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北の大地

パックがついに北の大陸へ到着!

ミリィを捜索するパックの旅はどうなるのでしょうか?

 どんよりとした雲が低く垂れ込め、鉛色の海面がひろがっている。

 とうとうこんなところまで来てしまった。

 パックは船端に身体をもたれかけ、水平線を見つめていた。となりにはブロンズの表面を輝かせたロボットのマリアが寄り添っている。

 ようやくのことで蒸気ムカデを積み込むことを承知した船を見つけ、北の大陸目指したのは一週間前のことである。ペラの町を出帆した船は、途中嵐に出会うこともなく、順調な航海を続けてきた。そして今日中には北の大陸にある、アンガスの町に到着する予定だ。

 アンガスは北の大陸で、コラル帝国の飛び地というべきところで、数十年前の紛争のさい、帝国に割譲され、いまはその領土となっている。ゴラン神聖皇国は何度となく帝国に領土の返還を交渉してきたが、帝国は拒否をしていた。

 ぶるっ、とパックは腕をさすった。

 風が冷たい。

 こんなことならもっと厚着をすべきだった。ペラを出たときはそんなこと考えもしなかったのだが、これほど北方に来ると、さすがに空気は刺すような冷たさである。アンガスの町に到着したら、さっそく冬着を買い求めようとパックはこころに決めていた。

「寒いのですか」

 マリアが話しかけてきた。

 パックはうなずいた。

「ちょっとね」

 マリアがパックに身体を押し付ける。パックは驚いた。

「おい……?」

「わたしの体の中にある蒸汽で温めることができます。どうですか?」

 ああ、とパックは返事した。確かに暖かい。金属の身体をしているマリアは冷たそうな見掛けであるが、彼女の動力源は蒸汽だ。とうぜん、暖かい。背中にふれたマリアの身体からじんわりと温かみがつたわる。

 マリアはいつでもパックを気遣う。まるで恋人のように……。

 なんだか気まずくなって、パックはそっとマリアの側から離れた。船首に歩くと、前方の水平線ちかくに黒々と陸が見えてくる。

 船首近くには、この船──パガス号──の船長が腰のベルトに手を引っ掛けるような姿勢で、じっと水平線の方向に眼をやっている。

「あれは……陸ですか」

 ああ、と船長はうなずいた。その顔は潮焼けで真っ黒だ。

「アンガスの町だ。ずいぶん、船が停まってるぜ」

 手をあげ、指さす。

 パックもそれを認めていた。

 船長の言うとおり、アンガスの港にはびっしりと船が停泊していた。

「どういうわけだろう。見たところ軍艦みたいだな」

 船長は不安そうにつぶやいた。

 軍艦?

「軍艦ということはゴラン皇国のものですか?」

 うん、と船長はうなずいた。

「ここらはいちおうコラル帝国の領土となっているが、もともとゴラン皇国のものだったからな。ゴラン皇国の船がたちよることは可笑しくないが、しかし海軍がでばってくることは条約違反だ。こりゃもめるぜ」

 近づくにつれ、ゴラン皇国の軍船ははっきりと細部が見分けられてきた。

 パックはあきれた。

 軍船というからにはもっと近代的な船を想像していたのだが、これはほとんど前世紀の遺物だ。

 蒸気機関はなく、三本マストに帆が張られている。高々とした船尾楼に、横腹にいくつもの砲門がならんでいる。

 美しい船ではあるが、近代戦にはまったく役に立たない旧式の船だ。

「これが軍艦……?」

 首をひねるパックに、船長は苦笑した。

「まあ、帝国の海軍を見慣れた目にはとても軍艦とは思えないのも無理はない。しかし帝国以外の国は、たいていこんなものさ。大砲は青銅だし、蒸気機関もないが、これでも軍艦には違いない」

 目の前を横切るゴラン皇国の軍艦をパックは見送った。船首や船端、さらに船尾にかけてごてごてと複雑な飾りがあしらわれ、軍艦というよりは童話の中からあらわれた、観光用の船にしか見えない。しかし船腹から突き出した大砲は本物である。パガス号には武器はない。あんな大砲でも、一発でも撃たれたら降参するしかない。

