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理想宮

シュバルの宮殿を見つけたギャンは、その秘密を悟る。一方パックは……。

 森にそびえる石の宮殿。

 それを見た瞬間、ギャンの全身に電流がはしったかのような衝撃が貫いた。

 見たのは初めてではない。

 なにしろ十数年前からシュバルがこつこつと築き上げてきたものだ。村の人間ならだれでも知っている。ギャンもまた子供のころ、好奇心につられて見にいっている。

 しかし形は異様でも、外側だけのだれも住めない宮殿にすぐ興味は失ってしまった。それきり、すっかり記憶から遠ざかっていたのだが……。

 しかしいま、こうして見るとその異様さが際立って見える。石をひとつひとつ積み上げた不規則なかたち。どれひとつとして同じ線はなく、なめらかではあるが平面だけの面もひとつもない。まるで悪夢のなかから迷いだしたようなその形。

 なぜこんなにも引き付けられるのだろう。

 ギャンは鉄人兵から地面に降りると、停まっている装甲車に乗り込んだ。運転席の部下に宮殿へ行くよう命令する。部下はすぐハンドルをきってシュバルの宮殿へ車を走らせた。

 近づくとさらに奇妙な感覚が強まっていく。

 ギャンの帽子に隠れた第三の目が反応している。

 見上げたギャンは目をほそめた。

 あたりの”魔素”が宮殿のまわりに渦をなしている。そしてそれはより強まっているようにも思えた。

 近づいてくるギャンを、シュバルが疑いの目で見ている。

「あんた、たしかシュバルとかいったな……これを作ったのか? ひとりで」

 声をかけられたシュバルはびくびくと怯えの目をあたりにさまよわせた。

 ギャンは車から飛び降り、ずかずかと近づいた。両手をのばし、シュバルの襟に手をかける。

「答えろ! なにか言え!」

 シュバルは目をしろくろさせた。なにしろ十数年もの間、ほとんど人と話したことがないのだ。

「どうしてだ! どうして、こんなものを作った? 誰がお前にこれを作れと命じた?」

「い……石が……」

「なに?」

「石がささやくんだ……」

 ぱっ、とギャンは手をはなす。くたくたとシュバルは地面に腰をおろした。顔色が真っ青になっている。その手に握られた石をギャンはもぎとった。

 じっとその石を見つめる。

 表面に刻まれたかすかな渦巻き模様。

 それを見た瞬間、ギャンは理解した。

 これは……魔王の城を作っていた石だ!

 そうだ、ロロ村はもともと魔王の城が建っていた場所なのだ。だからその城を形作っていた城の破片が小石になって散らばっていても不思議ではない。シュバルはその石の魔力に反応する能力を持っていたのだろう。

 城にかけられた魔法は、あらゆる攻撃から城を守る性質のものであったはずだ。しかし勇者によって魔王が倒され、封じ込められたあとは魔力のうせた世界で徐々に崩壊するままになっていたのだ。しかし石に封じられた魔力に感応するシュバルによって、ふたたびもとの数分の一になっても魔力を吸収する形となって蘇った……。

 魔王はその魔力を高めるため、城を必要とした。城のあらゆる形態は、世界に存在する”魔素”を集め、強めるための形なのだ。

 城は魔力のレンズとなっているのだ!

 そしてその焦点にあたるのが……。

 石の宮殿の最上階にあるこの部分。おそらく本物の城では、ここは地上数十メートルの高さにあったことだろう。この部分に城のあらゆる場所から集められた魔力が集中し、魔王に絶大なパワーを与えていたはずだ。

 これを本物にしなくては!

