麗だね!」
「でしょう! 絶対にいつかお見せしたいと思っていたのよ。ここにあるものはわたくしが選んだものですの。お友達とのお茶会もほとんどここで開くのよ。
ジェシーにもいつか来ていただきたいなとずっと思っていたから、ようやく叶って良かったわ」
嬉しそうに言う姿に、わたしはちょっぴり罪悪感がわいた。
姉様のことがあったせいで、恨まれているのではと思っていたため、声を掛けてくれる彼女に応えることをほとんどして来なかった。
確かに、最初の頃は恨み言を言われたこともある。
しかし、わたしも同じ目にあってからはただお話ししましょうよ、と言われていたことが多かったように思う。てっきり、そこでまた恨み言を聞かされるのかと思っていたけれど、この様子だと違うみたいだ。
――ポールに感謝しないと。こんなきっかけでもなければ、きっと今でもここに来ることはなかったもの……。
心の中でそう思い、案内されるままテーブルにつく。
すぐに近くに掛けたアントニアは、お茶が運ばれてくるのを待つことも無く、まつ毛の多い目をこちらに向けてきた。
「それで、わたくしに話があるのよね?」
「え、うん、そうなんだ……えぇと」
どこから話したものかと少し迷い、視界の端に遅れてやってきたボリスの姿を捉えつつ、順に説明することにする。
「今度ね、バーギン王国でちゃんとした花嫁選考会が開催されることが決まったの。そこに、わたしも行くことになって……」
「まあ! と言うことは将来王太子妃様になるかもしれないのね。素晴らしいわ。それで?」
少し仰々しい相槌に面食らいながら、わたしは続ける。
「ええと、それでね、もしもわたしが選ばれた場合、侍女は貴族や騎士階級の女性から選ぶことになる訳だけど、その……あなたにお願い出来ないかなあって。
ほら! わたしって他のご令嬢の皆さんとあまりお話したことがなくて、お友達もいなくて……だから……」
何だろう、うまく説明できない。
しどろもどろになってしまった。
何より、自分と同じ階級の人間に使用人になってとお願いするなんて、難易度が高いのだ。
友人がいないというのは嘘ではない。
姉様のこともあり、若い貴族たちとはほとんど交流がないのは事実。
今さらではあるが、ポールでもメイジーでもいいから説明するための文章を書いておいてもらえば良かったと思う。
それを記憶して読み上げる程度のことなら、わたしにだって出来る。
じわじわと頬が熱くなり、失礼なことを言ったんじゃないかと不安で動悸がするのに、中々返事が返って来ない。
どうしたのだろうと思ってアントニアを見やれば、ぽかんとしている。
しばらくそのまま見つめ合う。
――な、何か言って欲しい!
耐えきれず何か言おうかと思った時、アントニアの目が潤んだ。
わたしは思わずぎょっとしてしまった。
「あ、あの~、嫌なら無理にとは……だって、わたしは……」
貴女を傷つけた元凶の妹なのだ。
もしかしたら、ひどい事を頼んでしまったのかもしれない。わだかまりは消えたとばかり思っていたけれど、それもわたしの勘違いだったのだ。
あれ以来あまり男性と話さなくなってしまった彼女も、この国を出れば何か変わるかもしれないとか、そんなことを考えたけれど、おせっかいだったのだ。
どうしようと思っていると、アントニアはようやく声を発した。
「いえ、お受けするわ」
「え、でも……本当にいいの?」
「ええ、それに、ジェシーに友人だと言って貰ったから。わたくしが一方的にそう思っているだけだと思っていたけれど、そうじゃないとわかって嬉しいのよ」
わたしは彼女の言葉にただただ驚いた。
色々なことがあったけれど、それでも声を掛け続けてくれたのはアントニアだけだった。心の中で、普通のご令嬢のようにお茶を飲みながらお話できたらどれほどいいだろうと。その時にいつも顔が浮かぶのはアントニアしかいなかった。
ちゃんと向き合いたかったのだ。
「わたしも嬉しいよ。ずっと、歳の近いお友達がいたらいいなって思っていたから……」
そう言ってアントニアの目を見ると、目が合った。
どちらからともなく笑い出す。
「もっと、早くお話出来ればよかったわね。わたくし、これでも懸命にお誘いしていたのに、ジェシーったら冷たいんだもの」
「ごめんね。だって、姉様のことがあったから……きっとわたしといたら嫌な事を思い出すかもって考えたの。そうしたら、自分から話しかける勇気も、誘いに乗ることもできなくて……」
「そう。でも、貴女とナディーンは違うわ。姉妹だなんて信じられないって、皆さんも言っていたのよ。わたくしたちと似たような目に合っただけでもお辛いでしょうにとお話していたの。しかも家はあの状況だもの……わたくしだったら耐えられませんわ」
はぁ、とため息をつくアントニア。
わたしはそこで、もうひとつ言わなければいけないことに気づいた。