 

 息を潜めるようにしてパガス号はゴラン皇国の軍艦の側を横切り、アンガスの港に接岸した。

 さっそく港湾係員がやってきて、パガス号にラダーを横付けさせた。船長がまっさきに上陸し、係員に書類を差し出す。係員は書類の記載事項を確かめ、うなずいた。ふたりは事務所へ歩いていく。そこで審査が通れば、パガス号の乗客および乗員は正式に上陸が認められるというわけだ。

 やがて船長が事務所から出てくると、待ち構えている船員におおきくうなずいた。

 船員はほっとしたような表情になると、乗客を降ろしはじめた。

 パックのほかは乗客はあまりいなかった。

 アンガスの町に行商にきた商人の家族と、帰郷の途中の旅行者、吟遊詩人がひとり、それくらいである。

 問題はムカデの荷揚げ作業だった。

 パガス号のクレーンが動き出し、ムカデを搬入した木製のコンテナを吊り上げる。作業員が喚きながら、コンテナを下ろしていく。

「ありゃ、なにを積んでいるんです?」

 係員が好奇心にかられてパックに尋ねた。係員はこの土地のものなのだろう。むくむくと厚着をして、すっぽりと首に毛皮の襟巻きをしている。まわりを覗き込む住民たちもみな同じように厚着をしていた。

「えーと、乗り物なんです」

「乗り物?」

「蒸気で動く……」

 ああ、蒸気ねと係員は不得良にうなずいた。

 地面に下ろされたコンテナの木箱が作業員のバールでこじ開けられ、ムカデが姿をあらわすと係員は腰をぬかした。

「こ、こりゃなんだ!」

「だから蒸気で動くムカデ・ロボットだって!」

 パックが説明すると、係員はさらに怯える表情になる。

 そこへマリアがパガス号から降りてきた。

「そ、そいつはなんだ?」

「マリアです。彼女もロボットです」

 パガス号の船員や、乗客はすでに慣れていたが、やはり最初に目にしたときは同じような反応をしめしたことをパックは思い出した。

 ムカデにパックは乗り込み、蒸気機関の起動装置を操った。ボイラーに火をいれ、蒸気のバルブを開く。蒸気がシリンダーに送り込まれ、あちこちから白い蒸気があがりはじめると、係員やその場にいたアンガスの住民は驚きのあまり目をまるくさせた。

「どいて!」

 パックが怒鳴ると、あわてて人々は脇によけた。

 ぐい、とパックはレバーを動かした。

 がちゃ、がちゃと機械の音をたて、ムカデは生き物のように足を動かした!

 わあっ、と人々はちっていく。

 ひらり、とマリアがパックの後ろの座席に飛び乗って、ムカデは六対の足を動かして進みはじめた。

 ちらりとパガス号を見ると、船長が甲板から手を振って別れの挨拶を送っている。パックはそれに手を振り応え、町へとムカデを進めていく。

 

 アンガスの町に来て思ったことだが、やはりここは北の果てにあるということだ。町の家々は重々しいレンガ造りで、壁が厚く、窓は最小限の大きさである。家の屋根には煙突が突き出し、もくもくと暖房の煙を上げている。

 蒸気機関を使っている形跡は少なそうだ。しかし暖房に石炭を使っているかもしれない。もしそうでないと、いま乗っているムカデのための燃料である石炭をどうやって手に入れるかである。

 ムカデは石炭でなくとも、薪や木炭でも動く。しかし効率の点から考えると、石炭こそが望ましい。

 ぶるっと操縦席のパックは身震いした。

 寒い!