 まだこの城は模型に過ぎない。いわば本物の城を作る際の、雛形である。

 ギャンは部下のトラン中尉を呼び寄せた。

 トラン中尉はすぐさまその太った身体を運んできた。

「中尉、すぐさま記録係を呼べ」

「はっ!」

「この石の宮殿を、あらゆる角度から記録しろ。写真をとれ! いいか、どれひとつかけてもいかんぞ。つまり……これそっくりのものを、すぐさま建造できるだけの資料を作成するんだ。写真だけじゃない、測量もするんだ。とにかく綿密な記録を頼む」

 判りました! とトラン中尉は即答した。

 かれが去った後、ギャンは興奮していた。

 これでつぎの目標が見えた。なんとかしてこれを本物にしなくてはならない。

 それにはどこに城を建造するか。

 その候補地はすでにギャンの胸にあった。

 それはボーラン市の王宮であった。

 

 ギャンは凱旋した。

 ロロ村の奪還、そして共和国軍の壊滅とギャンの戦果はすぐさま王宮に報告され、首都はこの若い軍事の天才を迎える準備におわれていた。

 きらびやかな衣装を身につけたブラスバンドが行進曲を演奏し、その後から帝国軍が進軍していく。首都のメイン・ストリートには華やかな勝利をはたした噂の新兵器、鉄人兵を一目見ようと大勢の群衆が押しかけていた。えんえんと続く装甲車や戦車、兵員輸送車の列の最後に鉄人兵の巨体が現れると、群衆は熱狂的な声援をおくる。

 大通りに面したすべてのビルの窓が開け放たれ、紙ふぶきが舞った。

 その中を、ずしりずしりと重々しく鉄人兵が歩んでいく。操縦するのはもちろん、ギャンである。鉄人兵の巨体に、見物人は一人残らずあっけにとられ、ついで熱狂的な歓呼の声をあげた。新聞記者はみなカメラをかまえ、フラッシュを焚いて一枚たりとも撮り漏らさないよう、必死になってシャッターを切っている。新聞の一面はもちろん、ギャン少佐の顔のアップである。金髪の若いハンサムな少佐の登場はセンセーショナルであった。

 ロロ村を救ったのがギャンと知って、パックはホルストと一緒に見物に出かけていた。マリアも一緒である。パックの行くところ、つねにマリアも従う。

「驚いたな……あれがギャンなのかね?」

 ぽかんと口を開け、ホルストは鉄人兵を見送った。ホルストはキオのサーカスで着ていた魔法使いのローブを着ていた。あれ以来、すっかりこの格好が気に入ったようで、団長に頼んで譲ってもらったのである。

「ずいぶん変わった、まるで別人ですよ」

 パックの答えに、ホルストは首を横にふった。

「いいや、そんなものではない。もっと本質的なものじゃ! 顔かたちが少々変わっておっても、わしはそんなものに驚くことはない。わしが驚いたのは、ギャンのやつきわめて強い”オーラ”をまとっていることなのじゃ」

「”オーラ”? なんです、そりゃ」

 ぽん、とホルストは額をたたいた。

「ほ! 言っておらなかったかな? ”オーラ”とは、魔力を操ることの出来る者が身にまとう”魔素”の流れなのじゃ。強い魔力を持つものは強い”オーラ”をまとう。わしにもある。しかしあのギャンの”オーラ”は桁外れじゃ!」

「前はなかったんですか?」

「そうじゃ。わしがロロ村でギャンを見ていたときは、あのような”オーラ”はまとっておらなかった。どういうことじゃろう……いつの間に、あやつはあのような強い”オーラ”を身につけたのじゃろう?」

 心底不思議だというように、ホルストは唇をかんだ。

 そのときマリアが口を開いた。

「エイダに聞くべきです」

「エイダ?」

「ほら、バベジ教授のところで見た……」

 あっ、とパックとホルストは顔を見合わせた。

「あの時、確かボーラン市に強い”魔素”の集中があると言っておったな。そうか、このことじゃったのか!」

 うむむむ……! と、ホルストは天を仰いだ。

 

