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21 ポールの助言


 あまりに楽し過ぎて、エリオットが行ってしまうのが寂しいな、などと思いつつ、迎えに来てくれたポールとメイジーと共に館へ戻る。


 すると、その途中で突然、ポールが思い出したように声を掛けてきた。


「ああ、そうだ。アンダーソン嬢、少しいいですか?」


「え? うん、構わないけど」


「恐らくわかってらっしゃると思うんで、別に言わなくてもいいかなと思ったんですけど……それでも一応」


 彼にしてはやや言いにくそうにしている。


 わたしの印象としては、言いたいことをポンポンと好き放題言い、やりたいことをやりたいようにやる人物なのだが。

 そんな彼が、何を言いにくそうにしているか気になり、思わず立ち止まる。つられてエリオットとメイジーも立ち止まった。


「どうしたんだ?」


「いや、殿下はあんまり気づいているようないないような感じでしたけど、アンダーソン嬢のお姉さん、あの人には気をつけた方がいい」


「気をつけた方がいい? どういう事だ」


 ポールはわたしの方を見て、少し言い淀む。


「あ、わたしのことは気にしないで下さい。姉様について何か言われるのは慣れてます」


 そう答えると、ポールは少し面食らったようだった。


「はあ、何と言うか、初見の時にも思いましたけど、アンダーソン嬢って色々お強いですよね。演技で偉そうに振る舞っていた時とか、少し言い過ぎたかと思ってたんですよ」


「まあ、アレは確かにひどかったですけど。後で謝ってくれたじゃないですか」


 エリオットの告白やらで混乱しながらバーギン王国から出国した時、一応彼にも挨拶したのだ。

 その時に、

「あん時はすいませんでしたーーっ!」

 と全力で謝られた。


「ですが、金袋の狙いがうっかり逸れて当たっちゃった時とか泣かれるかと思ってたんですけど、血ぃ流しながら平然としてましたし。お姉さんをかばおうとしていた時の迫力も凄かったですよ」


 ははは、と笑われてわたしは若干引きつった。


 まあ確かに、罵られ慣れていた側面は否定できない。

 しかも、そういう状況に置かれたときの対応も経験済み。

 流石にあの時は王太子だと思っていたからうかつなことは言えないと焦ったものの、何とか切り抜けられたのは、そもそもここでの暮らしが関係している。


 日常的に感情的な人間に絡まれるのである。


 何とか出来なければ後が大変だ。


 否応なく、精神が鍛えられたのだろうなとわたしは思った。


「後で殿下の気持ちを聞いた時、すげぇ見る目あるなと思って。まあ、それはさておき、話が逸れすぎましたね」


 ええそうですね。

 何の話をしていたかわからなくなる逸れっぷりでした。


 などと内心突っ込みを入れていると、ポールが真剣な表情に戻る。


「お姉さん、俺は女性が好きなんで、色々な女性を見てきたから感じたんですけど、ああいうタイプは怖いですよ。

 家族だから大丈夫、と思わない方がいい。

 感情が振り切れると、何かしでかすかもしれません」


「な、何かって……」


「わかりません。ただ、アンダーソン嬢はお姉さんのことをかなり大切にしているようだったんで、心配になったんです。今回、お姉さんは殿下に相手にされず、相当苛立ってました」


「それは私も感じていました。でも、ナディーン様がジェシー様に何かするなんて、信じられません。お二人は幼少期から仲が良く、ナディーン様もジェシー様を可愛がっておられましたし」


 メイジーが眉を顰めつつ口を挟む。

 しかし、ポールはすぐにメイジーの言を否定した。


「それは、今までお姉さんがアンダーソン嬢よりも上にいたからですよ。自分より価値の低い人間に対して、ああいう人間は鷹揚ですから。けど今回はそれがひっくり返ったんです。怖いですよ、ああいう女は」


「経験があるように言うな」


「俺の良く行く花街では良くいますよ、ああいう女。目つきでわかります。ああいうのには関わらないようにしてるんです。いくら美人でも、性格の悪いのは嫌いなんで」


「なるほど……じゃあ、呼んだのは不味かったか」


「ええ、そう思います。けど、その前に何かあったら困る。俺の部下を残して行きますんで、護衛役に加えてもらえませんか?」


 ポールにそう問われ、わたしは迷った。

 急にそんなことを言われても、困る。ただ、今日の姉様の目は本当に怖かったのだ。

 今まで見たことがないほど、冷たかった。


 だから、わたしはとりあえず頷くことにした。


「わかった。護衛はボリスとあなたの部下にお願いするね」


「ああ、良かった。これで少しは安心だ。バーギンの方でも、部屋をわけるとか、対策とっときます。杞憂だといいんですけど、何かあったら国の問題ですからね」


「そうだな。と言っても、僕には全くわからなかったんだけど」


「殿下にわかる訳ないじゃないですか。色々な意味で女を知らないのに」


「ちょっ! お前……っ! ジェシーの前で!」


 みるみるエリオットの顔が赤くなる。

 ポールはにやりと不敵に笑う。


「隠すことないでしょう。ねえ、気になさいませんよね?」


「え、うん。全然」


 答えながらエリオットを見るが、全く目を合わせようとしてくれない。

 よくわからないが、男性にとっては恥ずかしいことらしいので、触れないでおこう。

 

 そうしよう。


 とりあえず、話題を反らさなければなるまい。

 しかし、すぐには何も思いつかない。


 何か、この件に関して聞いておくことはないかと考えていたら、ポールが先に口を開いた。



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