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4 イケメンが叩き出されてきたよ


 しばらくにらめっこは続き、だんだん目が痛くなってきた頃、メイジーが盛大にため息をついた。


「わかりました。けど、色々とバレないようにしなくてはなりませんよ?」


「うん! ありがとうメイジー! やったあぁーっ!」


 思わず歓声が漏れる。

 これで美味しいものが食べられるのだ。確か有名なのは魚介類。リドルトン王国では珍しい鮮度の良いものが食べられると言う。

 ケーキ類も多種類あると書いてあったっけ。


 などと考え事をしていると、城の兵士が不審な者を見る目でこっちを見てきた。


「いけない。早く王宮を出ないと、それじゃあ話も決まったことだし、行きましょうか!」


 わたしは意気揚々と城を後にした。


 もちろん、ちょっと後ろ髪が引かれないでもない。残してきたご令嬢たちのことを思えば、ひとりだけ浮かれるのも良くないように思う。

 でも、わたしに何が出来ると言うのだろう。

 問題を起こして、リドルトン王国の人々に迷惑を掛けることは出来ない。


 だから、心の中でごめんなさい、許してねと何度も繰り返しながら、わたしは使用人たちと共に城を後にしたのだった。



  ◇



「まずは宿泊施設ですね。安全なところを探さなければ」


「ははは、メイジー。そんなこと気にしなくても大丈夫さ。俺がいるのは何のためだと思っているんだい?」


 ボリスが大げさな身振りを交えて言うのをメイジーは一切聞くこともなく、通りすがりの街の人に声を掛けて情報収集している。

 その様子をいつもどおりだなぁ、と眺めていると、何やらいい匂いがしてきた。


 わたしがそちらを見れば、食堂がある。


 あくまでも、ごく普通の庶民が食事を取る場所。

 そういえば、そろそろ夕食の時間だった。一日の仕事を終えて、家庭に帰る場合もあれば、ああした食堂兼酒場で疲れを癒す日もあるのだろう。


「ああいうところが美味しいのかなあ」


 ひとりごとのようにつぶやく。


「美味しいと思いますよ。僕もリドルトンで良くああいうところに行ってましたけど、美味しいです。あまりはずれはないと思いますよ。

 まあ、メイジーさんが許さないでしょうけど」


「そうなんだよねぇ~」


「その姿では変な奴らに絡まれる可能性もありますからね。そのぅ……ボリスさんは優秀なのだと思いたいんですけど……なんというか、信用が……」


 言葉の終わりでもごもご言い出したチャド。

 それについてはわたしも同じ意見だ。


「あはは、うん、そうだね。対策をとってからの方がいいよね」


「そう思います」


 断言されてしまった。


 わたしは空を仰いでから、夕刻にさしかかった街を眺める。綺麗な街並み。かつては戦争もあったけれど、この美しい街並みは守られた。

 もう少し先へ進めば大広場。

 まずはそこを見たいなあと思っていると、近くの店から怒号が響いて、誰かが叩き出されるのが見えた。


 ――えっ、なに?


「こんなに使えない奴は初めてだ。余所へ行くんだな!」


 店主らしき巨漢の男性は、戸が壊れるんじゃないかと思ってしまうほどの勢いで戸を閉めた。

 わたしは呆気にとられてそれを眺めていた。

 その店の隣は空き地になっていて、枯草の混じる草むらに誰かが倒れ込んでいる。道を行く人は何だろうなと言いたげに誰かを見ているけれど、なぜか誰も助けに行かない。


 ――えーっと、どうしよう。


 誰か、誰かわたしの代わりにあそこの方を助けてやってくれないだろうか、と思うのに誰も見向きもしない。

 それどころか……。


「まぁただよ。懲りないねぇ、もっと別の場所で仕事探せばいいのに」


「本当だよ。床を掃かせればほこりをひろげるし、皿を洗わせれば必ずその皿を割るらしいよ。今までどうやって生きて来たんだろうね?」


 通りすがりのおかみさんたちがひそひそと喋る。


 うん、まあ、それは確かにひどい。ひどいけれど、かといってあの人放っておいてもいいものか。わたしとしては、きっと探せばどこかには何かしらいいところがあるんだと思うんだけど……。


「うぅ」


「……お嬢様? やめといた方が」


 チャドが何かを察して止めてくれる。


「でも寝覚めが悪すぎるでしょう?」


「そうですけど! あっ」


 もう止めても遅い。わたしはその草むらに行き、頬を赤く腫らして目を回しているらしい青年に声を掛けた。


「もしもし、起きられますか?」


 もしもーし、と声を掛けるが反応がない。死んでないよね、と不安になりつつもそっと触れて確かめてみる。うん、大丈夫。動いてる。呼吸してる。


「お嬢様、何やってるんです? そいつは?」


 すると、メイジーに相手にされなさすぎて諦めたのか、ボリスが来て問うた。


「いや、何かそこの店をクビになったひとみたいなんだけど、起きないから気になっちゃって」


 答えつつ、青年をじっと見て気づく。


 ――え、ちょっ、何このひと。凄いイケメンなんですけど!


 とてもこんなところで草むらに埋まってていいような雰囲気ではない、青年の整った顔立ちについつい見入る。すると、そんな彼のお腹から聞き間違いようのないギュルギュルと何かを絞るような音が聞こえた。


「……え?」


 何とも違和感のある音に顔が引きつる。


 すると、青年が呻くように言った。


「うぅ、う、何か食べるものを下さ、い……」


 それだけ言うと、彼はまた動かなくなった。わたしはどうしたら良いのか困り果て、しばらくその場から動けなくなってしまった。


 

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