 パレードが終わると査問会がギャンを待っていた。

「査問? おれにか」

 はっ、とトラン中尉は背筋をのばした。

 なんだろうとギャンは首をかしげた。

 少佐になると軍令部で個室を与えられる。士官部屋でギャンはくつろいでいたのだが、突然査問委員会が開かれ、かれを招聘すると通達したのである。

 ともかく出て見るか、とギャンは立ち上がった。トラン中尉が忠実な犬のようについてくる。ギャンはちょっと眉をひそめた。

「あんたはついてこなくていいよ。呼ばれていないんだろう?」

「しかし……」

 何か言いかけるトランに手をふって追い払うと、ギャンは軍令部の通路を大股に歩き出した。途中で出会う帝国軍の将校は、ギャンを認めると一瞬気おされるような表情を浮かべる。軍帽を目深に被るギャンからは、一種異様な迫力がただよっているのだが、それが”オーラ”のせいであることはわからない。が、なにかただならないものを誰も感じるのだろう。

 査問委員会の会場に着くと、衛兵が扉の両側に立っている。ギャンはその前に立ち名前を告げた。衛兵はうなずき、扉を開けた。

 U字型の机にずらりと将軍級の士官が勢ぞろいしているのを見て、ギャンはやや緊張した。

「ギャン少佐かね?」

 はっ、とギャンは背を伸ばした。質問されたこと以外は答えてはならない決まりである。

 正面の、肩幅が広く恰幅の良い中将の階級をつけた男が両手を組み合わせた。

「当査問会はきみの昇進について質問したいと思ったのだ。それできみを呼んだのだが、ひとつ質問したい。なぜ昇進を断ったのかね?」

 ギャンは少佐から大佐への昇進を断っていたのだ。打診があったのだが、ギャンは言下に断った。少佐になるのはひとつの目的達成であったが、それ以上の昇進はギャンの目的にはかなわないからだった。大佐に昇進すれば権力が得られるが、同時にさまざまな責任がのしかかってくる。これからいろいろ独自の行動をしなくてはならない今、面倒な責任など負えるものかというのがギャンの結論である。どう答えるか、とギャンは唇を舐めた。

「ぼくはまだ若い。こんな若さで大佐になった例がありますか?」

 ギャンは将軍たちにとっておきの笑顔を見せた。若者特有の、無遠慮な笑い。明るく、まぶしいくらいだが、すこし軽薄な印象を与える笑顔。思惑は成功した。居並ぶ将軍たちの顔にやや安堵感が浮かんでいた。

「ぼくについている侍従のトラン中尉は二十も年上です。中尉一人を私淑させることさえできないぼくに、ベテランの将校がしたがうと思いますか? 無理ですよ。ぼくはこのままのほうがやりやすいのです」

 ふむ……、と将軍たちは肩をすくめ顔を見合わせた。

「まあ昇進の話しはこれまでにしよう。もうひとつきみに聞きたいことがあるのだ。なんでもきみは首都の防衛のため、あらたな計画を提出したそうだが、その詳細について聞かせてもらいたい。王宮の改築がそれには含まれているが……」

「提出した書類に設計図が含まれていたはずですが……」

 ギャンの言葉にかれらは思い出したように書類入れを取り出した。それらをめくり、ギャンが提出した設計図をひろげる。

「その設計図にありますように、王宮の尖塔、石壁などのデザインを変更したいのです。これにより”魔素”の集中をはかれます」

「”魔素”」

「テスラ博士の発見したものです。この空中には、”魔素”と呼ばれるものが漂っており、それを利用することによりさまざまな効果があらわれるのです。あの鉄人兵にもその原理が使われており、共和国軍との戦いに勝利したのもそのせいなのです。これからの戦いに”魔素”は重要な要素となります。くわしくはテスラ博士の報告をお読みください」

「”魔素”まさか魔法のことを言っているのかね? わが帝国軍に魔法が必要というのか?」

 将軍たちは疑わしそうに言った。ギャンは首を横にふった。

「いいえ、そんな非科学的なことではありません! 確かな科学です。とにかくこれからの首都の防衛にこの計画は必要なのです」

 ギャンは言葉の一言、一言にちからをこめ身を乗り出した。自然な仕草で帽子を取る。

 はらりと金髪がたれ、額の第三の目があらわれた。

 第三の目がぐっと見開かれた。

 その場にいた全員がぽかんとうつろな目になった。

「いいですか……首都は危険なのです……魔法による攻撃を防衛するために……この計画は必要なのです……」

 ギャンの声が将軍たちの耳にしみこむにつれ、かれらはまるで機械のようになんども頷いていた。

「そうだ……必要だ……」

「首都は魔法にたいして無力だ……」

「その計画を進めなくては……」

 かれらはすっかりギャンによって催眠状態に陥っていた。

 ギャンはにんまりと笑った。

 成功だ!

