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17 巻き込まれました


 諸々あって、今わたしは大きなお屋敷の応接間にいます。

 少し前まで、捕まって投獄されたあげく尋問されるのかと戦々恐々としてたんですけど、柔らかなソファに腰かけ、目の前には美味しそうなお菓子と香りの高いお茶が並んでいます。


 さすがのわたしでも食欲がありません。


 何というか、これまでは帰りたくないなあと思っていたのに、帰りたくなったら帰れないという物事が逆に進む事態に困惑しております。

 こんなにやることなすことが裏目に出ることは中々ないと思うんですよ。

 ええ、全くないなんてことはないんですけど。


 隣にいるエリオットとメイジーにとっても驚天動地と申しますか、びっくりしたといいますか、信じられないといいますか、夢にも思わなかったと思っていることでしょうね。とにかく、人間生きているともの凄くびっくりすることが起こるんだね、という教訓を身に着けました。

 

 わたし、ジェシー・バーバラ・クラリス・アンダーソンは今まさにそんな状況に置かれています。

 それをもたらしたのは斜め前の威厳ある声のやたらと大きい男性でした。

 彼は自分はバーギン王国の王国軍の将軍で、デクスター・ウィルフレッド・スタンリーだと名乗りました。


 そこからして信じられないんですよね。

 何がどう転んだら王国軍の将軍が一体わたしみたいな平々凡々、社会の隅っこでそれなりに平和に生きられたらそれが一番! みたいな人間と関わりを持つことになるのでしょう。

 軍人なんて、社交パーティーでちらっと見るくらいだよ。


 そのスタンリー将軍が語ったことを簡単に言うと、エリオットはこの国の王女だった人物の子どもだということでした。

 生きていれば女王になっていた人物の子ども。

 つまり王子。いや王太子だそうです。

 あっはっは。

 信じられますか?


 草むらで死にかけていた青年を拾ったら王子様でしたとか、どこのおとぎ話なのかと問いたい。というかその王子様も言われたことがいまいち呑み込めていないらしく、怪訝な顔で黙り込んでいる。

 わたしとて、何かを言うのも変なので黙り込んでいる。

 先ほどからこのお屋敷の応接間は静まり返っています。だって、誰も一言も発しないんだから当然ですとも。


 その沈黙を破ったのはスタンリー将軍だった。


「お話は、理解して頂けましたでしょうか?」


「……言われたことは、わかりました。でも本当にわかったかというと、気持ちが追いつかないです」


「そうでしょうな……我々とて、フレデリカ様に隠し子がおられるという話は出回っていましたが、眉唾物だと思っておりましたしな。まさか、本当におられたとは、いやはや驚きです」


 スタンリー将軍はそう言うと、お茶を一口啜る。


「でも、今まで放っておかれたのなら、どうして今頃になって急に命を狙われたり、探されたりしたんですか?」


「それは、陛下にお聞きになって下さい」


「陛下?」


 それは言わずもがな、このバーギン王国の国王陛下のことだろう。


「はい。貴方の存在に気づいた陛下が、何としてでも探せと命じられたのです。そして、自分の前に連れて来いと仰った。そこには理由があるでしょうが、一介の軍人には量れない何かがあるのでしょう」


「何か、ですか……?」


「ええ、ただ私の愚考に過ぎませんが、少し前まで王位継承権一位だったダスティン・モーガン・バーギン・ハドック……ハドック大公の令息ですが、彼の性質に問題があると陛下がこぼしておられるのを耳にしたことがあるのです。

 ですので、陛下は他の世継ぎをお探しになっておられたように思えます」


「それが僕だと……?」


「はい」


 そこまで横で大人しく話を聞いていたわたしだったけれど、ここに来てちょっと口を挟みたくなった。


「あのぅ、少し質問してもいいですか?」


「何か?」


「その、疑問なんですけど、世継ぎだったらポール・デイヴィッド・バーギン王子殿下がいるじゃないですか。でもそのダスティンっていうひとが少し前までは継承権一位だったって、どういうことですか?」


「と、申しますと?」


 訊ね返され、わたしは少し詰まった。

 ここまで来たら、ちゃんと理由を説明する必要がある。あのお金の出どころについての釈明もまだしていない。エリオットの恩人というだけで厚遇されているだけで、疑いが晴れた訳ではないはずだ。


「ジェシー様……大丈夫ですか?」


「うん、だって気になるじゃない。全然話が違うんだもの」


「話が違う?」


「ええと、その、実はわたし、この国の王太子に招かれてこの国へ来たんです。その王太子が花嫁選考会を開くので、ぜひリドルトン王国代表として参加して欲しいって……でも、そこへ行ったら突然帰れって言われました」


 思い返すのも嫌だけど、仕方がない。


「そうでしたか……実は、現在我々は王宮へ入れなくなっておりまして、状況が分からないのです。報告をしたいと言っても、文書だけしか通らない状態。陛下にもお目通りがかなわないのです……王宮は近衛騎士が固めておりまして、出入りしているのはごく一部の貴族たちと、その連れのみなのです」


「そんなことが?」


 到底信じられないが、スタンリー将軍は嘘をつくようなひとじゃなさそうだし、きっと事実なのだ。

 なんだろう、嫌な予感がするんですけど?


「現在、入り込んでくれる貴族を探しているのですが、すでに入れなかった者が多数でして、このままでは我々が王宮を襲撃せねばならないのではと」

 

「と言うことは、この国を誰かが乗っ取ろうとしている、という解釈でよろしいですか?」


「ええ、私の予想が正しければ」


 メイジーの質問に重々しく頷いたスタンリー将軍。

 心の中で、わたしは思った。


 ――とっとと帰りたい!



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