酢豚パーティーを追放されたパイナップル、余り物食材と最強デザートを作り上げる
厨房の奥、豚肉に呼び出されたパイナップルは、信じられない言葉を浴びせかけられていた。
「お前、クビな。オレの『酢豚』にお前は要らない」
「……え?」
パーティーのリーダーである豚肉の冷たい発言を理解できなかったようで、パイナップルの間抜けな声が響く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 『陳々軒』の営業が再開したら、今まで通り一緒に頑張ろうって言ったじゃないか!」
パイナップルは声を上ずらせながら話しかける。
彼らの働く中華料理屋『陳々軒』は食中毒を起こし、3日後に営業再開する予定となっていた。
「確かにそう言ったさ、でも少し考えたんだよな。オレは牛肉や鶏肉に並ぶポテンシャルがあるはずなのに、いつも売り上げは『青椒肉絲』や『油淋鶏』に負けている。何故かを考えた時、足手まといの存在に気付いたんだよ」
豚肉は淡々と言葉を紡ぐ。その表情は冷たく、まるで腐りかけだ。
「その足手まといが僕だってのか!?」
「その通りだ。お前だって自覚があるだろう?」
「ぐっ……!」
パイナップルは言葉に詰まる。確かに残されたり、直接嫌いと言われたことだってあった。
「でも……! ほ、他の皆はどう思っているんだ!? 酢っちゃん! 玉ねぎ!」
「気安く話しかけないで! 前々から、貴方のことはまとめきれないと思っていたのよ。酸っぱいという特徴も被ってるわ」
パーティーのまとめ役の酢が、酢なのに苦々しい表情で言葉を吐いた。
「その通りなんだな。なんにでも合う自信があるけど、君のことは無理なんだな」
いつも脇役に徹し、誰にでも合わせられることを自慢していた玉ねぎも、パイナップルを擁護はしなかった。
「そういう事だ。お前の見方は居ないんだよ! とっとと出ていけ!」
「うう……!」
今まで仲間だと思っていた皆の言葉に、唸り声をあげることしかできない。
「ねえ、豚肉……。営業再開の時に味が鈍ってたら困るし、今から練習しない?」
「そうだな、揚げられたオレの肉体の隅々まで、お前の存在を染み込ませてくれ……!」
「おいらも混ぜて欲しいんだな」
彼らは、まるでパイナップルのことなど元から居なかったかのように3人の世界に入り始めた。
そんな姿をパイナップルは見ていられず、静かにその場を後にする。
*
「くそっ、マスター! アナナス(※パインのお酒)を頼む!」
パイナップルは、酒場で1人酒をあおっていた。完全にやけ酒だ。
確かに、酢豚にパイナップルは必須ではないかもしれない。でも、あんな言い方は無いじゃないか。
愚痴を聞いてくれる者もおらず、嫌な気持ちだけが体の中心をぐるぐると回っている。
カウンター席でしばらく酒を飲んでいると、隣に別の客が座った。
「あれ、もしかして、リンゴちゃん!?」
「え? ぱ、パイン君じゃん!」
リンゴは、まるで泣き腫らした後の様に顔を真っ赤にしていた。思わぬ再開に驚いた様子で、顔の蜜をぬぐう。
「こんなところで1人でどうしたの? 確か、パーティーに入ったって嬉しそうにしてなかったっけ?」
「……うん、この前まではね。実は、ついさっきパーティーを追い出されちゃったの」
「え!? 僕とおんなじだ!」
「パイン君も!?」
2人は思わぬ偶然に顔を見合わせた。
「良かったら、聞かせてくれない? 話すだけでも楽になるよ」
「うん、ありがとう。私、『ポテトサラダ』に所属してたんだけど、リーダーのじゃがいもと喧嘩しちゃって。お前のシャキシャキ感は『ポテトサラダ』のほっこり感と合わないだなんて言われちゃってさ」
「それは酷い! シャキシャキしてるのなんてわかり切ってた事じゃないか!」
「だから私もつい顔を真っ赤にして『中華料理じゃないくせに偉そうにしないで!』って言い返しちゃってさ。そしたら、クビを言い渡されちゃった」
リンゴは悲しそうな表情で事情を語る。ふと、頬を蜜がつつーっと流れ落ちた。
