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18 どうなるの?


「ええ、それについてはわたしも同意しますわ。ジェシーはわたしなどより遥かにしっかり者ですから。きっと頼れる伴侶になると思います」


 唐突にそう言ったのは、ナディーン姉様だった。


 先ほど見た殺意のこもった目など、まるで無かったかのように、楽し気な笑みを浮かべている。

 わたしはその変わりように何も言葉が出て来なくなってしまった。


「はい、頼りにしたいと思っています」


「是非そうなさって。わたし、ジェシーには幸せになって欲しいのです。わたしのこの見た目のせいで、ジェシーには苦労を掛けましたから。本当は近くにいて欲しいのですよ? でも、仕方がありませんわね」


「申し訳ありません。でも、必ず幸せにして見せますよ」


 エリオットはナディーン姉様の潤んだ瞳にじっと見つめられていても、特に変わりなく返事している。

 ナディーン姉様も、そんな彼に対して何かを感じている様子もない。


 ――気のせい、だったのかな?


 本音を言えば、あの目が忘れられない。

 それでも、今はそう思うしかないのだ。

 そう、きっと気のせいだったのだ。


「信じておりますわ。それで、わたしから提案なのですが、よろしいかしら?」


「ええ、何でしょうか?」


「わたしも、花嫁選考会に参加させてくださいませんか?」


「え?」


 突然放り投げられた提案に、流石のエリオットも固まる。


「ナディーン! お前は何を言っているんだ? お前がそんなところに行ったら大変なことになる。私は許可しないぞ!」


 父が語気を荒げてテーブルを叩いた。

 しかし、ナディーン姉様はそんなことには全く動じず、潤んだ瞳のままわたしをちらりと見やって続ける。


「ですが、可愛い妹が他国でいじめられたりしないか心配なの。だからわたしが行って、皆さんにお願いして来なくちゃと思って。何より、そうすればもう少し長くジェシーといられる時間が持てるでしょう?

 こんな状況になってから、姉妹だけの時間なんてほとんど無かったのよ。隣国に嫁げば簡単に会えなくなるというのに、わたしは寂しいの」


 滔々と語られた内容に、わたしはやはり姉様は姉様だと感じた。


 自分が一番じゃないと嫌というわがままさはあるけれど、ずっとわたしのことを気にかけてくれていた。

 婚約破棄の時だって、すぐに慰めに来てくれたのだ。


 あの時の優しい声音は、まだ耳に残っている。


「我慢しなさい。それとも、他国で問題を起こしたらどうなるかを考えるべきだ。お前の気持ちよりも重要な事があるんだぞ?」


「でも、何年も会えなくなるのよ? それでも行ってはいけないというの? そんなのひどいわ」


 心から悲し気にうつむくナディーン姉様。

 その様は、さながら雨に打たれた大輪の薔薇のようだという、少し陳腐な表現がぴったりきてしまうほどだった。


「ねえ、この子がここまで言う事は滅多にないわ。信用のおける使用人を大勢つけてあげたら何とかなるんじゃないかしら」


「だが、今までこの子の行く先で起こったことを思い返せば……」


「でもねぇ……そうだわ! わたしが一緒に行ってあげればいいのよ。お目付け役がいれば大丈夫よ」


 母がいい案を思いついたとばかりに提案する。


「お前ひとりが行っても無駄だ。それに体の強くないお前が行っても四六時中見ていることなど出来ないだろう。行かせないことが一番だ」


 父は断固として譲らない。

 実のところ、わたしも父に賛成だ。姉様にその気がなくても、いるだけで騒動になるのを何度も目撃してきたからだ。


 姉様はずっと悲し気にうつむいている。

 このままだと涙まで流しそうだ。


 何か言わないとと思うのに、何にも思いつかない。


 すると、それまで黙って成り行きを見ていたエリオットが言った。


「あの、僕は構いませんよ?」


「で、殿下! しかし……」


「こんなに悲しそうなのに、来るなとは言えません。それに、彼女には資格がある訳ですから。大丈夫です、招かれるのは女性たちがほとんどですから、こうすればいい、とやり方を教えて下されば対処しましょう。何より、ジェシーのお姉さんなんですから」


 すると、姉様の表情が一変した。


「ああ! ありがとうございます。一生感謝致しますわ。本当にお優しい方。ジェシーが羨ましいわ」


「しかし殿下、本当によろしいのですか? 冗談では済まない事態を招くかもしれないのですが……?」


 父の不安しかないという声に、エリオットは落ち着いた様子で頷く。


「はい。ようするに、若い男性と触れ合う機会を限りなく少なくすればいい訳ですよね。それなら何とかなると思いますよ」


 こう断言されてはわたしたちに反対する理由はない。


 わたしとしては複雑な気分だった。


「ま、まあ、確かにそうなのですが……いえ、殿下がそうなさると仰るのなら、きっと大丈夫でしょう」


 流石の父もエリオットに反論する気はないようだ。これで話はまとまったのだ。わたしは無邪気に喜んでいる様子の姉様を見て、まあいいかと思った。


 エリオットに視線を向ければ、目が合う。


 これで良かったですか、とでも言いたげな顔だったので、微笑んで見せると、安堵したような顔に変わる。


 その小さな変化を見て、心が温かくなったような気がした。


 希望と呼べる何か。


 わたしはそれをついに見出したような、そんな気がしていた。


 

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