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1話    第四艦隊の悲劇

それは最初から一部の者たちが危惧していたことだった。


前年水雷艇の転覆事故が起きておりその対策に追われていた艦政本部は、

ある駆逐艦に起きた異変に注視していた。

高波に叩かれた船体に皺が寄っていたのを発見したのが事の始まりであった。

年若い技術将校が荒天時にはその駆逐艦・・・

特型と呼ばれる艦の使用を控えるように上申していたが

それは上層部で握りつぶされていた。


戦う船はいかなる状況でも出動するべきであり、

増して戦力で劣る帝国は猛訓練を課して敵国に対抗しなければならない、

そういう理屈である。


そのため訓練のために臨時編成された第四艦隊が出撃するときには

すでに台風の接近が告げられており一時は反転して退避することも検討されたが

それも訓練の一環として受け入れられたのであった。



「溺者発生、此の際油断大敵であることを銘記されたい。」


水雷戦隊旗艦よりの通達が旗下の全艦に通達された。


第11駆逐隊は前年の事故で姉妹艦の深雪を失っており白雪と初雪の2隻体制に

なっていた。


(風雨が強くなっている・・・気を付けないとね。)


(了解、衝突だけは避けたいね)


2隻はこの荒天時でも息の合った動きを見せていた、

乗り組みの者たちもすでに熟練の域に達しておりその点では不安はない。


そこに隊司令より連絡が入る。


「夕霧の艦首喪失、直ちに救援に向かわれたし。」


その連絡に艦橋に詰めていた者たちに緊張が走る。


「初雪、救援に向かいます。」


返信して夕霧の救援に向かう初雪に白雪から言葉が掛かる。


(気を付けて・・・なにかいやな感じよ。)


(うん、分かった。)


直ちに転舵して高波の中出せる限りの速度で向かう、

風雨はますます激しくなり三角波と呼ばれる波が襲ってくる、

波に叩かれて船体はがぶられており進むのも危険な状態に思えてくる。


初雪は自分の船体からだがギシギシと不快な音を立てるのを聞いて

不安な気持ちになっていた、そしてそれは現実のものとなる。


目標ゆうぎりまであと少しのところまできたところでそれは起きた。


ひときわ大きな波が迫ってくる、それに真正面から当たったところで

彼女はつゆきは異様な音を耳にする、

バキッ!バキバキバキッ!

その音が激しい風雨の中でやけに明確に響いた。


「状況報告!」


「艦首艦橋前より脱落!浸水します!」


「防水!僚艦に打電!{我艦首喪失!救援を乞う。}」


「航海!後進掛けろ、沈むぞ!」


「後進一杯!」


艦橋は混乱一歩手前、いや確実に混乱している。


初雪は痛みは感じることはないが自分の一部を失ったことで取り乱していた。


(どうすればいいの?助けて!白雪!)


傍にいない僚艦きょうだいの名を叫ぶ。


だが同時にここに来れば彼女も確実に同じになる。


彼女がこの混乱がほんの欠片のような前兆であったのを知ったのは後のことだった。





台風の去った後の第四艦隊は甚大な被害を受けていた。


艦橋前から船体を切断された夕霧と初雪以外にも艦橋破損や

船体に皺が寄ったものまで含めて半数の艦が何かの被害を受けていた。


ここに至って帝国海軍は事の重大さに気がつき、艦の強度の調査が行われ

問題ありとされた艦は改修のために次々と入渠を余儀なくされた。


初雪も曳航されて入渠し新しい艦首をつけてもらい船体の改修も行われた。


(けれど、艦首部にいた人たちは・・・)


ちぎれた艦首部は沈むことなく浮いていたため曳航を試みたが高波に阻まれて断念し

断腸の内に艦砲射撃で沈められた、そこに乗っていた54名ごとである。


(機密保持のためだとはいえ・・・私がああならなければ出なかった犠牲なのに。)


その事が彼女を苛む。


(もう!そんなに落ち込んでちゃだめでしょ!)


白雪の声がした、彼女は大きな被害は受けてはいないが、

同じ構造なので対策のための改装を受けているのである。


(あなたのせいじゃないし、私たちにはどうすることもできないんだから、

落ち込んでいたまんまじゃ{深遠}に引き込まれちゃうよ。)


彼女たちの間では時々{深遠}と呼ばれる物が艦を海中に引き込もうとする、

原因はさまざまだがかつて沈んでいった仲間たちはそれに引っかかったのだと

言われている。


(わかったよ、もう悩まない、今度は皆を護って見せるよ。)


(その意気だよ、がんばろう!)


励ましあうことで彼女たちは立ち直りつつあった。




ここまで読んでいただいて有難うございます。

誤字・脱字などありましたらお知らせください。

感想や評価などあれば今後の励みになります

よろしくお願いします。


なお本編はhttp://ncode.syosetu.com/n9471cb/です

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