「ごめんね、愚痴を聞かせちゃって。聞いてくれてありがとう、おかげで少しすっきりしたかも」
「少しでも元気が出たなら良かったよ」
「……こうなったら、私も飲んじゃうんだから! マスター、シードル(※リンゴのお酒)をお願い!」
リンゴも酒を頼み、お互いに愚痴りながらグラスを開け始めた。
「おや? もしかして、パインにリンゴじゃないか?」
「え? ……サイダー先輩!? お久しぶりです!」
パイナップルの横の席、リンゴの反対側に座っていた客に声をかけられる。その客も彼らの知り合いだった。
「珍しいな、今日は2人も知り合いに会うなんて。サイダー先輩はどうしたんですか、どうやら浮かない顔みたいですけど」
サイダーはパーティーを組まずに単独で行動するタイプだ。パインたちの様にパーティーを追い出されることはあり得ない。
「いや、最近自分の実力に限界を感じてな。大人に人気のビールや、定番の烏龍茶には勝てずとも、ジュースの中ではそれなりにやれていると自負してたんだが……。新参のコーラやジンジャーエールにも人気で抜かれて、ちょっと憂鬱になっていたところだ」
「……先輩も大変なんですね。私たちとは別の悩みがあるみたいで……」
単独で行動したことのないリンゴは、月並みな慰めしかいう事が出来ないでいる。
「サイダー先輩、元気出してください! 昔、自分の酸っぱさに悩んでいた僕のことを『酸味も魅力なんだぜ?』って励ましてくれたのは先輩じゃないですか! そんな先輩が悩んでいる姿なんて、見たくないです!」
「パイン……。そうだな、らしくないとこを見せちまった。人に偉そうなことを言う前に、自分がしっかりしなきゃな!」
パインの気持ちを聞いて、サイダーは気合を入れなおしたようだ。
「済みません、僕なんかが偉そうなこと言っちゃって」
「いや、おかげで元気づけられたさ。……よし、今日は3人で飲み明かそうぜ、この先輩のおごりだ! マスター、オレにミルク(※牛のお乳)を頼む!」
たまたま再会した3人は、沈んだ気持ちを吹き飛ばすかのように酒を飲み始めた。
*
「ふう、昨日は飲みすぎちゃったな」
翌日、パイナップルは1人歩いていた。パーティーを追い出されたためやることもなく、1人ぶらぶらしている。
「ん? あの子、さっきから川を覗いているな」
パイナップルの視線の先には白い物体があった。思いつめたかのような表情で、ぷるぷると震えている。
その様子が気になり眺めていると、突如、その川に飛び込もうとし始めた。
「危ない、何やってるんだ!」
「きゃあっ、放してください!」
パイナップルは思わず走り寄り、動きを止めた。白い物体はぷるぷると暴れている。
「落ち着け、君はまだ食べ物だ! だが、一度でも飛び込んでしまったら、もう生ゴミだぞ!」
「良いんです! 私なんて、なんの価値もないんです……!」
この様子、どうやら本気で飛び込むつもりだったらしい。パイナップルはどうにか落ち着けようとする。
「……良かったら、話を聞かせてくれないか? 僕なんかじゃなんの力にもなれないかもしれないけど」
「わかりました」
力で振りほどくのは難しいと判断したのか、それとも少しは気持ちが落ち着いたのか、暴れることはなくなった。
2人は近くのベンチに腰掛ける。
「私、杏仁豆腐っていいます。私、とても臆病で、いっつも他の豆腐仲間に引っ付いていたんです」
杏仁豆腐はぷるぷると震えながら、時折シロップをぬぐう。
「だけど、この前勝手に『麻婆豆腐』に入ってしまって……。豆腐さんに、『2度と近づくんじゃねえ、この偽物豆腐がっ!』って……!」
そこまで言って、その時のことを思い出したのだろう。ぬぐえないほどのシロップを大量に漏らし始めた。
「私、1人では何もできないのに、豆腐仲間から追い出されて。どうすればいいか分からなくなって……」
「それで、あんなことを。1人でもやれるポテンシャルはありそうなのに」