 はやく衣服を売っているところを探さないと、風邪を引いてしまう。背後からマリアがそっと身体を押し付けてきた。マリアの体内に燃えている蒸気の熱が、背中側にじんわりと伝わってくる。

「いいよ、マリア。そんなに蒸気の熱をあげると、君が動けなくなってしまうぞ」

「でも、パック様が寒そうなので」

「だから蒸気を無駄遣いするな、と言っているんだ。この町でムカデに積む燃料が手に入るか判らないんだ。君が動けなくなったら、おれが困るんだ」

 はい、とマリアは答えた。

 わずかに背中側の温もりが減じたようだ。しかしマリアはパックの背中に押し付けた身体を離さない。パックは黙っていた。

 しばらく無言でムカデを走らせる。

 町の人々はムカデを見てぎょっとした表情になり、そしてそれに乗っているふたりを見て興味津々といった顔つきになる。こいつに乗っていると、どこの町でも見かける反応である。

 ようやくおおきな店を見つけ、パックはマリアをムカデに残し、店内へ入っていった。

「ようこそ、いらっしゃいまし。なにをご用立ていたしましょう」

 店のドアを開けると、すぐに店主らしい小太りの男が揉み手をして現れた。前掛けと、袖をまくりあげたシャツという姿である。店内は暖房がきいていて、暑いくらいだ。

 パックはここで寒冷地向きの装備を整えた。

 フードつきのコート、ウールのジャケット、厚底の登山靴など。野営を考慮して、テントや寝袋なども購入する。あれこれ注文すると、結構な荷物になる。それをバッグにまとめて買い入れ、支払いをすませる。

 サンディに貰った貴金属がここで役に立った。いったんは突き返したが、サンディが無理やりに受け取らしてくれたのが、ありがたい。ペラの町でパックはそれを現金に交換していた。それでもこれだけのものを購入すると、かなり目減りする。

「この町で石炭は手に入りますか?」

 パックの質問に店主はさあてね、と腕を組んだ。

「町の連中は、おもに薪を使って暖を取っているようですな。もちろん、うちは石炭を使って暖房をしておりますが。ああ、石炭をどこでお求めになれるか、ですな。手前どもは港で買い求めております。アンガスの港にやってくる蒸気船のための石炭集積所がございまして」

 それを聞いてパックはがっくりとなった。

 また港に戻るのか!

 その日はホテルを探し、パックは投宿することにした。石炭を買い求めるのは明日にしよう……。

 

 翌日、ふたたびムカデに乗って、パックはアンガスの港へと向かった。

 聞いてみれば簡単なことだ。

 北の大陸ではまだ、ほとんど蒸気機関は普及していない。ここで蒸気機関を利用するのは、帝国から交易にやってくる蒸気船だけなのだ。そのため、港には船に石炭を供給するための集積所がある。

 港に戻ると、なにやら様子が変だ。

 パガス号が停泊している。

 妙だな。

 パックは首をかしげた。

 船長の話では、アンガスの港に着いたらすぐペラの港へ戻るため翌朝、はやいうちに港を離れる予定のはずである。しかし時刻はもう昼過ぎ、それなのにパガス号は碇を下ろし、港に停泊を続けている。

 港の係員を探し、石炭の集積所に向かう。

 集積所では数人の作業員が手持ちぶたさに煙草をくわえ、雑談をしているところだった。

 ムカデがやってくると、作業員はぎょっとした表情になった。

 パックはムカデから声をかけた。

「こんにちわ! 石炭を買いたいんだけど」

 ムカデを止め、パックはひらりと地上に飛び降りた。その後に、マリアも続く。

 マリアを見て、作業員はちょっと居住まいを正した。中にはあわてて髪の毛を直しているやつもいる。

 金属の身体を持っていることを別にすれば、マリアは印象的な外見をしている。

 ほっそりとした身体に、かすかな胸のふくらみを思わせるプロポーション。人間の女性そのままというデザインではないが、全体として若い女性を思わせるラインを持っている。そして歩く姿は優美そのものである。作業員たちは彼女を眼にし、にやにや笑いを浮かべ見とれていた。