 かれらの後押しで、王宮の改造計画は進むだろう。そして王宮がシュバルの宮殿の拡大版となったあかつきには、増大した”魔素”を使ってギャン自身が首都を支配するのだ。

 

 パックたちはニコラ博士のもとへ出かけた。

 バベジ教授を訪れるため同行を求めるためである。

 ニコラ博士の研究室のドアを開けたパックは驚きの声をあげた。

「サンディ!」

 博士のとなりにサンディが座っていたのである。彼女はパックを認め、気弱な笑みを浮かべた。

「パック……」

「どうしたんだい。心配したんだぞ!」

「ご免なさい」

 しおらしくサンディはうつむいた。

「あれからわしのところへ来てな、行くところがないそうなんじゃ」

 ニコラ博士が説明した。うなずいたパックはサンディに話しかけた。

「ねえサンディ……きみ、皇帝陛下の……?」

 はっ、とサンディは顔を上げた。

「聞いたの?」

 うん、とうなずくパックにサンディはつと顔をそらせた。

「隠してて悪かったわ。そうよ、あたしは皇帝の娘。王宮から逃げ出して来たの」

「いったいどうして?」

「来月、あたし十五才になる。そうなると宮廷の慣例として結婚しなくてはならなくなるの。相手は友好国の公子か、あるいは有力な貴族の子弟、軍人相手も考えられる。でもあたしの希望はだれも聞かない。そんなのいや! 結婚はいつかしたいけど、だれかに決められるのはいやなの!」

「それでか……」

「パック、あたしいまは王宮に帰りたくない。ね、分かって。だからミリィを探すたびに一緒に連れて行って。きっと役に立つから」

「しかしなあ……」

 パックは頭をかいた。

 どうしようか、とニコラ博士を見る。博士はこれはおまえの問題だとばかりに眼鏡をわざとらしくハンカチで拭いていた。

 ため息が出た。

「しょうがないなあ……」

 ぱっ、とサンディの顔が明るくなる。

「じゃ、一緒に行っていいのね!」

 きゃあ、と叫んでサンディはパックに抱きついた。

 お、おいよせよ! と、パックは真っ赤になった。

 ニコラ博士が口を挟んだ。

「それでお前たち、ミリィを探しに旅に出るのかね?」

「ええ、お金もたまったし……その前にバベジ教授に会わないと」

「バベジに?」

「エイダという……」

「あの思考機械か? あれになにか用があるのかね」

 パックはギャンのことを話した。

 話を聞き終わり、博士は眉を上げた。

「ギャン? あの跳ねかえりの少年か。首都に来ているのか……」

「しかも帝国軍に入っているんです」

「あいつはたしかパックより二才年上だったな。ということはまだ十五才。十七才にならないと軍に入ることは出来ないはずだが……それが少佐。うーむ、信じられん」

「そのギャンのことを知るため、エイダの話を聞くべきだと思うんです」

 わかった、と博士は自分の膝を叩いた。

「それじゃ行こう。ついておいで」

 さっさと立ち上がると、大学の通路に歩いていく。

 あわててその後についていくパックは尋ねた。

「ちょっとまって……ムカデは?」

「その必要はない」

 ニコラはにやりと笑った。

 

 大学の構内にバベジ教授の研究室はあった。

 入ってすぐパックは驚きの声をあげた。

 なんとそこにエイダがあったのだ。床を埋め尽くす蒸気のパイプ。垂れ下がる電線、壁に取り付けられた電気部品。それらの集積の頂点に、エイダの巨大な頭部が安置されている。