「分かっているんです。でも、どうしても勇気が……」
パイナップルは頭を悩ませる。彼女をどうにかして助けてあげられないだろうか。
「……!? そうだ、いいことを思いついた! 杏仁豆腐さん、ちょっと待ってて!」
「え?」
パイナップルは杏仁豆腐を尻目にスマフォを取り出すと、リンゴとサイダーを呼び出す。
ほどなくして、2人が現れた。
「ああ、頭がシュワシュワする。……なんだ、急に呼び出して?」
「それに、その子誰?」
2人は杏仁豆腐を気にしつつ、質問を投げかけてきた。
「この子は杏仁豆腐、さっきそこで出会ったんだ。実は彼女も僕たちみたいに仲間外れにされたみたい。そこで考えたんだ! 僕たちでパーティーを作れば良いって!」
「パーティーを? そうは言っても、何を作るんだ? オレはただのジュースだし、正直料理には役に立たないぞ?」
サイダーはシュワシュワと首をかしげる。
「その名も『フルーツ杏仁』さ! 思い切って、デザートで戦おうと思うんだけど、どうかな……?」
「なるほど……! 確かにそれなら、オレも役に立てるな!」
「デザートか……考えもしなかったわ。確かに、それなら私たちにピッタリね!」
2人は感心したように声を漏らす。
「3人だけだと中華っぽくないのが悩みだったけど、杏仁豆腐さんが加わってくれれば僕たちも胸を張って中華を名乗れる!」
「わ、私も加わっていいんですか……?」
「もちろんさ! 生ゴミになることはいつだってできる。でも、皆を見返してやりたいと思わない?」
「……うん! 不束者ですが、よろしくお願いします!」
ここに、4人の新パーティー『フルーツ杏仁』が結成された。
*
パイナップルがパーティーを追放されて3日目。ついに、『陳々軒』の営業停止が解除され、オープンされる日がやってきた。
『油淋鶏』や『餃子』など、そうそうたるメンバーが集まり、オープンに備え待機をし始めていた。その中にはもちろん、『酢豚』のメンバーの姿もある。
「ねえ、豚肉。そろそろオープンの時間よ」
「そうだな。ふんっ見ておけ、牛肉に鳥肉め。今日こそ足枷を外したオレが、売り上げナンバー1の座を奪ってやるぜ!」
「あ! 二人とも見て。あそこにその足枷がいるんだな」
玉ねぎの言葉に、2人がそちらの方を見る。そこには新生パーティー『フルーツ杏仁』のメンバーがいた。
「おいおい、あいつ新しいパーティーを結成したのか。ちょっと挨拶してやるか」
豚肉はパイナップルの方へ近づいて行った。
「よう、久しぶりだな、酸っぱいだけの能無し君」
「……豚肉、僕に何の用だ?」
「身の程知らずにも舞い戻った黄ばみ野郎に挨拶しようと思ってな」
「何よ、こいつ!」
「ムカつく野郎だな」
豚肉の挑発に、リンゴは顔を真っ赤にしている。サイダーも怒りで沸騰しそうになっている。と思ったら沸騰ではなく炭酸の泡のようだ。
「豚肉、僕たちはこの『フルーツ杏仁』で戦うことにしたんだ。もうあっちに行ってくれ」
「はっ! デザートに逃げるなんて甘ちゃんだな。どうせ対して売れずに、今度は『陳々軒』から追い出されちまうだけだろ!」
「うう、ひどいです……!」
度を越した挑発に、杏仁豆腐はシロップを滲ませている。
「話はそれだけか? それじゃあ、僕たちは準備させてもらうよ」
「おいおい、目障りだって話をしてるのが分からないのか? それならこういうのはどうだ? オレたちとお前らで売り上げ勝負をして、負けた方が『陳々軒』を去る。この勝負からも逃げるか?」
「わかった、引き受けよう」
豚肉はどうしてもパイナップルを追い払いたいようだった。今までの『酢豚』の売り上げの低さが全てパイナップルのせいだと思い、過剰なまでに逆恨みしていたのであった。
パイナップルは、無視しても無駄だと思い、勝負を受けることにした。
「はっ、面白くなってきたぜ。ぶっちぎりの1位が約束されたオレたちに勝てると思ってるのか!」
「やってみなきゃわからない」
豚肉は既に勝利を確信したかのように笑みを浮かべながらパーティーの下へ戻っていった。
