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23 ばれませんように


「ああ、ご挨拶が逆になりましたわ。殿下、まさかこのような形でお会いすることになるだなんて、驚いております。殿下のお母君であるフレデリカ様にはお世話になりました。元々、わたしはフレデリカ様の侍女でしたので」


 アニタは次にエリオットに向き直ると、美しい所作で挨拶をする。

 エリオットはといえば、彼女の言ったことに少し驚いているようだった。


「そ、そうなんですか。僕は母のことは何も知らないので」


「ええ、そうでしょうね。貴方を産んですぐにお命を落とされましたから。わたしでよろしければ、またいつか、フレデリカ様のことをお教えしたいと思っていますの。そのためにも、今日は陛下とお妃さまを無事に取り戻さなくては」


「そうですね。ただ、僕はそちらに参加出来ないので……少し悔しいですが」


「全て、将軍が何とかなさってくださいます。わたしたちは、わたしたちにしか出来ない役割を精一杯行いましょう」


 アニタの台詞に、エリオットは強く頷く。

 その様子を見ながら、わたしも頑張らなくてはと気持ちを新たにする。


「では、行きましょうか。手筈は整っているとのことでしたから」


『はい!』


 返事がエリオットとハモってしまった。

 わたしは驚いて彼を見る。彼もこっちを見ていた。

 その様子に、アニタが噴き出す。


「まあ! 何て仲がよろしいのかしら」


「たまたまですよ、たまたま」


「いいのよ。気が合う方がいるのは素晴らしいこと。では、行きましょう」


「はい」


 肩を落としたわたしと、赤面しているエリオット。

 何とも情けない限りだが、良い感じに気が抜けたような気がする。それから、アニタに続いて馬車に乗り込む。馬車はスタンリー将軍の持ち物で、他にも何台か並んでいる。

 わたしはエリオットとアニタ、彼女の従僕と共に乗り込んだ。広いので、四人詰まってもあんまり窮屈さを感じない。


 こういう馬車なら少しは酔いにくいかなと思いつつ、動きだすのを待つ。やがて、ゆっくりと車輪のまわる軋んだ音がして、馬車が王宮へ動きだした。

 すると、アニタが話をはじめた。


「スタンリー将軍からいきさつは聞いているわ。まさか他国から来て、こんなことに巻き込まれるなんて思わなかったでしょう? 悪い時に来てしまったわね」


「そうですね、こういうことになるとは予想していませんでした」


「でも、来て下さって良かったわ。貴女が通りかからなければ、殿下のお命は無かったのかもしれませんから。ありがとう」


 またしても礼を言われてしまい、わたしは何だか身の縮む思いだ。だって、当然のことをしただけなのに、こんなに感謝されるとは。


 世の中は不思議で出来ているのですか?

 きっとそうです。

 そうでなければ、社交界の端っこでこそこそ息をするしかなかったわたしが、こんなところで潜入任務の手引き役をするなんて、ありえないことです。


「いえそんな、本当に当たり前のことをしただけなんですから」


「でも、僕にとっては命の恩人です。ですから、絶対に危険な目にはあって欲しくありません。何度も言いますが、僕から離れないでくださいね!」


「わかってますって!」


 もう何度目になるのか良く分からないこのやりとり。

 アニタはくすくすと笑い、馬車の中が和む。


 それから会場へついてからの行動について軽く打ち合わせをする。基本的に一番危険な役割は同じ馬車に乗り込んでいるアニタの従僕のふりをしている彼が引き受けるとのこと。彼はそもそも将軍の部下なのだという。


 わたしたちの重要な役目は、彼らを壁の内側に入れるということ。

 王宮になっている城はぐるりと城壁に囲まれており、常に近衛騎士が巡回しているという。

 彼らの目を欺くことが、一番のお役目というわけだ。


 確認しながら、目の部分を隠す仮面を身につける。

 少し視界が悪くなるけれど、この仮面が頼りだ。


 やがて馬車が停まる。

 戸を開けてもらい外へ出ると、まだ記憶に新しい城が見えた。白い壁に、いくつもの塔が並んでいる美しい城だ。

 脳裏に、ひどい目に遭いながらもここに置いてと叫んでいた令嬢たちの姿が浮かんできた。

 

 ――あのひとたち、無事でいるかな。もっとひどいめにあってたりしなければいいんだけど……。


 今回もあの人たちを助けることは出来ない。

 ただ舞踏会に参加して帰ることが大切なのだ。わたしは小さくため息をついて、会場へ向かった。


「ダンスを踊る相手はわたしが選んでおいたわ。他の人に声を掛けられても、彼ら以外とは踊らないこと。具合が悪いとか何とか言ってすぐにわたしを頼るのよ、決して、無理はしないの」


「はい。大丈夫です」


 そのくらいのことなら出来る。出来なければ恥ずかしい。

 わたしはアニタに続いて、少しずつ集まり出している仮面を被ったり仮装している貴族らに混ざりながら見張りの近衛騎士がいる城門へ向かう。


 心臓の音がうるさい。


 どうかばれませんように。


 そう念じながらアニタの背中を眺める。彼女は近衛騎士に自分の名前とわたしについて事前に用意しておいた設定をなめらかに説明し始めた。


「あの子はわたしのいとこの夫の妹の娘なの。素性は確かよ……そろそろ適齢期だからこういう集まりを経験させてと頼まれたの。構わないでしょう?」


「なるほど、道理で慣れていない様子だ。いいでしょう、お入りください」


「ありがとう、さあ、行くわよ」


「はい、ありがとうございます」


 わたしは通りすがりに騎士に軽く挨拶した。騎士は特に疑問も持たなかったようで、そのまま中へ入れてしまう。

 実にあっさりと。

 それでも心臓が止まりそうになったけれど。


 振り返れば、騎士の側をエリオットと偽従僕がしれっとした顔で通り過ぎるのが見えた。微塵の動揺も感じさせないなんて、凄いなあと感心していると、エリオットがぴったりくっついてきた。

 従僕らしく、少しだけわたしより後ろにいるけれど、絶対に離れないという強い意志を感じる。

 

 その存在に安心感をおぼえ、わたしはアニタの後を追う。


 ここからは、ただの令嬢になるのだ。


 

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