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1 まずは休養しました


 皆さま、お久しぶりです。こんにちは。お元気ですか。わたしはまあまあ元気のようなそうでもないような。

 あれから無事に自分の国へ帰って参りました。


 散々馬車酔いで、道中止まってもらっては死にそうになりながらもなんとか帰宅。ほうほうの体で息も絶え絶えなわたしを、家族と使用人ズはまあ大変、早く休んでねとせっせと世話してくれました。


 少し休めば大丈夫なんですけどね。


 それでもこうやって気遣ったり歓迎して貰えるのは嬉しいものです。

 まああれです、選考会に落ちたのね、とか、やっぱりダメだったね、とか陰でこそこそと話さなければもっといいんですけど。


「聞こえてるんだけどなー」


「いつもの事です。お気になさらず、後で思い知るだけでしょうから」


 良く晴れた日の午前中。

 自室での食事を済ませてから、メイジーに着替えさせてもらう。ここしばらくはのんびり休ませてもらっていたので、体力は戻って来た。

 なので、少しは外に出てみようかなと思い、外出用のドレスを選んだ。


 着替え終えると、手伝ってくれた小間使いたちが退出。

 部屋を出てすぐに彼女たちの可愛らしいさえずりが聞こえてきたという訳なのだ。


「でもようやく外出が出来るようになられて良かったですー」

「婚約破棄以来死んだ顔でしたしねー」

「少しは目にも力が戻りましたよねー」

「あれはひどかったですよねー」

「ナディーン様も珍しく心配なさってー」

「でもご自分のせいとか気づいてないんですよねー」

「ナディーン様無自覚で人を傷つけるタイプですしー」

『ジェシー様、かわいそー』


 最後はハモってきゃっきゃ言いつつ歩いていく小間使い三人。

 わたしはああ、家に帰って来たなあとしみじみと思ったのだが、少しずつメイジーの目つきが悪くなっていくのに気づいた。


「め、メイジー?」


「どうやら私がいない間に色々と忘れているようですね。後で給料をカットしておきましょう。そして仕事量を増やしましょうか?」


「やめてあげて! ただのお喋りだからやめてあげて!」


「では仕事量を増やすのみに留めましょう。早速家令にご相談しに行かなくては。全く、男ばかりだとこれだから、若い女に甘すぎますよあの(ブタ)ども」


 イライラし出したメイジーを見るのも久しぶりだ。

 ボリスやチャドに対してここまで苛つくことはないけれど、女性使用人がわたしと姉様の話で盛り上がるのを聞くのが特に嫌であるようだ。

 とは言え、この家でこれほど美味しい話題もないので、多少は仕方がないかと諦めている。


 耐えられなくなったら別荘があるからね!


 別荘には気の良い老いた夫婦が管理人として暮しているだけだから、精神が焼けただれそうになったらそこへ避難している。

 両親もあの小さな別荘はわたしにくれると書面でも確約してくれているので、将来はあそこで暮らそうかなあと考えていたり。


 すると、扉がノックされた。


「はい?」


「入っていいかな?」


 掛けられた声は若い男性の物。

 もちろん、聞き馴染んだ声なのですぐに「どうぞ」と返す。


「大丈夫? メイジーにそっとしておいてやって欲しいって言われたから、あまり来ちゃいけないと思ってんたけど。そろそろ休みも終わりで、また戻らなきゃいけないから、挨拶くらいはと思って」


「平気だよ。ありがとうねトラヴィス」


 入って来たのは、弟だった。

 わたしと並べると本当に良く似た姉弟ねえと皆様にご好評の弟だ。

 ここに別枠のひとりを混ぜると大抵は首を傾げるけど。

 ナディーン姉様のことだ。

 あのひとだけはどうにも我が家族のように思えないが、母が確定だと仰っておられるので、我々としてははいそうですかと従わざるを得ない。


 年齢はさほど離れていないうえ、また寄宿学校に通っているので、休みの時にしか会えない。今は春休みなので、珍しく家にいた。

 夏休みと、冬休みは長いが、春はすぐに終わる。家族に会うのが一番の目的の休みだからだ。


「いいよ。僕としてもジェシー姉さんのことは凄く心配だったんだ。だって言うのに、ナディーン姉さんに来た話をほいほい受けてバーギンに行っちゃったって手紙で知って仰天したんだよ?」


 入室しながらため息交じりに言う。

 トラヴィスはそのまま椅子に掛けるとわたしを眺めて笑った。


「だけど、死んだような顔をしてたのがもとに戻ってるって事は、バーギンに行った甲斐があったんだね。良かった」


「……ねえ、さっきから皆してわたしのこと死んだ顔死んだ顔言ってるけどそんなにひどかったの?」


「うん、どこぞの吸血鬼の小説に出てくる挿絵みたいな感じ?」


「後は幽霊の出てくる小説の幽霊でしょうか?」


 メイジーがさらりと混ざる。


「そうだね! 他だとミステリー小説の挿絵とかで見るような感じの死体の顔だったよね!」


「ええ、ええ。まさにそんな風でした!」


 そこ、意気投合しないで下さい。


「でも今は何とか生きてるんだよね?」


 確認のために訊いてみると、ふたりして頷いてくれた。

 良かった。

 いや良くない。

 死体、だと?

 幽霊、だと?

 吸血鬼、だと!?


 例えが悪すぎるんじゃないか。

 全部人外とかどういうことですか?

 ちゃんと生きてるよ。生存してるよ。まだ人間だよ!

 わたしが何にも言わないのをいいことに好き放題言っておる。

 いや、言えないんだけど。へたに返したら百倍返しされるからね!


「うん、何とかこちら側に帰って来てくれたぁーっ! っていうか、ようやく姉さんが生き返ってくれて、安心したよ。これで学校に戻っても心配ないよね」


「そうですね!」


 何でメイジーが返事しているのかはさて置いて、わたしはすっかり外出する気力が失せ、トラヴィスの前の椅子に腰を下ろした。

 服装寝間着に戻すかな、などと考えていると、またしても部屋の扉がノックされる。誰だろうと思って誰何すれば、返って来たのは母親の声だった。



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