「おい、こんな勝負を受けて大丈夫なのか!?」
「そうよ、味に自信が無いわけでは無いけど、相手は看板メニュー、こっちはデザートよ! その時点で圧倒的に不利だわ!」
「まあ見てなよ。僕に作戦があるんだ」
リンゴの心配はごもっともだが、パイナップルには作戦があるようだった。
*
ついに、『陳々軒』のオープンの時間となった。3日ぶりの開店に、常連客は次々と入ってくる。
「『油淋鶏』のセット1つ!」
「こっちは『酢豚』と『チャーハン』、あとビールね!」
客は席につき、次々と注文をしていく。
ちなみにセットとは、プラス500円で半ラーメン、半チャーハン、デザートが付くお得なセットだ。
「よし、早速『酢豚』が注文されたぜ!」
「あはっ! 『フルーツ杏仁』は全然注文されないじゃない!」
順調な滑り出しに、豚肉はほくそ笑む。
客はひっきりなしに訪れ、どんどん注文をしていった。
「『エビチリ』のセット!」
「こっちは『青椒肉絲』のセットをお願い」
もちろん、『酢豚』以外の人気メニューもひっきりなしに注文されていく。最初は『酢豚』も互角に見えたが、少しずつ他のメニューに押され始めていた。
「馬鹿な! パイナップルという足枷を外したはずなのに、鳥肉や牛肉に注文数で負けてるぞ!? このままじゃ『エビチリ』にも負けちまう!」
「……もしかして、パイナップル抜きになったことに気付いていないんじゃない?」
「そんなことないんだな。ちゃんとメニューに、パイナップル無しって書いてもらったんだな」
『酢豚』のメンバーは原因が分からず困惑している。
彼らは、気付いていなかった。
酢豚を注文しない客は、パイナップルが無くても注文しないのだ。逆に一部の人たちにコアな人気のあったパイナップルが無くなったことで、わずかに客を失っていたのだ。
減った客はわずかだが、注文数の順位を変えるのには十分であった。
「くそ、何故だ! ……だが、まあいい。『フルーツ杏仁』にさえ勝てばまずは目的達成だ。パイナップルを消してからじっくり対策を考えてやる」
豚肉はイラつきを押さえながら、客の注文に聞き耳を立てていた。
*
長いようで短い営業時間が終わった。3日ぶりの開店に、各パーティーは疲れ顔だ。
彼らは一堂に集まると、営業後の恒例である売り上げ発表の時間を待っていた。
「おっ、店長がきたぞ」
誰かの声で、皆が前を向く。『陳々軒』の店長が前に立ち、声を張り上げた。
「皆、今日はご苦労だった。3日ぶりの営業に関わらず、お客を満足させられたのは皆のおかげだ」
店長はまずねぎらいの言葉をかけると、売り上げ発表に入る。
「よし、今日の売り上げ数を発表するぞ。1位、『ラーメン』! 2位、『チャーハン』! 3位、『油淋鶏』!」
店長は淡々と名を呼んでいく。呼ばれた者たちはにわかに色めきだった。
「ちっ! やっぱり上位には入れなかったか。だが、あいつらに勝てたのは間違いない。くっくっく、今日がパイナップルの最後だ!」
豚肉はライバルに勝てなかったことに舌打ちするが、気を取り直し自分たちの名が呼ばれるのを待つ。
「……9位、『担々麺』! 10位、『フルーツ杏仁』! 11位……」
「な、なんだとぉっ!?」
「やった、やったよ、パイン君!」
「よしっ、狙い通りだ!」
10位という想像以上の高順位に2つの声が聞こえる。『フルーツ杏仁』のパーティーは喜びの混じった声、『酢豚』は唖然とした声だ。
「16位、『酢豚』! 17位……」
「馬鹿な、このオレが、このオレが……!」
自分たちの順位が呼ばれても、豚肉の耳にその声は届いていなかった。
*
売り上げ発表も終わり各自帰路につくが、『フルーツ杏仁』はまだそこに残っていた。
「あの、パインさん。どうしてあんなに売り上げが高かったんですか? 正直、最下位も覚悟してたのに……」
「そうよ、パイン君。からくりを教えて!」
「そうだね、実は……」