「やあ、いらっしゃい」

 バベジ教授はパックを歓迎した。

「かれの研究は自宅でやるより、大学のほうがいろいろ設備も充実できるし、わし以外の研究者の助言も受けられる。ということで大学当局にかけあって、ここにかれの研究室を設置することにしたのだよ」

 ニコラ博士は得意そうに言った。

「最初気が進まなかったのですが、こっちに来て部品もすぐ手に入るし、ほかの学部からの見学でヒントが手に入ったり、やはりこちらへ来て良かったです」

 バベジ教授はこころもち明るくなったようだ。顔色が前よりいい。

「バベジくん。エイダを動かしてくれないか。聞きたいことがあるんだ」

 ニコラ博士に頼まれたバベジはうなずいてスイッチを入れた。すぐさま壁の装置に明かりがともり、エイダの瞼が持ち上がった。

 彼女はゆっくりとあたりを見回し、パックに目を留めた。

「ひさしぶりです。パックさん」

 彼女の声は研究室内に重々しく響いた。

「ミリィを探しに行かれるのですね」

 パックは驚いた。

「おれ、なにも言っていないぜ」

「それくらい分かります。あなたの顔に、まえにお目にかかったときになかった決意の表情がありますから。しかしミリィのいる場所はマリアに伝えられるからわたしにわざわざ会いにいらっしゃったということは、ほかになにかお尋ねになりたいことがあるのでしょう?」

「なんでもお見通しなんだなあ!」

 パックはギャンのことを話した。エイダは目を閉じた。

「そのギャンという少年ですが、あきらかに魔力を持っていると思われます。ロロ村での出来事とあわせて考えますと、おそらくヘロヘロが魔王として目覚めたとき、その属性を受け継いだのではないでしょうか? 魔王となるにはきわめて破壊的な衝動、邪悪な意思が必要ですが、ギャンと言う少年はそのふたつともヘロヘロより上だったのでしょう。それでヘロヘロの”オーラ”がギャンに移動したのではないでしょうか? 魔王の”オーラ”はヘロヘロよりギャンを選んだといえるかもしれません」

「ギャンが魔王の力をヘロヘロから盗んだ、というのかい? それじゃヘロヘロはそのことを知っているのか?」

「それは考えられません。ヘロヘロ自身はいまでも自分が魔王だと思っているでしょう。しかし魔王としてのちからを失い、不思議がっているかもしれません」

「これからギャンはどうなるんだろう。魔王になるのか?」

「分かりません。もともと魔王だったヘロヘロと、人間のギャンでは違いがありすぎます。人間の身体で魔王のちからを身につけるには無理があるのではないでしょうか。もしかしたら副作用があるかもしれません」

「副作用?」

 パックはパレードで見たギャンの横顔を思い出した。

 人が変わってしまったようなかれの横顔。

 

「やはり行くのかね」

 翌日、パックはムカデにマリアとサンディを乗せ、ボーラン市のはずれにいた。見送りにニコラ博士とホルストが出ていた。

「いろいろ有難う。博士、それにホルストさん」

 いいさ、とホルストはうなずいた。

「ミリィを見つけたら、マリアを通じて知らせてくれ。マリアとエイダは感応しあっているから、マリアの見たものはエイダも見ることが出来るから」

 ニコラ博士の言葉にパックは頷いた。

 それじゃ、と手をあげパックはムカデのアクセルを踏み込んだ。

 しゅっ、しゅっと蒸気を噴き上げ、ムカデは六対の足を動かし始めた。

「それじゃあ……行ってきます!」

 別れを告げ、パックはムカデに乗って北を目指した。

 サンディはムカデの後部座席に乗り、ボーラン市をふりかえった。

 遠く、ちいさく王宮が見えていた。

 それを見るサンディの目はかすかに潤んでいるようだった。

やっとパックが旅に出ることになりました。次回はミリィに話しがうつる予定です。

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