「石炭を買いたい? あんたが?」

 作業員のひとりが口を開いた。がっしりとした身体つきの、顔半分を髭におおわれた男である。

「ああ、こいつを動かすためにね」

 パックは答え、ムカデのボディをぱん、ぱんと叩いて見せた。

 ほう……、と作業員たちは好奇心むき出しになった。

「こいつは乗り物かい? いや、すげえ機械だなあ……!」

 かれらはムカデの周りにむらがった。最初に口を開いた、髭の男がかれらを指揮し、ムカデに石炭を積みいれた。

 代金を払うときになって、パックは質問した。

「パガス号はなぜ出発しないんだ? 今朝早くに出帆するはずだろう?」

 ああ、と髭の男はうなずいた。

「昨夜、ゴラン海軍の提督が港湾事務所にお出ましになって、すべての船の出港差し止めを命令したんだ。それでいまは港には船は入港もできなければ、出港もできない状態さ。いや、災難だ。これじゃ、港にやってくる船に石炭や水を売ることも出来ねえ」

 一体何が起きているのか?

 パックの胸に不安が渦巻いた。

 

 港湾事務所の所長は怒りを抑えかねていた。

 じろりと事務所を占拠しているゴラン海軍の兵士を見やる。かれらは我が物顔に事務所を占拠し、すべての書類を押収した。所長はなすすべもなく、かれらの銃の脅しに屈していた。

「すぐ済みます。あんたには悪いが、これも作戦のひとつでね」

 にやにや笑いを浮かべつつ、事務所を占拠した大佐は所長のデスクに腰をおしつけ、筆記具をおもちゃにしている。

「どういうことですかな? アンガスの町はコラル帝国の領土となって半世紀になります。ゴラン皇国の干渉をうける筋合いではない。それどころか、これはあきらかな条約違反だ! 宣戦布告と見なされてもしかたがないのですぞ!」

 大佐は所長を見上げた。

 所長ははっ、となった。

「まさか……ゴラン皇国は……本当に?」

 大佐はうなずいた。

「さよう……わがゴラン皇国は貴国のコラル帝国へ宣戦布告をするつもりです。アンガスの港の封鎖は、その第一歩だ」

 ゆらり……と、所長の視界が揺らいだようだった。ふいに見慣れた事務所の内部が、よそよそしい場所に映る。

 宣戦布告……。

 当のゴラン皇国の大佐が明言したのだ。嘘ではありえない。

「このアンガスの港は戦略上、どうしても手放せない拠点だ。本日より、この港はゴラン皇国の直轄領となり、海軍の基地として機能することになるだろう。あなたには協力を願うことになる」

 所長はちからなく来客用の椅子にすわりこんだ。ぼんやりと自分の手を見つめる。

 どうすればいいのだ!

 そんな所長を見て、大佐は優しげに話しかけた。

「まあ、そう悩むことはありません。いつもの業務を続けてくれれば良い。ただし、コラル帝国の艦船が来航したときは、別ですがな……」


 石炭積み込み作業が終わり、出発しようとしたパックは、港のほうから近づいてくる軍装の一団を見た。

 古めかしい甲冑をつけ、手には大時代な剣と槍を持っている。先頭を歩く指揮者らしき男は、さらに膝までとどきそうなゆったりとしたマントをひるがえしている。

 がちゃ、がちゃと歩くたび甲冑が擦れ合い金属音を響かせている。日差しに金属の表面がきらきらと輝いていた。

 指揮官は石炭集積所前で一団を止め、声をはりあげた。片手に指揮を取るための乗馬鞭を持っている。

「われわれはゴラン皇国の第一歩兵旅団に属する警備隊である! 当日よりこのアンガスの港はゴラン皇国の統括することとなった! よってコラル帝国の艦船に燃料を供給するこの集積所もわれわれの管理することになる。集積所は本日から封鎖される。よってここで働くすべての者は、ただちに帰宅し、わがほうの連絡を待つように。給料は保証されるから、生活の心配はない!」