杏仁豆腐とリンゴの問いかけにパイナップルが応えようとしたとき、ずんずんと足音荒く豚肉が近づいてきた。
パイナップルの首根っこを掴む。
「てめえ、どんなインチキを使いやがった! おかしいだろ、全く注文されてなかったのによ!」
「おい、パインから手を放せ!」
サイダーが無理やり豚肉を引きはがす。パイナップルはからくりを話すことにした。
「簡単なことさ。『陳々軒』でもっとも注文されるメニューは単品じゃない、セットメニューだ」
「セットメニュー? それはわかるけど、だからどうしたのよ」
「まだわからないかい? セットメニューは、ラーメン、チャーハン、そしてデザートが付くんだ」
「デザート? あっ! ……てめえ、まさか!」
豚肉は理解できたようで、パイナップルを悔しそうに睨みつけた。
「そう、デザートに選べるようにしたのさ。バニラアイスの代わりに、フルーツ杏仁をね」
いつもはアイスしか選べないセットメニューに、突然現れたフルーツ杏仁。中華らしいそのデザートは、新メニュー故の物珍しさも相まって、なんと7割を超える選択率だったのだ。
「凄い、そんなことまで考えていたなんて……!」
「やるじゃねえか、パイン!」
「いや、これもみんなのおかげだよ。魅力のあるパーティーだったから、アイスの代わりに選ばれたんだ」
パーティーメンバーは口々にパイナップルを褒めたたえる。半面、豚肉はがっくりと項垂れていた。
「くそっ、オレも男だ。一度言った言葉は引っ込めねえ。おとなしく、ここを去ってやる」
「ちょっと待ってくれ、豚肉。確かに喧嘩別れになっちゃったけどさ、思い出してみなよ、『酢豚』を結成した時のことを」
「なんだ、そんなときの事……」
豚肉は、何を言い出すんだという表情でパイナップルを見る。
「『酢豚』を食べて喜ぶ客の顔がみたい。そう言って皆を誘ったじゃないか。僕だって元はと言えばその気持ちに打たれて『酢豚』に加わったんだ」
「……そうよ、豚肉!」
「僕は声をかけられて、とても嬉しかったんだな」
「酢っちゃん! 玉ねぎ!」
いつの間にか後ろに立っていた酢と玉ねぎが、豚肉に声をかける。
「お願い、豚肉! ここを去るなんて言わないで! 貴方がいないと、私……!」
「僕たちを引っ張ってきた豚肉がいなくなるなんて、考えられないんだな!」
「お前たち……!」
2人は、豚肉に縋りつく。豚肉は、わずかに目にラードを滲ませた。
「オレは馬鹿だった、負けるのも当たり前だな。パイナップルはオレや客たち、周りのことをよく見ているのに、オレはいつの間にか上ばっかり見ていた」
豚肉は天を仰ぎ見る。パイナップルは、そんな豚肉に手を差し出した。
「仲直りしよう。そして、初心に帰ろうよ。客の笑顔のことばかり考えていた、あの頃にさ」
「へっ、パイナップルに諭されるとはな。オレの完敗だ、本当に悪かった」
「ちょっと、豚肉!」
豚肉は、がばっとパイナップルに土下座した。彼なりの謝罪なのだろう。
彼を無理やり引き起こすと、『酢豚』は何度も謝罪とお礼を言ってその場を去っていった。
「パイン君!」
「わわっ、リンゴちゃん!?」
リンゴはパインに抱き着くと、顔にキスをする。パインはその行動に顔を真っ赤にしてしまう。
「はっはっは、顔が真っ赤だぜ! これじゃあどっちがリンゴかわかんねえな。……よし、今日は祝勝会だ! またこの先輩がおごってやる!」
「私もいいんですか?」
「当然だ、杏ちゃん! 先輩に任せておきな!」
「あ、杏ちゃん……?」
突然あだ名で呼ばれた杏仁豆腐は困惑するが、サイダーは気にせず皆の肩を抱き、街へと歩き始めた。
「祝勝会か……。よし、今日は僕もたくさん飲むぞ! 最強デザートパーティーの初勝利なんだから、盛大に祝わないとね!」
「お、いいじゃねえか。よし、今日はどっちがたくさん飲めるか勝負だ!」
「もう、あんまり羽目を外さないでよね」
「ふふっ。なんだか、もう楽しくなってきちゃいました!」
4人の楽しそうな声は、夜が明けるまで続いたのだった。