王子殿下に愛されていなかった箱庭の令嬢
初、読み切りです。
本当に短いです。
「お前との婚約は破棄させてもらう。構わないな?拒否権なんてないが」
"どうして"
今の私の口からはその言葉しか出てこない。
"なんで、どうして"
何を言ってもみっともなく喚いているようにしか聞こえない。
でも、まだ倒れる訳には行かないと踏ん張り、彼を見据える。
すると、愛しい彼の隣にいる可愛い令嬢が声を出さず、口の動きだけで私に言った。
"あなたはあくやくれいじょうなんだから、だんざいされてとうぜんなの。しあわせになるのはヒロインなわたしだけなの"
悪役令嬢?ヒロイン?
そんな言葉、私は知らない。
でも、不幸なのは私。
幸せなのは彼女。
なにが、いけなかったの?
私は何もしてないのに。
彼は…王子殿下は言った。
「お前が彼女を傷つけた。なんでこんな事をしたんだ」
と。
眼に映る色彩がだんだん色褪せていく。
私が、彼女に何か出来るわけないのにね。
貴方が私を私自身のお屋敷に閉じ込めたのでしょう?
『お前が俺以外の男を見るのが嫌だ。お前が傷つくのを見るのが嫌だ』
と言って。
貴族の子息女達が行かなければ行けない学園にも、私行けないで、ずっとお屋敷に居たのよ?
貴方がそういうから。
私はそう言われた時、貴方に愛されていると思ったのに。違っていたの?
今、私を傷つけているのは貴方。
それに、彼女を傷つけた証拠として突き出された紙束。よく見なくてもわかるじゃない。家にずっと居た人間にできない事だって。
「わたくし、ずっと屋敷にいたのよ?彼女を傷つけられるわけ無いじゃない」
って言うと、
「そんなの人に頼めば簡単だろう」
と言い返してくるの。
どうやって?
どうやって人に頼めばいい?
私、貴方が閉じ込めるから、知り合いなんていないのよ?
私が知っている人は家族と王族の方々、家庭教師の方だけ。
これじゃぁ貴族の娘失格だわ。
まぁ、社交界にも出たことなんてないなら、私のことを知っている人なんていないのだろうけど。…知っていたとしても、姿を見せない王子の婚約者でしかないのよ?
…そんな私に、彼女を傷つけるなんて出来るのかしら。
…ねぇ。
貴方が私をお屋敷に閉じこめたのは、私が煩わしかったから?
私と話したくなかったから?
…学園で、婚約者を忘れて、彼女と親しくしたかったから?
ねぇ。
「王子殿下。…貴方は一度でも、わたくしを愛していてくださいましたか?」
私は笑みを浮かべて王子殿下に聞いた。
お願いだから、「はい」と、行ってください。
でないと……。
「一度も愛したことなどない」
私の心が壊れてしまうから。
「お前も俺のことなんて愛してなかっただろ?」
王子殿下は笑いながらそう言った。
その笑みと、言葉を視界に、耳に入れた瞬間、私の眼に映る色彩が全て消えた。
眼に映る全てのものが、色褪せてしまった。
わたしは、
……愛しておりました。
私には、わたくしには…貴方だけでしたのに。
貴方が、屋敷にいろと言うから、言うことを聞いて、家にいたのに。行きたかった社交界も、学園も、諦めて屋敷にいたのに。
貴方の為に自分自身の自由を捨てたというのに…。
貴方は私を認めてくれないのですか?
私を一欠片でも愛してくれないのですか?
………私は、貴方の隣に立てないほど、醜い見た目でしたでしょうか?
私は……。
「王子殿下。わたくしは、貴方様を、お慕い申しておりました」
私はその言葉を最後に倒れた。
私の言葉を聞いて、顔を歪めた王子殿下と、嘲笑うように王子殿下に纏わりつく可愛い彼女。
涙は流さない。
こんな人達の為に涙はなんて流さない。
そして、扉を叩き開けて、私の名前を叫んだ彼。
そういえば、彼は、家族でも王家の者でも、家庭教師でもなくて、仲良くしてくれた唯一の人だった。
…彼だけは、ずっと、笑って私に接してくれたわね。
ずっと、家にいて暇だったから、完璧になった王妃教育も。
王子殿下の為にと、必死に勉強して手に入れた頭脳も。
全部全部、無意味だった。
何のための18年間だったのだろうか。
私は彼に微笑んで意識を手放した。
遠くで、私の名前を呼んでいる声が聞こえた気がした。
とある国に、それはそれは綺麗な令嬢がいました。
令嬢の外出は自分の自宅と、王宮との往復のみでした。
国民の民たちはその令嬢の事を『箱庭の令嬢』と呼んでいました。
王家の者と民たちに見守られていた『箱庭の令嬢』は18歳のある日、馬鹿な王子のせいで、目覚めない、長い眠りにつきました。
王家の者も民たちも激怒しました。
顔が綺麗なだけで使えない王子と、王子の連れてきた令嬢。
顔が綺麗なだけでなく、あらゆる面で優秀だった『箱庭の令嬢』。
勿論皆んなが選ぶのは『箱庭の令嬢』でした。
その時に王子が連れてきた令嬢は喚き散らかしたそうです。
「私が、私がヒロインなのよ!?選ばれるのは私なの!!あの、悪役令嬢じゃないのよ?!なんで!なんでよ!!私が、主役なの!!!」と。
王家の者はその令嬢がトチ狂ったと思い、その令嬢を牢に幽閉したそうです。
この王家には、使えない王子と同い年の優秀な腹違いの兄弟がいるとかなんとか。
皆んなが目覚めるのを待ちわびている『箱庭の令嬢』は、未だに目覚めていません。
『箱庭の令嬢』を起こす、王子様は、だぁれ?
続く…かも、しれないです。
最後までみんな名無しの権兵衛。