 なんだとう……と、髭の男が顔を真っ赤にさせた。ずい、と一歩前へ出て指揮官の顔を舐めるように見る。

「封鎖って、どういうことでえ? 給料は保証されるから家へ帰れ? 馬鹿言うない! そんなこと聞いていねえぞ」

 ざっ、と音を立て兵士たちは一斉に剣を抜いた。それを見て、男はたじたじとなった。

 指揮官は氷のような無表情で口を開いた。

「もう一度だけ言う。ただちに帰宅し、われわれの連絡を待て! 命令に従わないものは反逆者として処罰する!」

 すごすごと髭の男は退散した。ほかの作業員もそれを見て、ぶつぶつ文句を言いながらであるが、帰宅準備をはじめる。

 指揮官はそれを満足そうに見ながら、パックに気付いた。

「お前は?」

「パック」

 短く答えるパックに、指揮官は背後のムカデを興味深く見つめる。

「これはなんだ?」

「ムカデ」

「ふむ、確かにムカデの形をしているな。しかしどう見ても機械だ。ムカデの形をした機械だな。何をするものだ?」

「乗り物だ」

 パックの答えはあくまで短い。

 ちら、と指揮官の顔に苛ついたような表情が浮かんだ。

「どこの生まれだ?」

「ロロ村」

「ロロ村? 聞いたことない地名だな。わがゴラン皇国の人民には見えんな。帝国出身か?」

 パックがうなずくと、じろりと指揮官はムカデを見た。

「これは武器ではないのか?」

「違うよ。乗り物だよ。蒸気で動く」

 ふむ、と指揮官は鞭をふりあげ、とんとんと自分の肩を叩いた。

「まあ一応、この機械は没収することにする。おい! こいつを押収しろ」

 最後の言葉は部下に向けて命令したものだった。パックは叫んだ。

「没収? どうしてだよ!」

 じろり、と指揮官はパックの顔を見た。

「当たり前だろう。わがゴラン皇国はコラル帝国と宣戦状態にはいりつつある。そういう非常事態において、このような怪しい機械は接収することが当然だ。それとお前、パックといったな。お前も尋問することにする」

 がしっ、とパックの背後にまわった兵士がその両肩を掴んだ。

 マリアにも兵士たちが取り巻き、剣をふりかざす。

「マリア!」

 パックが叫ぶと、マリアは無造作に兵士たちの剣を手で掴んだ。ぐいっ、とひねると、あっけなく兵士たちはバランスを崩して倒れこんだ。

 パックもまた両肩を掴んだ兵士たちの手をふりほどき、ムカデに駆け上った。マリアも続く。

 指揮官がなにか叫んだようだったが、パックはムカデの起動に夢中だった。ボイラーに燃料を送り込み、蒸気の圧力を確認する。じゅうぶん、圧力が上がったのを見てとり、パックは蒸気弁を開いた。

 ぴいーっ、と蒸気の圧力で笛のような音が鳴り響き、シリンダーが動き出す。

 がちゃり……がちゃりとムカデは足を動かし、進みだした。

「止まれ!」

 指揮官が叫びながら追いかける。

 パックは無視してムカデを走らせた。

 そのうち重い甲冑を着込んだ指揮官は息切れしはじめた。よたよたと歩みがのろくなり、ついに地面にへたり込んだ。

 パックはちらりとそれをふりかえると、ムカデの速度を上げ、町を通り過ぎた。

「マリア! ミリィの居場所は判るか?」

 はい、と背後でマリアは返事をした。

「わたしはつねにバベジ教授のエイダと感応しております。エイダの感じるミリィと一緒に移動している存在の居場所は、いまも感じとれます」

 そうか、とパックはうなずいた。

 とにかく北の大陸に着いたのだ。

 目指すはミリィの居場所である。

「方向をしめしてくれ」

 こちらです、とマリアはパックの背後から腕をあげた。

 パックはその方向へムカデの舵を取った。

 

 部下にたすけ起こされ、警備隊の指揮官は唇を噛みしめた。

 部下たちに向け、矢継ぎ早に命令を下す。

「すぐあの機械のムカデの行方を追え! どう見てもあやしい奴だ。もしかすると、帝国のスパイかもしれん! わしはこのことを提督へ報告へせねばならん!」

 はっ、と部下たちは機敏にうなずくと、がちゃがちゃと甲冑の音を響かせ走り去った。

 それを見送り、指揮官はうなった。

「パックとか言ったな、あの小僧……。絶対逃がさんからそう思えよ……」

 かれは燃えるような目でパックの立ち去った方向を見つめていた。

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