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11 ここへ来た理由


 次は昼食。


 それが済んだらお買い物をしようということで話がまとまった。今日の所は王都をうろうろしておいて、明日から別の町などに移動する。

 そこでは、特殊な織物が手に入るのだという。


 行かないと買えないということで、これも楽しみにしていた。


「やっぱり、いつもと違う場所に来るのっていいなあ」


 そんなことを喋りながら午後はお買い物に出かけた。見て歩いたのは、お茶を扱うお店や、菓子店、食器店だ。

 このバーギン王国は琥珀が結構有名とのことで、自分とメイジー用にペンダントを購入。母や姉にもと思ったけれど、お金の出どころを聞かれたら面倒ですとメイジーに突っ込まれて断念。


 お土産はお茶にすることにした。


 そんなこんなで、王都めぐり一日目が終わった。


 エリオットの話だと、連日宮廷劇場が開催されていたり、音楽会が催されたりしているとのこと。それらのうち、野外劇場は庶民にも開放されているというから、明日行ってみませんかと言われた。


 わたしはもちろん、行く! と即答していた。

 

「目まぐるしかったなあ。でも楽しかったからいいか」


 色々なものを見て、歩き回って、疲れているのに何だか眠れなくて、わたしは宿の共用スペースから外を見た。ここは三階建ての一番上だから、少しは街並みを見渡すことができる。

 

 異国の街並み。


 さすが王都だけあり、夜になってもまだちらほらと明かりが見える。


 馬車に酔うため、あまり出かけたことがなかったけれど、旅行というものに憧れがあった。こんな機会でもなければ、一生目にすることはなかったかもしれない。しれないが、こうなった経緯を思えば、複雑だった。


「帰りたくないなあ」


 ぽそり、とこぼれた呟き。

 誰も聞いていないからと思っていたからこそ、出てしまった言葉。

 しかし……。


「どうしてですか?」


「――っ! び、びっくりした」


 振り向けば、エリオットが不思議そうな顔でそこにいた。


「ど、どうしたの?」


「いえ、それは僕も聞きたいんですが。それに、どうして帰りたくないんですか。何か、嫌なことがあった、とか……?」


「え~と」


 果たして彼に事実を告げて良いものか。

 選考会のこととは全く関係がないから、言ってしまっても問題はないけれど、わたしの心の傷を、まだ知り合って日の浅いこのひとに教えるのは、何かが違う気もする。

 もちろん、国へ帰れば皆が知っていることだ。

 ボリスたちでも知っているから、そのうちどこかから耳に入ってしまうかもしれない。わたしはそう考えて、ため息をついた。


 だったら、誰かの口からこっそり耳に入ってしまうくらいなら、自分から言っておいた方がいいのかもしれない。

 気がつかない間に哀れまれるのは嫌だった。


「言いにくいですか? それなら無理には……」


「いいの。わたしね、婚約者に捨てられたの」


 言葉にしてしまえばなんと簡単なことだろう。その時の痛みも、苦しみも、諦めもたったそれだけで語れてしまうとは。


「それは、その……何かすみません」


「気にしないで。皆知ってることだから。この国へ来たのもそれが理由。少し、あの場所から距離を取りたかったから来たのよ」


 いつもの馴染みの風景が、嫌な記憶を思い起こさせる。だから、別の風景の中に身を置きたかった。それが、選考会の話を受けた一番の理由だ。


「でも、わかりません。だってジェシー様がそんな目に合わなければならない理由が一体どこに? まだ知り合って少ししか経ってませんが、僕には理解できないです」


 憤懣やるかたないといった風に怒ってくれるエリオット。

 それが、少し嬉しい。


「彼はこういうことを言ってたわ。

 本当は姉様が好きだったけれど、姉様には好きなひとがいたし、わたしのことを頼まれたから仕方なく付き合った。

 けれど、婚約して気づいた。わたしと結婚すれば、この先ずっと姉様が他の男と幸せそうにしているのをことあるごとに目にしなくてはならない。そんなことは耐えられないって」


 彼はまだ言った。


「わたし程度の容姿の女なら山ほどいるのに、こんな苦しい思いをしてまで結婚したくない。だから別れてくれって」


「ひどい……! 僕がいたら殴り倒しています!」


「いいの、だってね、姉様は本当にわたしの姉様なのか疑いたくなるほどの美人なのよ。あなたも見れば考えが変わると思うわ。今までわたしと姉様を比べて首を傾げなかったひとはいないもの。

 わたしに、自分こそはそうならない、自分は大勢美人を見てきたから大丈夫って言っていたひとでさえ、実際に姉様を見ればわたしと見比べてたから」


 はは、と乾いた笑いが勝手に出た。


 事実、父と母と私はよく似ていて、完全に家族そのものなのだけど、姉様だけどこかから拾って来たのではと疑いたくなるような存在なのだ。似ているのは色みだけ。


 母が確実に自分の産んだ子だ、と断言しなければ疑いが晴れないくらいだ。父も深く母を愛していて、信頼しているから、疑われていない。

 それくらい、美人なのだ。


 そしてわたしは、その妹として生まれてしまったのである。


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