第1部 一話 セクタでの決断
セクタ 王都より数百キロ離れた山奥にある農村である。のどかとしか言いようのない村には思いの外、若者の姿もあるようでそれなりに活気のある農村だ。この街には約百五十人の村人が住み、農作物、畜産などで生計を立てている。そんな村の中で比較的大きく住宅地区の真ん中に位置するのはセクタの村長であるルレハである。彼は現国王の妃の父、つまりカシュール王子らの祖父である。王子たちはこの家に今も住まわせてもらっている。
「おおい、カシュそこのバケツとってくれんかの」
「え、これ?はい、ルレ爺」
「おお、ありがとうありがとう」
といつものように農作業をしていた。
カシュと呼ばれたのはカシュール王子である。
「さて、そろそろ一回休憩でもするかの」
「そうだね」
国王家の血を引いたように金髪に青と赤のオッドアイ、父と同じように高身長ですらっとしたなかなかの男前である。祖父と共に畑を耕して、どうでもいい雑談をする。彼にとっての日常であり、幸せな時間でもあった。
第二王子は医者になる夢を叶え新たにできた新興国の宮廷医師になったと便りで送られてきた。一応身分は隠しているようだ。第三王子は一年ほど前他国に旅に出た。しばらくしたらまた帰ると行っていたが本当に帰ってくる気があるかどうかはわからない。
避難してから11年が経つ。王都は完全に制圧されたようで王都とその周辺では厳しい生活になるを得ないそうだ。セクタは辺境といっても差し支えない場所であり大きな被害は無い。
第二王子、17歳。ここで彼は大きな決断をする。