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27 告白が突然過ぎて


 そもそも、どうしてクソ殿下はわたしに話があるのだろう。

 恐らく正体に気づいたからだと思うが、この男のろくでもない部分について漏らしてはいないのだ。

 それに、あの黒ずくめたち。

 あれをけしかけたのはきっとこのクソ殿下だ。


 早く国へ帰れと釘を刺すつもりなのだろうか?


 ポールたちは何やらどんどん人気のない方に歩いていく。舞踏会のさざめきさえ届かないような場所まで歩いてきたと思ったら、突然個室に連れ込まれた。ここは一体と思っていると、ダスティンが心の声を読んだように言った。


「城にある客室のひとつだ、ここで話をしよう」


「話ってなんですか?」


 警戒心むき出しで聞けば、ダスティンが答えもせずに一番大きな椅子に向かい、腰の剣を外してポールに渡した。

 あれ、何かが逆転しているような――?


 戸惑ったまま見ていれば、ポールは剣を持ったまま直立不動で動かなくなった。わたしが混乱していると、ダスティンが自分の正面の席を示した。


「そこに座ると良い。まず確認だが、貴女はジェシー・バーバラ・クラリス・アンダーソン公爵令嬢で間違いないのだな?」


「え、ええ。そうですけど?」


 言われた通りに椅子に腰かけながら答えれば、ダスティンは満足そうに頷いた。それから名乗り始める。


「私はダスティン・モーガン・バーギン・ハドック。ハドック大公の息子だ。ハドック大公はわかるか?」


「ええと、国王陛下の弟君ですよね?」


 スタンリー将軍の話を思い返しながら返答すれば、ダスティンは少し笑う。

 何しろ勇壮な美男子なので、そんな部分さえ様になっている。


「色々とご存じのようだ。では、話が早いな。貴女には王太子の花嫁候補としてこのまま城にとどまって頂くことに決めた」


「は? 何の話ですか? それにどうして殿下がそこで立っていて、貴方がそこに座っているんです? そもそも、本当の王太子は彼じゃないじゃないですか」


 混乱して訊ねれば、ダスティンの目が鋭くなった。

 わたしは思わず少し身を引く。引いたところで椅子の背もたれにぶつかるだけだが、少しでも距離が欲しいと感じたのだ。


「なるほど、では貴女は本物の王太子と会ったことがある訳だ。そうか、それはいいことを聞いた」


 あれ、どうやらまた大変マズいことを口走ったような気がする。

 どうしてこう口が滑りやすいのだろう。

 しかしエリオットのことは断固として喋りませんとも。

 でもきつい拷問とかされたら無理だろうなとも思う。どうしよう、などと戦々恐々としていると、ダスティンは唐突に言った。


「本物の姿について聞きたいが、それより先に言っておきたいことがある。貴女には、私の妻になって頂くつもりだ」


「……は?」


「私は常々リドルトン王国との繋がりが欲しかった。しかしあの国に王家と繋がりのある妙齢の女性はふたりだけ。片方は呼んでも来なかったが、貴女は来た。しかも、先ほどの状況でのあの振る舞い、実に気に入った! 私好みだ。どうせ将来王妃となるのなら、あの程度の振る舞いが出来なくては困るのでな」


 何やらひとり悦に入り滔々と語りだしたダスティン。

 やりたくはなかったが、わたしは直立不動で動かないポールに目を向けた。彼はどうやらこちらの疑問符満載な視線に気づいてくれたらしく、何度か咳払いをする。


「あー、団長、アンダーソン嬢がどうやら混乱しておられるご様子です。ここは順を追って説明して差し上げた方がよろしいかと」


「ん、ああ……済まないな。つい興奮してしまった」


 興奮していたのか。

 とてもそうは見えない。頭がおかしいのかとは思ったけれど、一応落ち着いているように見える。もしかしたら見えているだけなのだろうか。わたしの目がおかしいのかな?


「アンダーソン嬢、ここまで聞けばわかると思うが、私はこの国の王位が欲しいのだ。元々、現国王が崩御なされば私が王位を継いでいたのだ。そこへ、急に王女殿下の御子が現れた。驚いたが、それよりも悔しくなったのだ。それでは、私の今までの努力も全て無駄となってしまうではないか。王になるために、私はずっと犠牲を払って来たというのに」


「はあ、そうですか」


「そうだ。そんな急に出てきた人間に王位をくれてなどやるものか。そこで、計画を立てたのだ……このポールに協力して貰ってな」


 わたしはちらり、とポールを見やる。何だか色々話が違う。

 どうしてわたしに盗んだお金を投げつけたりしたのか。

 そもそも、彼の役割って何なのだろうか。なぜニセ殿下なんてやらされているのだろう?

 疑問が渦巻いて止まらない。


「私は必ず王位を継ぐ。そうすれば、貴女も王妃となれるだろう。悪い話ではない、それに、私はこう見えて女性に人気があるのだ。これほどの男と結婚出来る機会は国にいたのでは巡ってこないだろう」


「それはそうですけど……」


 と言うか、これは口説かれていると解釈してもいいのかな。

 間違ってはいないと思うのだけど、何だか全く口説かれている気がしない。むしろ、土地や建物の購入でも勧められているみたいだ。


「無理強いをする気はないが、その場合は強硬手段に出るつもりだ。貴女をここへ軟禁し、私の事実上の妻として扱う。どうしても無理ならば、世継ぎは他の女との間につくれば良いからな。しかし、出来ればきちんと妻になって頂きたいのだが、どうだろうか?」


 いや、全力で嫌ですけど。

 嫌って言ったら一生幽閉するとか言われてすぐに「断る!」と言えるほどの勇者ではない。根っこは臆病者なのに。


「まあ、どちらにせよ、すぐに返事を頂けるとは思っていない。ゆっくりと考えたらいい。ただし、色々知ってしまった以上、ここから出す訳にはいかない。あのお目付け役の女性や従僕には帰って頂くが、会いたければ手配しよう」


 ダスティンはそう言って立ち上がると、ポールから剣を受け取った。


「では、後の事はお前に任せる」


「はい、お任せ下さい」


 胡散臭い笑みできちんと礼をしたポールを一瞥し、わたしに「では失礼する」ときびきび告げてダスティンは退室していった。

 残されたのは、どうしていいかわからないわたしと、ポールだけ。


 彼は小さく息をつくと、言った。


「また、会うことになるなんて思わなかったよ」



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